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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二.五章 再会までの話
31/60

森での戦闘

四匹の鹿の魔物との戦闘。

最初に持ち出した得物の農具は巨大熊の下に残った人たちに渡してしまった為、今は木の棒で戦っている。


一撃喰らうだけで命を落とす可能性があるため、回避に専念しながら戦うことになっているが、巨大な角と後ろ足の蹴り上げ以外の攻撃がないため、意外と善戦していた。

しかし、こちらも決定打にかけるため、やたらと戦闘が長引き疲労が溜まっていく。


そんな中、ヴェルマが一人戦闘から離れ、何かに集中するように目を閉じる。

明らかに無防備な状態だが、魔物は目の前や周囲の人間だけに反応して、ヴェルマに見向きもしない。

味方としては戦闘に参加してもらいたいのだが、声をかける余裕はない。


「よしっ! 行くぞ!」


ヴェルマが目を見開き何かを宣言する。

直後、ヴェルマが一番近く、アシウェルとサフィアが相手をしている魔物に向かって走り出す。

その速度は大人の全速力よりも速かった。


向かってくるヴェルマに鹿は角を向けて迎撃しようとするが、遅い。

ヴェルマは躱しながらその角の根元を掴む。


「おおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおああぁぁぁぁぁ!!!!!!」


そのまま鹿を持ち上げると背中から地面に叩きつける。

さらに、振り回して近くの大木にその胴をぶつける。

そして、片方の角を足で押さえながら、もう片方の足で鹿の顔を踏みつけ、器用にもう一本の角を掴むと思い切り引き抜く。

ビチビチと嫌な音を響かせながら角が抜ける。

最後に止めとばかりにその角を鹿の胴体に刺す。


そこまでやったところで気が抜けたようにふらりと倒れてしまった。


「ヴェル君!」

「お兄ちゃん!」


メシスとシャルマが駆け寄る。


「大丈夫、気絶しているだけね」


同じく駆け寄ったサフィアが容態を確認する。

その言葉にメシスとシャルマがほっとした表情を浮かべる。


「今のは一体、」

「終わったならその角持ってこっち手伝え!」


アシウェルも傍に寄り、ヴェルマの行動について、というよりヴェルマの力について考えそうになったところをウォーグルが叱責する。


アシウェルは慌てて鹿の角を引き抜く。

しかし、その角はとても大きく、持ったまま突撃するだけでは隙だらけな上、周りを巻き込みかねない。


とりあえずウォーグルの方に向かうが、一定の距離から近づけない。

暫らく鹿とやりあっていたいたウォーグルが隙を見て少し離れる。

同時にチーシェルも距離を取り、鹿がどっちを攻撃するか迷う。


そこでウォーグルが一歩踏み込み、鹿を引き付ける。

ウォーグルが一歩踏み込んだことで、鹿はウォーグルは戦闘継続と判断したのだ。


だが、ウォーグルは素早く後退してアシウェルの横まで下がる。

鹿は追おうとするが、そこでチーシェルが走り込み一撃喰らわす。

ダメージはないが、鹿はそっちに気を向ける。

その間にウォーグルはアシウェルから角を受け取った。


「アシウェルさんは他の援護、こいつは任せな」


ウォーグルは軽く息を吸って、一気に鹿に突っ込む。


「はあああああぁぁぁ!!!」


チーシェルに気を向けていた鹿だが、自分の同種の角を向けられ、その脅威を無視できない。

自分の角で迎撃しようと構える。


ウォーグルは角と角がぶつかった瞬間、梃子の原理で角を跳ね上げる。

更に、跳ね上げた勢いを利用して、角を一回転させて突き刺さんとする。


角を跳ね上げられた鹿はその喉元をがら空きにしていた。

しかし、ウォーグルの突き出した角が刺さることはなかった。

角が刺さる直前で鹿が後ろに飛び退いたのだ。


「なっ!」


まさか後ろに下がるとは思ってもいなかったウォーグルが絶句する。

後ろにはチーシェルがいて、今ではチーシェルの方が近くにいるというのに、その鹿はウォーグルを強く警戒していた。


「これは困った」


もう今みたいな奇襲は通じないだろう。

ウォーグルは周囲を見回すが、拮抗した状況が崩れる様子はない。

寧ろ、時間が経てば体力のない人間の方が押されることは分かり切っていた。


ヴェルマがとっておきを使って一匹仕留め、武器まで用意してくれたのを無駄にしてしまったと思うと、非常に後ろめたい気持ちになるが、そうも言ってられない。

今武器を持っている自分が何とかしなくてはならないのだ。


僅かに焦りが出てくるが、一撃でも受ければ致命傷になりかねない。

自分が怪我をせず、且つ魔物の息の根を止める。

ウォーグルは必死に頭を働かせ、奇策を考えていた。


その一方で、アシウェルやもう一人の男性はダメージにならない一撃離脱を繰り返しており、ぎりぎりの戦闘を続けていた。

一匹倒れたことでローテーションの間隔が長くなり、疲労が減ったのは良かったが、やはり決定打にかけるため精神的な疲労が募る。

一撃受けたら致命傷というのも好くない。


戦闘が長引き、皆の動きが次第に鈍っていく。

ウォーグルは手に持つ角を構えて、何度も特攻をかけるが全てはじかれてしまい、逆に腕が痺れ始めていた。


何度目か分からない特攻を仕掛ける。

だが、鹿は自分の角で受け止めると、上に弾き飛ばした。

奇しくも、一番最初にウォーグルがやったものに似ている。

ウォーグルは両手を上にあげる格好になり、手に持っていた角は高々と宙を舞う。


鹿の魔物はウォーグルを狙う。

後ろからチーシェル含む子供たちが攻撃を仕掛けようとするが、鹿は気にする様子もない。

首を振ってその巨大で鋭い角がウォーグルに迫る。


だが、角が当たる前にウォーグルは突き飛ばされ倒れる。

ウォーグルを突き飛ばしたのは最年少の男の子だった。

ウォーグルが棒立ちの状態だったからこそ最年少の子でも突き倒すことができた。

しかし、その代償はその子を襲う。

男の子はその巨大な角に体を深々と貫かれていた。


「…ウォー、にい、ちゃ、……勝っ、て、…ね……」


男の子は首を動かしてウォーグルを見ると、そう言って微笑んで見せた。

直後その体はぐったりと動かなくなる。


鹿は頭を振って角に刺さっていたその子を落とすと、再度ウォーグルを見る。

しかし、急に後ろに跳び下がる。

宙を舞っていた角がさっきまで鹿のいた場所に落ち、突き刺さる。


鹿は飛び下がりながら後ろにいた女の子に蹴りを繰り出していた。

鹿の後ろ蹴りを直にくらった女の子は宙を舞って十メートル以上離れた場所に落ちる。


突然二人も亡くなった為に、一緒に攻撃をしていたもう一人の男の子の動きが止まる。


「下がって!」


チーシェルが飛び退きながら指示するが、男の子の動きは鈍かった。

続けざまに繰り出された蹴りを避けることが出来ず、女の子の横で戦っていた男の子も宙を舞うことになる。


ウォーグル、チーシェルと共に鹿と戦っていた三人の子供が皆死んだことになる。


「チーシェル、他の援護に行け。こいつは俺だけで十分だ」


ウォーグルが突き刺さったままの角を引き抜きながら指示を出す。


「そんな! 無茶に決まってるじゃん!」


チーシェルは否定し、残ろうとする。


その間に鹿の魔物が動き出す。

狙いは当然のようにウォーグルだった。

頭を低くし、尖った角を突き出すようにして突進する。


ウォーグルは手に持つ角を地面に突き立て、身を屈めて角を盾にして、それを受け止める。


「言い方が悪かったな。こいつが俺に気を取られている内に他を倒せ」


ウォーグルは完全に防戦の構えだ。


「でも……」

「行け!」


それでも言い淀むチーシェルに強い語調で言いつける。

するとチーシェルは唇を噛み締め、ウォーグルに背を向ける。


それを見たウォーグルは鹿を睨み付けると一呼吸置き気合を入れ直す。

少しでも気を抜けば地面に突き刺した角ごと空高く飛ぶことになりかねない。


だが、結局チーシェルを援護に向かわせても攻撃力が上がる訳ではなく、状況は好転しない。

力尽きて死ぬまでの時間を引き延ばしたに過ぎない。


そして、とうとうその時が来る。

アシウェルとサフィアの戦っている鹿の相手をしているのは熊の所で残らずついてきた大人の女性二人と男の子と女の子が一人ずつだ。

その内、男の子が鹿に攻撃を仕掛けた後、足を縺れさせて転んでしまった。

直後鹿の角がその子を貫いた。


だが、気を取られている暇はない。

誰がやられようが生き残る為には倒すしかなく、動きを止めたら自分も死ぬことは分かり切っている。


一方でもう一人の男性とその妻が戦っている方には、大人の女性一人と男の子二人、女の子一人が一緒に戦っており、駆け付けたチーシェルを合わせて合計で七人が戦っている。


そして、こちらでも体力を切らした男の子が転んでしまう。

鹿の角がその子を襲うが、大人の女性がその身を挺して庇おうとする。

しかし、結果は芳しくない。

大人の女性は体を深々と貫かれ、男の子は左肩から先を失う。


止めを刺さんとばかりに鹿が男の子を見る。

そこへ男性が後方から鹿の頭に木の棒を叩き込む。

鹿の気が子供から大人の男に逸れ、男にその角を振るう。

男は鹿の気を逸らすのに全力で必要以上に踏み込んでしまっていた為、体を退くことが出来なかった。

鹿の尖った角が男の体を貫いた。


「あ、お、ぉぉおおお!!!」


男はすぐには死ななかった。

最後に決死の力を振り絞って、手に持つ木の棒を鹿の目に突き刺した。


「エエエェェェ! エエェェ! ェェェエエ!」


右目を負傷した鹿は甲高い鳴き声を上げると頭を振り回す。

角に刺さっていた男と女は振り落とされるがその時点で既に息を引き取っていた。

そして、乱雑に振り回された鹿の巨大な角は近くで倒れていた男の子を巻き込んだ。


暫らく頭を振り回していたが、鹿はすぐに落ち着いた。

逆に残りの男の子と女の子は一気に三人も死者が出た為に竦んでしまっていた。

そして、夫を殺された女性は怒りで思考が鈍っていた。


全力で走って行き、振り上げた木の棒を鹿に叩きつける。

しかし、鹿のダメージにはならない。

そして、見えなくなった右側から突然の攻撃を受けた鹿は驚いてそちらに角を向ける。

だが彼女は既に下がることを考えていなかった。

もう一度手に持つ木の棒を振り上げる。


だが鹿の魔物の攻撃の方が早い。

鹿は見えている左目に彼女を捉えるとその角を振るう。

体を貫かれた女性は息を引き取る。


「チーお姉ちゃん!」


メシスがチーシェルを呼ぶ声が響く。

チーシェルが振り向くと、シャルマと一緒にヴェルマの様子を見ていたメシスが、鹿の大きな角を引きずっている。

どうやって頭から外したのか分からないが、ヴェルマが倒した鹿のものだろう。


「二人とも下がって! メーちゃん、それ持って来て!」


チーシェルが指示を出すと、まず男の子が動く。

男の子はメシスの下まで走って行くと、その角を受け取り、チーシェルの下まで持っていく。

その間に女の子も後ろに下がる。


鹿はチーシェルが角を持つとあからさまに警戒する。


「ふーーー。よしっ! みんなはアシウェルさんの手伝いに行って」


細く息を吐き、気合を入れ直すと再び指示を出す。

子供たちは頷いて素早く行動する。

子供達がウォーグルの戦っている場所を迂回しながらアシウェルの下に向かったのを確認しながら、チーシェルは頭の中で作戦を練る。

それは鹿の魔物を倒すための作戦ではない。ウォーグルの下まで移動するための作戦だ。


鹿の魔物が角を構えて突撃してくる。

チーシェルは身を低くしてそれを受ける。


「クッ! ……なっ!? 重っ!!?」


角同士がぶつかった瞬間、チーシェルの手から角が飛んでいきそうになったのを必死に掴む。

何とか角は放さなかったが、体ごと突き飛ばされることになった。

その方向はまさにウォーグルがいる場所に向かっていた。


身を低くしていたおかげもあって、高々と宙を舞うことにはならなかったが、それでもだいぶ速い速度で飛んでいる。

チーシェルは仕方なく手に持つ角を手放す。

巨大な角を持ってこのまま地面を転がれば、間違いなく自分の体に深々と突き刺さることになるだろう。

それどころか、ウォーグルの下まで行く前に止まれなければウォーグルも巻き込むことになる。


鹿に突き飛ばされた勢いを、地面を転がりながら減らし、ウォーグルの直前で止まることに成功した。


「ごめんね。一匹倒せなかった」

「いいから、あの角を持って来い」


チーシェルがウォーグルに謝るが、ウォーグルに余裕はない。

一匹抑えるのに全力を注いでいるのに、それを二匹同時に相手にしなくてはいけなくなったからだ。

せめてもう一つ得物は欲しいためにチーシェルに角を取ってくるように指示する。


チーシェルが途中で止む無く手放した角は勢いを残したままチーシェルの後を追うように飛んできていた為、割と近くにあった。


チーシェルがその角を持ってくるとウォーグルは鹿との向きを変えて、二匹の鹿に挟まれる状況を作り出すのだった。

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