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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二章 浮遊都市国家エデン
19/60

模擬魔法戦

食堂で食事を摂り終えると、連行されるように地下一階の魔法特訓部屋に向かう。

フイス、ルイスはもちろんアルフレッドも同行している。

この魔法特訓部屋を使う時は万が一に備えて、アルフレッドの付き添いが必要になっている。


中央の螺旋階段を下りて地下一階に行くと四方に扉がある。


「部屋が四つありますけど、何か違うんですか?」


シンが気になったことを聞いてみる。


「いや、特に違いはないの。同時に四部屋は使えるというだけじゃよ」

「最初っから決めてなくても部屋の設定は自由なんだよ」


アルフレッドの続きをエルディオが言うが、なんとも偉そうである。

エルディオは階段の正面にある扉に近付くとなにやらいろいろと操作しているが、あれが設定だろう。


「まあこんなもんだろ。よし、始めようぜ」


エルディオは一通り設定を終えたようで、扉を開く。

扉をくぐると、そこには古い文献で見た、闘技場がそびえ建っていた。


「じゃあ、わしらは観客席に行こうかの」


アルフレッドはフイス、ルイスを連れて観客席に向かう。

シンはエルディオと共に場内の舞台に上がる。


舞台上で二人が向き合う。


「それじゃあ、始めるぞ」


エルディオが早速始めようとするが、シンはそうもいかない。


「ちょっと待て、勝敗はどうやって決まるんだ?」


何がどうなったら勝ち負けが決まるのか分からなければ勝負のしようがない。

だが、それに対するエルディオの答えはさらにシンを混乱させる。


「そんなの、相手を殺したら勝ちに決まってんだろ」

「は? ……は?」


あまりの回答に二度聞き返してしまう。

そこにアルフレッドの説明が加わる。


「あー、あー、シンよ、この部屋の中で死んだ者には即刻蘇生魔法が発動するようになっておる。じゃから安心して戦ってよいぞー」


魔法で拡声しているのか響くような声が聞こえる。

そういうことならとシンが構える。

シンが構えたのを見てエルディオも再び構える。


数秒後にエルディオが動く。


「行くぞ!」


肉体に身体強化をかけ、シンに向かって走り込む。

同時に魔力がエルディオの上部に展開される。

エルディオは展開された魔力を器用に動かし魔法を発動させる。


エルディオの周囲に三つの武器が出現する。

生成魔法の一段手前、具現化魔法だろう。


生成魔法で創りだした物は決して消えない。

対して、具現化魔法で創りだした物は魔力の減少に従い消滅する。

その分生成魔法よりも使用する魔力が少ないという利点があるが、二度目の使用ができないという欠点がある。


エルディオが具現化した三つの武器、剣、槍、鉈、はシンに向けて射出される。

さらに、その間にもシンとの距離を詰め、同時に手元に剣を、次射出用に槍を三本具現化している。


対して、シンは最初に飛んできた三つの武器を体裁きだけでかわすと、手元に一本の剣を生成する。

シンは未だ身体強化を行っていない。

完全に様子見に徹している。


射出された三本の槍を、一歩下がって避け、剣を構えて逸らし、顔を傾けて躱す。

続けて差し迫ったエルディオに右手の剣を振り下ろす。


エルディオはその振りを見ると口元に笑みを浮かべる。


「あめえ!」


エルディオは右手の剣を逆手に持ち替え、シンの剣を逸らすように構え、左手の剣でシンを突き刺さんとする。

だが、右手に受けた感覚は予想よりも非常に軽く、逆にシンの体を捉えるはずの左手は硬い金属に阻まれる。


いつの間にかシンは右手の剣を手放しており、左手に新たな剣を生成して背中を防御していた。

さらに、空いた右手に新たな剣が生成され、エルディオにその切っ先を向ける。


本能で危険を感じ取ったエルディオは、前進の勢いを乗せて踏み込んでいた右足にさらなる力を込めて後方へ跳躍する。


下がるエルディオの目の前までシンの突き出した剣が迫った。

あと、数秒遅ければ確実に片目は刺されていただろう。

その事実にエルディオの体中から汗が噴き出す。


だが、距離を置いたことで安心したのか、エルディオは注意を欠いた。

いや、むしろシン本人に注意を向けすぎたというべきだろう。


シンが姿勢を崩し、右手に持つ剣を左手に持ち替えると、その右手を手刀のようにして自分の首筋を叩く。

エルディオは一瞬何をしているか分からず怪訝な顔をするが、すぐに自分の首筋に冷たい金属が触れていたことに気付く。


エルディオが視線を向けると、シンが一番最初に生成した剣が首筋に突き付けられていた。

両手に持つ剣を消失させると、両手を挙げて降参する。


すると、首筋の剣は独りでにシンの元まで飛んでいく。


エルディオはその場に膝をつき、座り込む。

シンがエルディオの元まで歩いていくと、エルディオが聞いてくる。


「貴様、あの剣はいつの間に?」

「なんてことはない、お前が飛び下がったときに一緒に飛ばしただけだ」

「そうか、やはりあれは具現化ではなく生成か」


エルディオの一番の敗因はシンの剣も具現化魔法だと思い込んでしまったことだろう。

自分がよく使うからこそ、相手もそうだと思い込んだのだ。


「勝負あったようじゃな」


観客席からアルフレッドが二人を連れて飛んでくる。


「だらしないわね。一分もかかってないじゃないの」

「二人とも、怪我はないですか?」


あまりに早い結末にフイスが小言をこぼす。

ルイスは戦闘を行った二人を心配しているが、実際外から見ればそんなものだろう。

エルディオが強化した肉体で一気にシンに近付き、数秒剣を交えたら、大きく後ろに飛び退き、そこで勝負が終わったのだから。


エルディオからしてみれば学ぶところが多すぎる試合であったが、観戦するには物足りないだろう。

だからこそエルディオは言い返す。


「フン、貴様も所詮似たようなものだろう。いや、むしろ貴様の方が短いかもな」


そんなことを言われてプライドの高いフイスが黙っていれるはずがない。


「いいわよ、やってやろうじゃない。あんたとは違うことを見せてあげるわ。勝負よ! シン!」

「相手になる」


続けてフイスとの模擬戦が決まる。


「ふぉっふぉっふぉっ。ではまた観戦と行こうかの」


アルフレッドはエルディオとルイスを連れて観客席に戻っていく。

三人が戻るのを見てから、シンとフイスが間を空けて向き合う。


「いつでもどうぞ」


シンが先手を譲る。


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


フイスが身体強化を掛ける。

エルディオのものよりも強化率は低いが、魔力をほとんど使っていない。


「いくわよ!」


フイスが両手を掲げて魔法を発動させる。

突き出した手の周辺にいくつもの炎球が創られる。

数多くというほどではないが、複数の炎球がシンに向けて飛ばされる。


(見た目の威力に比べて込められた魔力が多いな)


シンはそこに隠されるもう一つの罠を見抜いていた。

素早く同数の氷礫を創ると炎球にぶつける。


ぶつかった氷礫は炎球に呑まれた瞬間爆発する。

同時に炎球に隠された術式が誘発して、炎球が爆発する。


シンとフイスの間が爆炎で埋められ、互いが見えなくなる。

フイスは自分の予定していた位置とは異なる位置で爆発したことに悔しそうにするも、すぐに横に向かって駆けだす。

同時に魔法を展開して氷針をいつでも飛ばせるように準備する。


爆発が収まったところで、フイスはシンの姿を捉える。

そして、その周囲に展開されたものも見てしまう。


そこには丁度爆炎で見えなかった範囲一体を埋め尽くすほどの土、風、氷でできた針が無数に存在した。

そして、無数に存在するすべての針はその尖った先端をフイスに向けていた。


フイスは自分の顔から血の気が引くような感覚を感じる。

そこに、シンの透き通った声が聞こえる。


「行きます」


フイスはその言葉を聞き取り、ハッと我に返ると、展開してあった氷針を飛ばす。

そして、即座に前方に全力の魔法障壁を張った。


直後、無数の針が障壁を叩く。

響く轟音が針の威力を語る。


その音はフイスの体を揺さぶり、その威力は魔力を出し続ける手を痺れさせる。

少しでも気を抜けば障壁は破られ無数の針が体中に突き刺さるだろう。

フイスは障壁を前方にしか張っていないが、その面積を超えて飛んでくる針は横に避けることも許さない。


フイスはちらりと障壁の先を見る。

そこには視界を埋め尽くす無数の針がものすごい速度で突っ込んでくる。


「ヒッ」


その迫力に短い悲鳴を上げ座り込んでしまう。

座って面積が小さくなった分障壁を小さくし、浮いた魔力を障壁の強化に回す。


しかし、針の雨は終わる気配を見せず、寧ろ、その威力を上げている。

フイスは自分の中の魔力が次第に減っていくのを感じる。


そして、ついに障壁が破られる。

フイスは頭を抱えて身を屈め、痛みを堪える覚悟をする。


だが、障壁を破ってフイスに突き刺さるはずだった無数の針は一向に当たらない。


「あの、大丈夫ですか?」


不意に上からシンの声がする。

フイスが顔を上げると、そこに無数の針は一本も見当たらず、シンが心配そうにのぞき込んでいた。


「え? え? 魔法は?」


フイスがキョロキョロと周囲を見回しながら訊ねる。


「当たる前に全部消したはずですが、当たってないですよね?」


シンはフイスに手を差し出しながら答える。


「あ、ありがとう、大丈夫よ」


フイスはシンの手を取ってその体を起こす。

だが、立ち上がろうとしたところで、足に力が入らず倒れてしまう。

慌ててシンが支え、何とか立ち上がる。


「ふぉっふぉっふぉっ。大丈夫かの」

「お姉ちゃん! 大丈夫!?」


アルフレッドがまた降りてきていた。

ルイスはシンに捕まり、支えられている状態の姉に近付く。


「ええ、大丈夫よ、ぉお!?」


フイスがシンから片手を放し、ルイスの頭を撫でようとしたところで、シンも手を引っ込めようとした為、再び倒れかける。

慌てて、シンが再び支える。


「お姉ちゃん、やっぱり大丈夫じゃないです」

「大丈夫! 大丈夫だから!」


あられもない声を上げた姉を見て、オロオロしだしたルイスを顔を赤くしながらなだめる。

そして、黙ってこちらを見ているエルディオに気付く。


「な、何よ?」

「フン」


エルディオはジト目を向けるフイスを鼻で笑う。


「なっ! あんたも大して変わんないじゃない!」

「違いを見せてくれるんじゃなかったのか?」

「あんたよりは長く戦ってたわよ」

「ああ、確かにな。無駄に時間ばかり費やしていたな」

「うっ…」

「挙句に魔力切れで立てなくなるなんて、無様だな」

「う~~~~~」


フイスは完全に言い負かされ、シンの胸に八つ当たりの頭突きをする。

シンは特に気にした様子もなくされるがまま苦笑を浮かべている。


「ふぉっふぉっふぉっ。まあ、二人ともいい特訓になったじゃろ。シンもいい気晴らしになったかの?」

「そうですね、運動としては物足りませんが、気分転換にはなりました」


結局二試合で二分戦ったかどうかといったところだ。

しかも、どちらの試合もシンはほとんど動いていない。


「そうかそうか、まあ、みんなここにいる間はやりたいようにやっとくれればよい。それで、フイスちゃんはそろそろ立てるかの?」

「いえ、まだちょっと」


アルフレッドがフイスの容態を聞くが、フイスはまだ、ほぼ全ての体重をシンに預けている状態だ。

シンは心の中で溜息を吐くと、フイスを持ち上げる。


「ひゃっ、ちょ、ちょっと、何を!?」

「いえ、動けなくなってしまった原因の一端は僕にありますから」


フイスが驚いて聞いて来るが、シンは淡々と答える。


「お姉ちゃん、お姫様だー。いいなー」


そう、今フイスはお姫様抱っこの状態で持ち上げられている。

ルイスはうらやましがっているが、フイスの顔は真っ赤だ。


(ルイスさんにはもうしたんだけどな)


そんなことを思いながら部屋を出る。


「どこまで行きますか? お姫様」

「とりあえず部屋で…」


シンがにっこりと笑いながらフイスに声をかけると、フイスはさらに顔を赤くして、今にも消えそうな声で答える。


「かしこまりました。お姫様」


そう言って、もう一度笑みを向けると、飛翔魔法を使って、十九階まで一気に飛ぶ。


「うわっ! 凄い、シンは飛翔魔法も使えるのね」

「魔力制御には自信があるんです。部屋はどれですか?」


フイスの部屋の場所を聞き、そこまで運んであげる。


「では、僕はこれで」


シンはフイスを部屋の中の椅子に座らせると、部屋を辞して、一階まで降りる。

そのまま二番塔へ向かい再び本を読み始めたのだった。


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