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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二章 浮遊都市国家エデン
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終わらぬ指導

シンとファルナが同室で過ごすことが決まった翌日。

シンはいつも通りの時間に目を覚ました。

ベットは二つあるのだが、その片方は使われておらず、ファルナの姿はすぐ横にあった。


まだ眠っている自分の婚約者の顔を一瞥すると、短く溜息を吐いて立ち上がる。

たとえ婚約者ができてもシンの生活は変わらない。

朝食の時間までは二番塔で読書、医学の勉強である。


ファルナを起こさないようにそっと部屋を出ると、飛翔魔法を使って一階まで降り、二番塔へ向かう。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



朝食の時間になる少し前、本を読んでいるシンの下にファルナが顔を出す。

ファルナは少しずつ魔力、体力、筋力を取り戻しているのだが、それでも十九階から歩いて下りてくるのは大変だろう。

実際ファルナは息が上がっていた。

だが、シンを見つけると嬉しそうに笑みを浮かべる。


ファルナがシンの下に駆け寄ると、その横に腰を下ろす。

シンはファルナに治癒魔法をかける。


治癒魔法には傷を治す効果と疲労を癒す効果がある。

この二つは術式におとすと全く違うものになる。

そのため、治癒魔法は複雑になっており、魔力の消費も多い使える人が少ない魔法だと言われている。


だが、シンは医学の本を読み続け、効率的な治癒魔法の発動ができるようになった。


「ありがとう。楽になった」

「どういたしまして。そろそろ朝食の時間かな」


シンとファルナは食堂へ向かった。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



午前中は二番塔で過ごし、時間通りに昼食を摂って、午後。

エルディオは偶然ではあるが、飛翔魔法を習得した。

だが、まだフイスとルイスがいる。


ルイスには浮遊魔法から、フイスは飛翔魔法を教える。

そして、ファルナに基礎魔法を教えることになっている。


流石に昨日の事を反省したのかフイスはズボンを履いてきた。

因みにエルディオも自主トレの為について来ている。


早速特訓に入る。

まず、ルイスに浮遊魔法の参考書を渡す。

これで出来なければシンが口を出す。


次にフイスに飛翔魔法を教える。

飛翔魔法と言っても、その実態は風魔法で体を持ち上げているに過ぎない。

ただ、風魔法の威力が強すぎると体を圧迫したり、吹き飛ばしているだけになってしまう。

逆に弱すぎると体が持ち上がることもなくこそばゆい風が吹くに留まる。


それと、身体強化魔法は必須である。

強化しないで飛ぼうとすると、体を持ち上げるほどの威力を持つ風圧に潰されてしまう。

あとは、重力を弱めてやれば風の影響が出やすくなり、制御しやすくなる。


「なんだ、簡単じゃないの」


シンが飛翔魔法について説明すると、フイスは自分の得意な風魔法だと知り調子付く。


「エルディオ、フイスさんが馬鹿みたいに魔法使わないように見てて」

「わかった」


シンはエルディオをフイスの監督に付けて、ファルナに魔法を教えることにする。


シンがフイスとエルディオに背を向けて歩き出すと、早速後ろで特訓を始めたのが分かる。

フイスが魔力を動かして身体強化、風魔法を発動させる。


(それじゃあ強すぎるよ)


直後突風が起こり、フイスが天高く飛んでいく。

エルディオが飛翔魔法を使って回収に向かう。


(あーあ、言わんこっちゃない)


シンは歩みを止めることも、振り返ることもしなかった。

ファルナの下まで歩いて行く。


「じゃあ始めよっか」

「うん」


ファルナが頷いたのを見て、シンは簡単な魔法を実演して見せる。


まずは身体強化だ。

魔法を使う上で肉体にもしもの危険を減らせるようにだ。


それができたら基礎属性魔法である。

最初に火、水、土を創り出して見せる。

ファルナは真剣な顔をしてシンと同じように魔力を動かし、同じものを創り上げる。

個人差の部分は想像力で補って、しっかりと魔法を発動できていた。


次に風魔法を使って空気を動かす。

手を上から下に振り、それに合わせて風が吹く。


既に気付いているかもしれないが、シンのこの教え方は、かつてシンがスラムにいた時に読んだ本の順番である。


魔法を実演すると、ファルナは一度でそれを使って見せる。

そのため、特訓は順調以上に進む。


基礎属性魔法の創造から制御まで、様々な威力で出来るようになったところで休憩を挟むことにする。

シンはこの威力調整を旅をしていた前半の二年を費やし、じっくり研究することで見つけ出していた。


シンは特に難しいことはしていないため休む必要はないが、ファルナはだいぶ集中していたために精神的に疲れ、また、魔力もそこそこ消費している。

特訓を続けようと思えば続けられるが、念の為に休憩を取って魔力を回復させるのである。


フイスとエルディオの方を見やると、相変わらずフイスが吹き飛んだり、飛ばなかったりを繰り返していた。

吹き飛ぶたびにエルディオに拾われている。


ルイスの方に目をやると、浮遊魔法がもう使えるようになったのか、空中に漂ってクルクルと回り楽しそうにしている。

とりあえず、ルイスから声をかけてくるまで放置しておくことにした。


シンとファルナは小屋の入り口の所に腰を下ろし、魔力トレーニングを始める。

魔力トレーニングは体内の魔力を動かすだけなので、魔力の消費がない上に、魔法の精度向上以外に、総魔力量の上昇や自然回復量の増加も見込めるため、やるだけ得になるのだ。

特に、成長期にはより大きな効果があったりする。


暫らく魔力トレーニングをしていると、ようやくルイスが動くのを感じ取った。


「あの、出来ました」

「じゃあ、飛翔魔法をやってみようか」


シンは魔力トレーニングを中断して立ち上がる。

ルイスと共に小屋から離れた位置まで移動すると、早速指導を始める。


「まず、そうだね、ルイスさんの場合は圧魔法重視の方がいいかな。さっきみたいに自分に掛かる重力を無くしてみて」


シンが指示を出すと、ルイスは言われた通りに自分の重力を無くして見せる。


「うん。その状態だと少しでも風が吹いたら動くのは分かるかな」

「はい」


ルイスが頷いたのを見て言葉を続ける。


「その風を自分で創るんだ。前後左右だけじゃなくて上下にもね。同時に身体強化もやってみようか」


ルイスは浮いた状態で別の魔法を発動し、身体強化と微風を創っての移動をやって見せる。


(これは、やっぱりセンスあるな)


ルイスは一見風に流されるままに移動しているように見えるが、非常に安定した移動をしていた。

というのも、本来一方から風が吹けば当たり具合によって体が回転してしまうのだが、起こした風に逆風を当てることで体の軸を固定しているのだ。

おそらく、森での特訓の結果、無意識に逆風を創っているのだろう。

この体位の固定こそが飛翔魔法では二番目に重要な事項であったりする。

更に、この逆風があると、速度の調整や移動方向の調整が容易になる。


因みに一番重要なのは、今フイスがやっている威力の調整である。


「うん、いい調子だね。あとはもう少し速く飛べるようになったら十分かな」


本来は重力制御の調整をして、少しは重力が残るようにした方がいいのだが、飛翔魔法を使っていれば自然と必要ないことに気付き、自分で無くすであろう。

無意識で逆風を創っている時点でルイスは飛翔魔法を覚えたようなものだった。


(三日はかかるかと思ってたのに、一日で覚えたか。ほんとに才能あるな)


シンはあとは自分でやるように言って、小屋に戻る。


「シン、お疲れ様」

「うん。やっと三人とも終わりかな」


小屋に戻るとファルナが出迎える。

シンはようやく三人とも飛翔魔法の習得ができそうになって、ほっと溜息を吐く。


「私にも教えて」

「そのうちね。今は普通の魔法を覚えるのが先」


ファルナが飛翔魔法の指導をせがむが、シンとしては先に基礎、発展魔法を覚えてもらいたい。


シンが小屋の入り口に腰を下ろすと、ファルナも隣に座る。


そのまま手持ち無沙汰に海を眺めていると、フイスとエルディオが戻ってくる。

魔力切れだろう。


「調子はどう?」


シンが声をかけると、エルディオは肩をすくめ、フイスは悔しそうな顔をする。


「全然ダメね。ほんとにあれで飛べるの?」

「ただ風を起こすだけじゃ駄目だよ。風で体を持ち上げるんだよ」


訝しむフイスに助言を呈す。

そこにルイスも戻ってくる。


「休憩ですか?」


まだ速さはないが、ふわふわと飛んで戻ってくる。


「ルイスも飛べるようになったの?」

「いえ、まだ浮いてるだけです」


フイスが驚いて問うが、ルイスは否定する。

だが、ルイスが飛んでいることは一目瞭然だった。


「あと私だけかぁ」

「まあ、もうほとんど出来ているから、あとは使い慣れるしかないね」


二人に先に行かれたフイスだが、シンにできることはもうない。

最後の習得には個人の想像が大きく影響を与えることが多い為、基盤となる形を教えた以上、教えることはないのだ。


「魔力を回復させなきゃだし、続きは夕食後にしよう」


いつもは夕食まで特訓をして、その後に書物を漁っているから、夕食の前後を入れ替える形になる。

全員が頷いたのを見て、部屋を出る。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



夕食後

再び魔法特訓部屋に来た五人は各自特訓を開始する。


シンはファルナに魔法を見せ、ファルナはそれを真似して魔法を覚える。

エルディオはフイスの様子を見ながら飛翔魔法を使い、フイスは風魔法を使って体を浮かそうとする。

ルイスは浮遊魔法で体を浮かせた後、風魔法を使って移動する特訓をする。


基礎魔法は粗方教えた為、次は発展魔法を教えることになる。

発展魔法といっても難しいものではない。

基礎属性である火・水・風・土を元に派生していった魔法に名前を付けただけだ。


例えば氷魔法、これは低い温度で繰り出す水魔法のようなものだったり、温度を操る火魔法の低温の事を指していたりする。

例えば雷魔法、これは風魔法や土魔法で空気中や地中の電子を操っていたりする。


他にもいろいろだが、そういったものは結局想像できるかどうかで使えるかどうかが決まる。

だから、とりあえず実演して見せて、真似してもらう。

これが一番早い習得法かもしれない。


因みに、ほんとは先に治癒魔法を教えるべきなのだが、これは明日にでもシンが思い出して教えるだろう。


発展魔法を一通り見せた所でルイスがこちらに向かってくる。

目をこすっていて眠そうにしている。


「終わりにしよっか」


そう言ってフイスたちの方を見やると、二人は空中を飛び回っていた。

フイスが身体強化と風魔法の威力にものを言わせて、強引に飛んでいる。

当然その速度はとんでもないものとなり、消費魔力も多い。

そんなフイスをエルディオが追っている感じだ。


すぐに魔力が減ってしまい、フイスは地面に降りることになる。

停止も強引であった為に、かなり砂が舞い上がる。

すぐにシンが重力制御で沈める。

空を飛んでいたエルディオには何の影響もなかったが、砂埃の中に突っ込んだフイスは目に涙を浮かべ咳き込んでいた。


その横に砂埃をほとんどたてずに着地したエルディオに背中を押されてシンの下まで来る。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


ルイスが心配して治癒魔法をかける。


治癒魔法及びその他聖魔法の驚き効果、体に害をなしている物質ならば何でも排除できる。

この場合なら砂埃だ。


その間にエルディオがシンに言った。


「おい、次は時空魔法を教えろ」

「ちょっと、私にも教えなさいよ」

「シン、私も、教えて」

「あの、私にもお願いします」


エルディオが言った瞬間、フイスが反応し、ファルナ、ルイスも続く。


「アハハ、まあ出来る限りでいいなら」


シンは乾いた笑みを浮かべて了承する。


(これきっと断れないんだろうな)


シンはこれからも暫らく指導が続いていく未来を確信した。

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