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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二章 浮遊都市国家エデン
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野菜襲来

遥か前方で強い光が上がる。

シンはその魔力が傍まで近付いているのを感じ取っていた。


シンはそこで、周囲の魔導師が魔法障壁を展開したのに気付く。

さらに、魔力の移動が急に加速したのも感じ取った。


「っ……!」


慌ててシンも障壁を展開する。

直後、シンが展開した障壁に何かがぶつかった。

ぶつかった衝撃が轟音を轟かせ、障壁に罅を入れていた。

あまりの音に顔を顰め、ぶつかってきたそれに視線をやる。


「……大根?」


障壁にぶつかったそれは、大根だった。


「大根だな」

「大根ね」

「大根です~」


エルディオもフイスもルイスも怪訝そうな顔をする。

障壁にぶつかった大根はそのまま落下していく。

そして、シンは魔力が次々と加速するのを感じ取る。


ヒヤリとした感覚がシンの体を襲う。

即座に罅の入った障壁を直し、更に強化する。


直後、キャベツ、ジャガイモ、タマネギといった野菜が続けざまに障壁にぶつかる。

強化した障壁に罅が入るようなことはなかったが、轟く音がその威力を語っている。

下手に生身でぶつかったら即死である。


その、あまりの威力にシンは意識を障壁の方に向ける。


「む、おい」

「ちょ、ちょっと」

「苦しいです~」


シンが、意識を障壁に向け、魔力を込めたが、同時に三人を覆っている風魔法にも魔力が行き、圧が大きくなったようだ。

慌てて三人の飛翔魔法を解除する。

浮遊魔法の無重力化は継続したままだから、落ちるようなことはないが、少しでも風が吹けば流されていく状態である。


その間にも飛んできた野菜が障壁に罅を作っていた。

シンは改めて障壁に意識をやり、修復と強化をする。


「ねえシン、私たちにできること、ない?」


フイスが聞いてくる。

シンが後ろを見ると三人とも手持無沙汰で退屈そうだ。


「そうですね、とりあえず、下に降りましょうか」


三人は自分の魔法で飛んでいるわけではないため、シンが気にしないと動けないのだ。

障壁を保ったまま、上から微風を送り、徐々に降りていく。

時間が経つにつれて、ぶつかる野菜の数が増えていき、その威力もあい俟ってシンは予想以上に障壁に魔力を使うことになった。


下まで降りると野菜はほとんど飛んでこなくなった。

おそらく、魔導師が張った網に捕まっているのだろう。


「さて、とりあえず降りてきたはいいんだけど、……どうかした?」

「べ、別に、何でもないわ」


シンが障壁を最小限にして振り返ると、フイスが顔を赤くして俯いていおり、エルディオは完全に目を閉じて明後日の方向を向いていた。

そこにリービアが降りてきた。


「あら、あなたたちも出てたのね」

「あ、リービアさん、何ですか、あの野菜は?」


シンが訊ねると、リービアは丁寧に教えてくれた。


ベジタブルディザスター(以降ベジディザと記載)と言われるそれは、簡単に言えば野菜による災害である。

突如として、何もない場所の魔力が暴発的に増えて、なぜか魔力を持った野菜が出現するという、最早世界の神秘としか言えない現象である。


ベジディザによって出現した魔力を持つ野菜は竜巻や台風のように暴風を吹き、一定量以上の魔力に近付くと、加速して、まるで砲撃のようになる。

その威力は既にシンも感じたとおりである。


その動きは強い衝撃を与えて動きを止めるか、真っ二つに切ると止まる。

だが、そもそも野菜自体が物凄い速度で移動しているため、障壁で受けるだけで強い衝撃を与えることになるのである。

だが、障壁を貫通したりすると、再加速をするため、一度で止めないと危険が増すのである。


ベジディザで発生した野菜は、魔力を持っている為、非常に美味しい。

更に、普通に育てた野菜に比べて非常に栄養価が高いこともよく知られている。

また、魔力を持つためか、なかなか腐ることがないらしい。


そのため、危険が伴うとしても取りに行くだけの価値があるのだ。


「それと、参加するのは構わないけど、怪我だけはしないようにね。終わったときに魔力が残ってる魔導師はたぶんいないから、怪我しても治せないからね。シンくんの傍から離れないこと、シンくんはみんなをちゃんと守るように。それから、魔力が切れたらすぐに建物の中に入ってね。それじゃあ、頑張ってね」


リービアは最後にまくし立てると飛び去ってしまった。

残されたシン、エルディオ、フイス、ルイスの四人は今後の相談をする。


「それで、今からどうする?」

「どうするって言われてもな」

「シンならともかく、私たちではあの野菜を止めれるとはとても思えないわよ」


エルディオ、フイス、ルイスは先ほどの野菜の突撃の速さを見て、自分たちにできることはないと思っているようだ。

だが、シンの見立ては違う。


「そんなことはないと思うぞ。えっと、ほら、あそこ」


シンは周囲を見渡して目的のものを見つけると指さして教える。

そこには誰かが描いた魔法陣があり、飛んでいる野菜に反応して風の斬撃を飛ばしていた。

その命中率は八割ほどで、魔法陣の周辺には真っ二つになった野菜がたくさん転がっていた。


「僕が障壁を張って、正面から来るのは何とでもするから、三人で上空を飛んでくのを落とせばいいと思うよ」

「なるほど、それならできそうだな」

「問題ないわ」


シンが方針を提示すると、エルディオとフイスが乗り気になる。

ルイスはというと、あくびを堪えて眠そうにしていた。

先ほど飛翔した時にはしゃぎ疲れたのだろう。


「一度塔に戻りましょう」


フイスがそう言うと、ルイスが反応する。


「お姉ちゃん! ルイスならへっちゃらです」

「いや、そうは言ってもね」


フイスが困った顔をしてシンを見ると、シンが決断する。


「そうですね、一度戻りましょう」


シンが決めると行動は早かった。

降下した地点から塔までの間に障害となる術式はなく、一直線に塔へ向かう。


「無茶しないでね」


ルイスの見送りを受けてシン、エルディオ、フイスの三人は再び塔を出る。


障壁を展開しながら塔から少し離れた位置まで移動すると、シンは二人に声をかける。


「この辺にしましょう」

「問題ない。頭上を飛び越えてく野菜をぶった切ればいいんだろう」

「了解よ」


シンが障壁を固定すると、二人は自分の魔法を展開する。

エルディオは剣の具現化、フイスは風の斬撃を創り出す。


それを頭上を飛んでいく野菜に向けて放つが、一向に当たる気配がしない。


「ふむ、これは」


エルディオは当たらないと見るや、すぐに魔法を変える。

具現化魔法は創った数だけ魔力を消費する。

しかも、普通に基礎魔法を使うよりも多く魔力を使う。

そこで、エルディオは剣の具現化を止め、二本の剣を生成した。


生成魔法は具現化よりも魔力を使うが、一度創ってしまえば消えることはない。

後は圧魔法の念力で動かせば、総合的な消費魔力は減るだろう。


エルディオは念力で剣を操り、宙に浮かせると、野菜に切りかかっていく。

最初こそ全く追いつくことができず、空ぶるものの、次第に扱いに慣れていき、剣速も上がっていく。

数分後には野菜にその刃をかすらせ始めていた。


一方、風の斬撃を飛ばしているフイスは一向に当たる気配を見せないが、フイスは解決策を思いつけずに、悪戦苦闘していた。


「くっ、このっ!」

「雑魚が、頭を使え」


いつまでも同じことを繰り返すフイスに、慣れて余裕が出てきたエルディオが苦言を呈する。


「分かってるわよ」


何かしらを変えなければならないことはフイスも分かっている。

だが、何をどうしたらいいのかに見当がつかないのだろう。


見かねたシンがヒントを出す。


「フイスさん、フイスさんは確か展開魔法が使えたよね?」

「え、ええ。確かに一応だけど使えるわよ」


フイスが懸念しているのは魔力の消費量だ。

展開魔法には、最初に使う魔法分に加えて、展開する条件を指定する魔力、展開するための魔力、展開後に発動する魔法分の魔力が必要になる。

特に、展開条件の指定に使う魔力は意外と多く、同時に集中を必要とする。

しかも、慣れていない条件を使おうとすると、誤爆するといった危険を孕む。


「当たらない魔法を無駄打ちするよりはマシだろう。貴様、鈍ったか?」

「な! それくらい分かってるわよ! あなたに心配されるまでもないわ」


昼間から散々に言われっぱなしである。

フイスは魔法を組み始める。

魔導師は魔法を想像で補間できるが、精密な部分が多くなる魔法はやはり難しくなる。


それでも、フイスは数分で魔法を発動させる。


フイスの周辺にいくつかの光弾が現れる。

頭上を野菜が通り抜けようとした時、その光弾が野菜を撃つ。

更に、光弾が命中したところで、そこから風の斬撃が放たれる。


速度が速い野菜に斬撃を届かせるために速度の速い光弾を使う。

光弾はその名の通り光の弾であり、その速度は音速を超える。

他の属性弾に比べると圧倒的に速いが、その分ほぼ実体を持っていないため、直撃しても威力はない。


寧ろ、今回フイスが使ったような使い方こそが正しいと言える魔法である。


「よしっ」


ようやく当てることができたフイスが嬉しそうに喜ぶ。

その後も二人はどんどん慣れていき、取る野菜を増やす。


「フン、これなら全部落とすのもできそうだな」

「ちょっと魔力残量が心もとないけど、楽勝ね」

「あのさ、二人とも調子を上げてるときに悪いんだけど、そろそろ本体が来るから、頑張ってね」


シンは二人に事実を伝える。

今まで見ていたのはほんの一部、言うなれば、雨が降る前の雨雲、台風が来る前の強風、地震が起こる前の余震の様な物であった。


シンがそれを伝えたタイミングで前方で強い光が上がる。

さっきの光と唯一違うのはその光が赤色だったことだ。

なんとも緊張感を与える色である。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……


数秒後に物凄い音が聞こえてきた。

三人はその地響きのような音に唖然とする。


シンはその魔力が近付いてきているのをしっかりと感じ取っている。

一呼吸入れて、気を取り直すと、障壁に魔力を注ぎ、強化する。

更に、その大きさも広げる。


直後、周辺を埋め尽くすほど大量の野菜が流れてくる。

そう、それは最早飛んでくるではなく、流れてくると表現した方が適切に見えるほどであった。


それらの大量の野菜はシンの障壁を叩き轟音を響かせる。

ぶつかった野菜はどんどん下に積もっていくが、後から飛んできた野菜に押しのけられて転がっていく。

少し離れた位置にあった誰かの魔法陣は叩き壊され、既に機能していなかった。


「おらあああぁ!!!」

「はぁぁあああ!!!」


エルディオとフイスは風の斬撃を頭上に飛ばしている。

流れていく野菜は膨大で、命中率は百パーセントだ。


だが、その野菜の波が途切れることはない。


「わ、私、もう魔力が限界なんだけど」

「俺も残り僅かだな」


フイス、エルディオが魔力切れを訴える。

フイスは昼間に一度魔力切れを起こしている上に、展開魔法でだいぶ魔力を消費していた。

エルディオは夕食前までアルフレッドと魔法の特訓をしていた為、最初から半分程しかなかった。


「それじゃあ、ここで中断して戻りましょう」


野菜はいつまでも流れている為、障壁を展開したまま塔へ戻る。

そのまま三人は各部屋に戻った。


食事時に魔力を感じて、そとに出てから三時間が経過していた。

外からは未だ野菜の流れる音が聞こえてくるのだった。

シンはその音を聞きながら、いつもよりも遅い就寝となるのだった。

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