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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二.五章 再会までの話
33/60

ヴェルディオン街にて

森を抜けると少し離れた場所に既に街壁が見えていた。

同時に街壁の外に多くの人影が集っているのもだ。


「やっぱり、予想通りね」


森の中で話したことだが、シーアは街から人が溢れていると予想していた。

この世界では旅をする人は少ない。

一部の商人と一部の冒険者、後は極稀に何らかの用事で貴族が領地を移動するくらいだ。

そのため、宿が少ないのだ。


ヴァハラ帝国が今回のデュラハンの襲撃に備えて行った政策は大きく二つ。

一つはヴァルキの領主の交代。

旧ヴァルキ王及びその一族を追放する形になったが、帝都から直接騎士団を出し、防衛戦力の増強と治安の維持を図るはずだった。

結果から言えばこの政策は失敗に終わった。

治安は悪化し、騎士団は住民と共に逃げ出す始末。

ヴァハラ皇帝は旧ヴァルキ王が今までどうやって治安を維持していたのかと頭を抱えることになった。


もう一つは周辺の街における受け入れ準備作業だ。

宿の増加、食料の補蓄、警備兵の増加などだ。

これによって仕事の増えたヴァルキ周辺の街はより賑わい、ヴァハラ皇帝の予想を上回る発展を遂げようとしていた。


そんな中でデュラハンの襲撃は起こり、ヴァルキの人達が逃げてきたのだ。

発展の途中だった周辺の街には退去する予定の商人や職人が残っている為、住める場所が不足する事態に陥ってしまった。


アシウェル達が到着したこの街、ヴェルディオンでも同様の事態になっている。

壁の中にも広大な土地があるのに、皆が壁の外にいるのは農地を潰すわけにはいかないからだ。

今後の自分たちの生活が懸かっている食料なのだ。

自分たちで駄目にして自分たちの分がなくなるという事態だけは避けねばならない。

そのため、街中に続く道にずらりと並んで、その列は街の壁の外まで伸びているわけだ。


他人を押しのけて少しでも前に進もうとすれば当然のように騒ぎになり、警備兵や騎士団、もしくは周囲の連中に街の外まで追い出されることになる。

そのため、黙々と順番を守って並んでいるわけだ。


そんな中、“水乱舞”の三人は臆することなく真っ直ぐに門に向かう。

アシウェル達は他の人達の睨み付けるような視線に竦みながらも三人の後を追う。


堂々と門に近付いていくと中から警備兵が十人ほど出てくる。

その警備兵達は一人を除いて武装をしておらず、代わりに台車を三台牽いてきた。


武装している警備兵がシーアに声をかける。


「ご協力、感謝します。ギルドまで運びます」

「お願いします」


その間に残りの九人がアシウェルやサフィアが持ってきた魔物の肉、及び素材を台車に積んでいく。

やっと重い荷物から解放されたアシウェルとウォーグルは大きな溜息を吐き、サフィア達は伸びをしている。


素材を積み終わると、大人たちはスタスタと歩き出す。

一息ついていたアシウェル達は慌ててそれを追いかける。

その際、ウォーグルがさりげない仕草でチーシェルからヴェルマを取って背負っている。


並んでいる人達の横をすり抜けて、街の中腹にある冒険者ギルドまで移動する。

相変わらず睨み付ける視線は存在するが、何かしてくる者はいない。

理由はやはり食料にある。

食料を持ってきた者は優遇されるのだ。


ギルドの裏で素材を渡し、ギルドカードを提示する。

ギルドの中にも素材の引き取りカウンターはあるのだが、素材が大きかったり、多かったりすると、こうしてギルドの建物の裏に運ぶことになる。

ただし、報酬や素材の売却金はギルドの中で渡されることになる。


素材の売却金なんかはきちんと受け取れるようにギルドカードに登録してある魔力で判断している為、提示した本人が来なければ受け取れないようにしてある。

同時に利便性を増すためにギルドでは銀行のような仕事もしている。

冒険者に限るが、お金を預かって、本人以外には決して渡さない仕組みだ。

これらは、以前友人や代理人を名乗ってお金を盗むといったことが起こった為、本人からの承認を受けた者を除いては、たとえ家族やパーティーメンバーでも渡さないようになっている。


シーアは売却金はギルドに貯金するように頼んで、一度ギルドの建物内に入る。

いつものこの時間なら狩りから戻って来た冒険者で溢れているはずのギルドだが、そこに冒険者の姿はほとんどなかった。

シーア達は真っ直ぐカウンターに向かい、そこに座る受付嬢に声をかける。


「こんにちは。ご用件を承ります」

「“水乱舞”の預金からお金の引き出しをお願いします」

「ギルドカードをお出しください」


作業は手順通りに簡潔に進む。

国を越えて世界中のギルドで情報は共有されている。

同時に全ての資金なんかも共用にしている。

おかげで、他の街に移ったときでも問題なく預金を下ろすことが出来るようになっている。


「いくら下ろしますか?」

「金貨二十枚ほどお願いします」

「かしこまりました。こちらが金貨二十枚、こちらが証書となります」


手順通りに作業を進めるとすぐに指定した額が引き下ろされる。

証書というのはギルドで、どの人が、いつ、どこで、いくら下ろしたのかを記した物の控えだ。

ギルドに残っている証書に従って全てのやり取りが行われるため、こうして証書を受け取って預けている金額を確認するのだ。


お金を受け取るとシーアは受付嬢と世間話を始める。

ギルドでは冒険者の安全を守るために広く情報を集め、遠慮なく冒険者に教えている。

そのため、こういった世間話はギルドでも推進している。

無論、冒険者が沢山いて仕事が多い時は優先順位が変わる。


その間、ヤクファとニールがアシウェル達にギルドのお金の制度について簡単に説明していた。


「お金を下ろすときは男でも二人以上、女なら三人以上で行くんだ。そうしないと余計な連中に絡まれてお金を巻き上げられたり、恐喝されたりするからね。ギルドはお金の保管はしてくれるけど、下ろした後のお金までは守ってくれないからね」

「必要以上に下ろさないようにするんですよ~」

「な、なるほど」


アシウェル達は必死に頭に叩き込んでいく。

この街にはこの街のスラム民がいる上、新たにこの街のスラムに行った者の多いだろう。

そうである以上、アシウェル達はスラムに行くことは出来ない。


旧ヴァルキ王国時代の制度だったスラムの支援は年々減少している。

それはすなわち、奴隷商がスラムに手を出すようになることを意味している。

そんな所に子供、それも半分が女性であるアシウェル達が行けば格好の餌食である。

“水乱舞”の三人もそれをわかっているから色々と面倒を見てくれるのだろう。


スラムから自立する最速の方法はやはり冒険者になることだ。

スラムに貴族が廻していた仕事をギルドから受けるのになるだけだが、冒険者はギルドを通して税金を納めている為一般市民扱いだ。

一般市民とスラム民の大きな違いは住居にある。


とそこでシーアが会話を終えたのか戻ってくる。


「やっぱり住める場所はないみたい。家も宿もいっぱいで、一部の商人は次の街に向かっているそうよ。ギルドとしては冒険者には街の防衛に当たって欲しいみたい」


先程受付嬢との会話で入手した情報だろう。

街壁の外にいる商人なんかに雇われるなりなんなりして、街から溢れている人を守るようにしたいのだろう。

本来それらは警備兵の仕事だが、警備兵はこの街の住民だ。その数には限りがあるし、その数を簡単に増やすこともできない。

ヴァルキで警備兵をしていた者も来ているのだが、彼らをすぐに雇えるようにはなっていないし、彼らはまともな武器を持っていない。

せいぜい自分の身を守るのが精一杯だろう。


「どうするの?」


ヤクファがシーアに訊ねる。

当然今後のことについてだ。


「とりあえず、アシウェル君とサフィアちゃんはギルド登録しましょう。ただ、登録できないウォーグル君達がいる以上、依頼は受けれないわ。隣の街に移ってまずは家を買いましょう」


少し考えた後、シーアは決断する。

ヤクファとニールも反対しない。無論アシウェル達もだ。

やることが決まったら即行動。冒険者の鉄則だ。

早速シーアがアシウェルとサフィアを連れてさっきの受付嬢の下へ向かう。


書類整理をしていた受付嬢が顔を上げて要件を訊ねる。


「こちらの二人の冒険者登録をお願いします」

「かしこまりました。登録手数料は銀貨二枚です。こちらの書類の指定事項をご記入下さい」


シーアは受付嬢に銀貨二枚を払い、渡された紙と筆をアシウェルとサフィアに渡して、書かせる。

だが、アシウェルもサフィアも文字を書けなかった。

代わりに代筆して受付嬢に書類を渡す。


「ではギルドカードを作りますので少々お待ち下さい」


受付嬢は奥で何らかの手続きをして、戻ってくる。

そして、一番隅にあるカウンターに案内する。


「こちらに来てください。魔力登録をします。そこの機材に手を翳して下さい」


アシウェル達はほとんど理解していないが流されるままに移動する。

そして、魔力の登録を終え、ギルドカードが渡される。


「はい。登録完了しました。アシウェルさん、サフィアさんのギルドランクはGとなります。ギルドに関する事前説明は必要ですか?」


最後の質問はシーアに向けてのものだ。


「いいえ、説明も戦闘訓練もこちらでやります。他にも子供がいるので隣の街に移ろうと思うのですが、馬車をお借りできますか?」


シーアは即座に必要ないことを告げると、一度ウォーグル達の方に視線を向け、馬車の手配を頼む。

馬を専門で飼育している人もいて、普通ならそちらから借りるのだが、そちらの馬は出払っているといると踏んでの依頼だ。

値段は高くなるが、ギルドでも馬車の貸し出しをしている。

少し高いのではなく、だいぶ高いが。


「かしこまりました」


受付嬢は若干寂しそうな顔をするが、すぐに笑顔を浮かべる。

冒険者が前線から離れるのには思うところがあるのだろう。それも、“水乱舞”は周辺でもそれなりに名の通った有名なパーティーだ。

だが、シーア達にも事情はある。

それを理解しているからこそ文句の一つも言わないのだろう。

この世界の街は全てが前線みたいなものだが。

受付嬢から受け取った紙に必要事項を記入して、銀貨と共に渡す。


「もう出発ですか。ではすぐに用意しますね」

「食べ物を買ってきますのでその間にお願いします」


書類に記載した使用日時に今すぐと書いたのだ。

受付嬢は仕事に取り掛かる。


馬車が用意できるまでの間、シーア達は移動中に食べる食料を買いに行く。

たとえ馬車を使っても隣街までは五日はかかる。

ヴァルキからヴェルディオンまで徒歩で三日だったが、街の距離がここまで近いことは普通ない。


本来、ヴァルキはゴブリンの森がある位置にあったのだが、ゴブリンの森を焼いた結果、手痛い反撃を喰らい壊滅。ゴブリンの森は巨大化し、ヴァルキの街はその外に作り直したのだ。

そのため、少しだけヴェルディオンに近くなっていたのだ。


シーア達が向かったのは商店街だ。

農民が作った食物は一度全て商人に売られ、農民含めて住民は全員そこから食べ物を入手する。

ただし、自分たちで作ったものは別だ。

シーア達も当然食料は商店街で買っている。


少しばかり商店街の中を回って必要なものを買いそろえると、ギルドに戻る。

そこに用意されていた馬車の荷台に荷物を載せると、自分たちも乗り込み出発する。

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