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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二.五章 再会までの話
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森を越えて

二匹の鹿に挟まれる状況を作り出したウォーグルは、ヴェルマのおかげで手に入れることができた鹿の角を盾に構える。


二匹の鹿がそれぞれウォーグル、チーシェルに突撃してくる。

その突撃を同時に角で受けると、ウォーグルが持つ角とチーシェルが持つ角を合わせて、鹿同士の押し合いにする。

ウォーグルとチーシェルは角が弾け飛ばないように横から抑えるだけだ。

鹿の魔物と直接の力勝負ではなくなった為、だいぶ楽になった。


一方で、残るもう一匹の相手をしている残りのメンバーは苦戦していた。

ウォーグル、チーシェル、ヴェルマ、シャルマを除いた全員で挑んでいるのだが、やはり決定打に欠ける為、じわじわと追い込まれていく感覚を覚える。


大人の男性はアシウェルだけ、女性はサフィアを含めて三人、子供はメシスを合わせて男子一人、女子三人だ。

その全員の息は上がっており、特に女の子は体力的にも限界だった。

そんな状態で戦闘開始時と同様の動きが出来るはずがなかった。


次第に鹿の角がかすり始める。

そして、またしても一人やられる。

子供に攻撃しようとした鹿の気を引く為に攻撃した女性が下がり切れずに鹿の角の餌食となった。

更に、その女性を助けようとして、攻撃を仕掛けようとしていたもう一人の女性も、流れる様な鹿の攻撃を受けてしまった。


これで大人組は壊滅、アシウェルとサフィアだけになってしまった。

その様子は二匹の鹿の相手をしているウォーグルとチーシェルも見ていた。


ここまで数が減ってしまっては力の強い鹿たちに敵う道理がない。

最大の武器であった数の利がほとんど失われた今、勝つことも、逃げることも叶わなくなった。


そこで、女の子の離脱が遅れ、鹿の攻撃が当たる。

それを助けようと男の子とアシウェルが攻撃を仕掛ける。

その攻撃は間に合わなかった上に、続けざまに繰り出された鹿の攻撃を受けてしまう。

無理に攻撃を入れた二人は下がることが出来ず、男の子は蹴り飛ばされ、アシウェルはその中腹を貫かれた。


アシウェルの意識が遠のいていく。

しかし、そこで奇跡は起こった。


「標的を貫け。『氷槍(アイスジャベリン)』」


透き通った声が呪文を唱え、氷でできた槍が鹿の魔物を串刺しにする。

三人の人が走り込んで来て、一人がアシウェルに近付き、魔法を唱える。


「神の纏う光の力よ、命宿りし肉体に奇跡を与えたまえ。『高位治癒(ハイヒール)』」


魔法が発動すると、アシウェルの傷口が眩い光に覆われる。

数十秒ほど発光を続けた光が消えると、貫かれたアシウェルの腹は奇麗に元通りになっていた。

服には大きな穴が空いていたが、元々大層な服は着ていない。


その数十秒の間に、残りの二人が、ウォーグルとチーシェルが抑えていた二匹の鹿も片付けた。


ここまで生き延びてきた者たちの半数がやられ、最早諦めるしかないところに降ってわいた奇跡。

長く苦戦していた鹿たちは瞬く間に倒され、あっけなく戦闘は終了する。


相手をしていた鹿が倒され、ウォーグルとチーシェルは脱力し、背中を合わせて座り込んだ。

傷は治ったものの、未だに目を覚まさないアシウェルにサフィアが駆け寄る。

メシスはヴェルマとシャルマの下に移動する。

街を出てから三日、生き残ったのはこれだけだった。


「途中もそうだったけど、ここも酷いね」

「身体強化もなしに魔物と戦って、生きてる人がいるだけ奇跡よ」


助けてくれた三人の女性は周囲の遺体を確認して、まだ息のある人がいないことを確認すると、遺体の処分を始める。

そんな三人の様子を見て座り込んでいたウォーグルが立ち上がる。


「助けて頂きありがとうございます。手伝います」

「どういたしまして。でも疲れてるでしょう、休んでていいわよ」

「いえ、手伝わせて下さい」


女性は休むように言ってくるがウォーグルは食い下がる。

自分が守れなかった者たちの弔いをしっかりやっておきたいのだろう。

女性は最初こそ遠慮したものの、ウォーグルが食い下がると、手伝いを認める。


ウォーグルとチーシェルが手伝って遺体の処理をしている間に、サフィアはアシウェルをヴェルマが休んでいる大木の傍に運ぶ。


遺体の処理は難しくない。

穴を掘って遺体を入れて火をつけるだけだ。


遺体の処理を終えるとウォーグルは改めてお礼を言った。


「本当に助かりました。ありがとうございます」

「ううん、私たちがもっと早く駆け付けていればもっと多くの命を助けれたわ」

「いえ、それでもあなた方がいなければ全滅は免れませんでした」

「どういたしまして。私はシーア」

「私、ニール」

「私はヤクファよ」

「私たちは冒険者で三人で“水乱舞”ってパーティーを組んでるの」


三人が自己紹介をする。

続いてウォーグル達も自己紹介をする。


「ウォーグルです」

「あたし、チーシェル」


お互いに名前を知ったところでシーアが今後の予定を訊いてくる。


「君たちはこれからどうするの?」

「それはアシウェル、今は気絶していますが、彼に訊かないことには」


ウォーグルが答えるがその中身は分からないといったものだった。

今残った七人の中ではアシウェルとサフィア以外はまだ子供で冒険者登録すらできない。


「そう、それじゃあ彼が起きないと何も出来ないわけね」


話しながらアシウェルとヴェルマが眠っている場所まで移動する。


「助けて頂きありがとうございます。私はサフィアです」


サフィアがアシウェルに膝枕をした状態のままお礼と自己紹介を述べる。

“水乱舞”の三人が再び自己紹介をすると、サフィアが残りも紹介する。


「ここで寝てるのがアシウェル、後ろの男の子がヴェルマ君、あとメシスちゃんとシャルマちゃんです」


手で示しながらそれぞれ紹介し、それに合わせてメシスとシャルマが座ったままお辞儀をする。

一番背の高いアシウェルを担いで移動するのは骨が折れる為、彼が起きるまで情報交換や雑談をして時間を潰す。


「そこのアシウェル君は気絶しているだけだから、一時間もすれば目を覚ますと思うけど、そっちのヴェルマ君は魔力を使い切ってるみたいだから、一日は起きないと思うわ」

「そうですか」


シーアの言葉を聞いて安心した表情を浮かべる。


「それにしても彼、ヴェルマ君は魔術師なの?」


ヤクファが気になったことを訊ねる。


「俺はそんなこと聞いたことないが…」

「私も知らない。メーちゃんとシャルちゃんは?」

「私も知らないです」

「私も、です」


ウォーグルが知らないと答え、チーシェルを見やる。

チーシェルも知らず、メシスとシャルマに訊いてみるが、二人もヴェルマが魔法を使えることは知らなかった様子だ。

サフィアにも目で聞いてみるが、首を横に振っていた。


「じゃあまさかの魔導師だったりして~」


ニールが冗談でそう言った。


「いえ、魔導師の子は半年ほど前に追い出しちゃったらしいんです」


ウォーグルの返事に“水乱舞”の三人は驚く。


「その子ってもしかしてシンって名前だったりしない?」

「そうですけど、シンをご存じなんですか?」


三人の口からシンの名が出てきたことにウォーグルたちが驚く。


「半年前に緊急依頼を受けて商人の援護に行ったんだけど、その時に会ったわ。それから商人の子と一緒に行動しているはずよ」

「そうですか、シンは商人と……。じゃあ無事に生きていそうですね」


商人と暮らしていて生活に困ることはないだろう。

ウォーグル達はシンの無事を確信し、安堵する。


「それにしてもやっぱりスラム民だったね~」

「確かに俺たちはスラム民ですが、何かまずかったですか?」


ニールの言葉にウォーグルが不安げに訊ねる。


「ううん、そんなことはないわ。ただ、スラム民にしては女性や子供が多かったからそういう話をしてたの」


そんな会話をしながら一時間ほどが経過する。

アシウェルがようやく目を覚ます。


「う、サフィー? ……っ! 皆は!?」


アシウェルはサフィアの顔を確認し、気絶する前のことを思い出して、慌てて飛び起きる。

周囲を見回して、戦闘が終了していることと、生存者を確認する。

生存者が七人であると確認すると、倒れ込むように座る。


「ははっ、俺は弱いな」


アシウェルは片手で目元を押さえながら空を仰いだ。

誰もがいたたまれない気持ちになる。


「アシウェルは悪くないよ。今は少しでも生き残れたことを喜ぼ、ね」

「終わったことよりも先のことを考えてくれ。俺たちは生きてかなきゃならないんだ」


サフィアとウォーグルが言葉を掛ける。

アシウェルは暫らく上を向いていたが、大きく呼吸をして前を向く。


「そう、だな。生きていかなきゃ、か。ウォーグルはしっかりしてるな」

「まあ俺は相方を支えてやらんといけないからな」

「ちょっと、それじゃまるで私がしっかりしてないみたいじゃない」


口を尖らせて抗議するチーシェルに場の雰囲気が和む。


「それで、なんとなく想像つくけど、そちらのお姉さん方は?」


アシウェルがサフィアに訊ねる。


「うん、私たちを助けてくれた人達だよ。アシウェルの怪我も治してくれたの」

「それは、助けて頂きありがとうございます」


想像通りのサフィアの紹介を受けて、アシウェルは三人にお礼を述べる。


「厚かましいですがお願いがあります、私たちに魔物との戦い方を教えてください」


アシウェルが深々と頭を下げてお願いする。

同時にサフィア、ウォーグル、チーシェルも頭を下げる。


「うん。それは勿論。ただ、詳しいことは移動しながら話そうか。今から出発すれば今日中に隣の街まで行けるはずだよ」


シーアが出発を促し、街を目指して移動を開始する。

チーシェルがヴェルマを背負い、サフィアとメシス、シャルマで鹿の肉を刺した角を担ぎ、アシウェルとウォーグルでもう一本の鹿の角を担ぐ。


“水乱舞”の三人はともかく、アシウェル達はほとんどお金を持っていない。

七人の生活に掛かる費用は馬鹿にならないため、出来るだけお金になる魔物の素材は持って行きたいのだ。

同時に食料も持って行けるだけ持って行きたいとシーアは語る。


「おそらく周辺の街は人が溢れ返っているはず。食料も足りないはずよ」


理由は聞くまでもない。

自分たちもその街に向かっているのだから。


森の中を進みながら、“水乱舞”の三人は遭遇する魔物を片っ端から倒して、アシウェルとウォーグルが担ぐ角に引っ掛けていく。

掛ける場所がなくなると、今度は器用に上に載せていく。


「頑張ってね。男の子。それが君たちの支度金になるからね」


シーアが微笑みを浮かべながら応援してくる。

血抜きもほとんどしてなく、人間よりも身が引き締まっている魔物はだいぶ重たい。

しかし、そうしてる間にもヤクファとニールが魔物を倒して持ってくる。

そして、当然のようにアシウェルとウォーグルが担ぐ角の上に載せていく。


「どうしてもこれ以上持てないようなら言ってね。回復の魔法をかけてあげる」

「頑張ってね」

「がんばって~」


ヤクファとニールも応援する。

三人は周囲の警戒及び、戦闘をするため手を貸せない。

そうして森の中を進みながら今後の話もする。


「さっき戦い方を教えてあげるって言ったけど、一つだけ条件があるわ」

「条件ですか」


突然の提示にアシウェル達は息を呑む。


「ええ、私たちの言いつけは絶対に守って欲しいの」


提示された条件は至極当然のことだった。

他にもいくつかの取り決めをしながら歩き続け、遂に森を抜けたのだった。

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