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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二章 浮遊都市国家エデン
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浮遊都市国家エデン

シンは雷帝龍の下を辞してからひたすら南に向けて進み続けていた。

それは、雷帝龍に会う前と変わらないが、一つだけ大きな変化があった。


速い。


おそらく、‟雷帝龍の祝福”が何らかの影響を及ぼしているのだと思うが、明らかに速くなっている。

あと偶に残像が残ったりしている。

まあとにかく、普通じゃ考えられないほど速くなった。

魔力は無駄に消費させられたが、それを補って余りある収穫だ。


その速度でひたすら南下していると、前方下方に大きな魔力を感じ取れた。

とはいっても、雷帝龍ほどではない。


(雷帝龍の四分の一程度だろうか。正確な大きさが分からなくなってきた。

よくよく考えてみるとエンドさんの魔力が雷帝龍並っておかしくないだろうか)


同時にそれよりも一回り小さい魔力が七つほど感じ取れた。

この七つの魔力はだいたいシンと同じくらいである。


さらに、大きい一つと他の七つが魔法を打ち合っているのも魔力感知で分かった。


(また変に強いのだったら嫌だな)


シンは前回の失敗を繰り返さないために早めに雲の下に降りることにした。

当然光学迷彩を忘れない。


視力を強化すると、かなり遠方に空に浮かぶ巨大な島と、イカの足のようなものが見えた。

島の上には六人の男性と一人の女性が杖を掲げて魔法を使っていた。

シンは一目で理解した。


(あそこにいるの、全員魔導師だ)


炎や氷、雷撃や斬撃を繰り出し、イカの足を攻撃する。

一撃一撃にかなりの魔力が込められ、一撃で一本イカの足を消しとばす。

消しとんだイカの足は即座に再生し、反撃を繰り出す。

その威力は魔導師たちの魔法よりも数倍強く、魔導師たちの張った魔法障壁を叩き壊した上で攻撃を届かせる。

直撃した者は体が潰れて即死、かすったものは重傷。


今もまた、イカの足が障壁を打ち砕き男の魔導師を潰す。

同時に少し後ろにいた男女一人ずつのうち、女性の方がそこそこ魔力を込めて魔法を発動させる。

かなり強力な聖魔法だ。


潰れたはずの魔導師の肉体が元の状態に戻り、再び動き出す。

蘇生魔法。

聖魔法の中でも特上の魔法で魔術士の中で使える者はいない。

魔導師の中でも、相性が良くないとほぼ使えない魔法であり、相性が良くても何らかの制限が必要な場合がほとんどである。


それが使えるということは、後ろに下がっている男女は聖魔法と相性が非常に良いというわけだ。

しかし、消費した魔力が大きいため、すぐに魔力生成に入っている。

座って、目を閉じ、体内で新たな魔力を練り上げる。

半睡眠状態と言ってもいい。


その間も前衛の魔導師はイカの足を攻撃する。

違いは、回避に多くの魔力を廻しているとこだ。

だが、それも僅か数秒だ。

蘇生魔法を発動させるだけの魔力生成を数秒で終えてしまい、すぐに戻る。


シンはその戦闘の様子を見ながらも浮かんでいる島に近付く。

島に上陸しようと近付いていくと、島の直前で空間系の魔法が発動されていることに気付く。

シンは特に害はないと判断して、魔法の領域内に入る。


そこには、外から見たよりも明らかに広大な土地が広がっていた。

土地の中心部の方には巨大で豪勢な屋敷がそびえている。


と、すぐそばに空間魔法を感じ取り停まる。

老齢の魔導師が転移してシンの前に現れる。


「やあ、少年。よく来たね。私はアルフレッド・シャッファー、この島の四代目の管理者だ」


老人は微笑みを浮かべ、挨拶をし、手を差し出した。

シンはローブの隙間から手を出し応える。


「初めまして。シンです」

「うむ、ではまずは中央塔に行こうかの」


老人がシンの手を握ったまま転移する。


目の前にはあの豪華で仰々しい建物があった。

建物の大きさには合っていない普通の大きさの扉をくぐり、長く続く廊下を歩くと、かなり広い空間に出る。

中央には螺旋階段があり、上が見えないくらい高くまで続いている。


「ついて来てくれ」


そう言うと老人は体を浮かせ、上の方へ飛んでいく。

シンも後を追って飛翔する。

途中幾層もの階を抜けて上から二番目、数えた限りでは十九階に着地する。

アルフレッドはその階の一部屋を指しながら言う。


「あの部屋を好きに使うと良い。何か欲しい物や聞きたいことがあったら何でも儂に言うと良い。儂は基本的にあそこにいるからの」


今度は上の階、最上階に一つだけの部屋を指す。


「……あの、この子、どうしたら」


シンはそこでようやく話を切り出した。

包んでいたローブを広げ、ようやく女の子が姿を出す。


やせ細り、呼吸も意識も魔力さえもほとんどない少女。

そんな少女を見て、ずっとニコニコと笑みを浮かべていた老人の顔に驚きの表情が浮かぶ。


「…っ! リービア! すぐに来るのじゃ!」


老人が左手を頭に当てて叫ぶ。

シンの見立てでは念話魔法で、口に出す必要はないはずだが、老人はひどく慌てた様子であった。


十秒もしないうちに下の方から女の人が飛んでくる。


「いったい何事ですか?」

「早く彼女に治療をしてやりなさい」

「彼女?」


そこでリービアの視線がシンに向き、同時に女の子も目に映る。


「なっ……! 分かりました。預かるわね」


リービアは一瞬息を呑むと、すぐに受け、シンから女の子を受け取って下層へ降りていく。

シンとアルフレッドはそれを見送る。


「少年、シンといったな。彼女について聞かせてもらえるかの?」


アルフレッドは悲しげな笑みを浮かべてシンを見る。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



「そうか。出会った時にはそんな状態じゃったか」


少女と出会ってから、ここに着くまでの二日間の顛末を話すと、老人は悲しげに溜息を吐いた。


「して、シンよ。お主はその年でずいぶん巧みに魔法を使うが、師でもおったか?」


実は雷竜との勝負の途中で魔力の余裕がなくなって来た時に、女の子に魔力を供給していたのを止め、彼女を覆っていたローブ内の時間を止めたのだ。

非常に精密で繊細な魔力制御が必要であったが、杖の魔力をで発動させれるため魔力の保持ができる。

その分、現在の杖内部の魔力は減っている。


「うん。エンドさんがいろいろ教えてくれた」

「ほほう、エンドとな。また懐かしい名前が出たもんじゃのう。あの若造は元気にしとったか?」

「はい、あの、エンドさんを知っているんですか?」

「そりゃあもちろん。十年、いや二十年前だったかの、あの若造もここにいたんじゃよ。あいつは本当に魔導師かと疑いたくなるくらい調べ物や研究が嫌いじゃったの。お前さんはどうか知らんが、ここにいる間は、他の人の研究の邪魔さえせねば何をしていてもよいぞ」


その後もいくつかこの島の地理や暮らしている人などの情報を聞いた。

アルフレッドは最上階の部屋へと去っていった。


アルフレッドが話した情報によると、

まず、この十九階には身寄りのない、もしくは親の元を出た成人してない子供が暮らしていて、今はシンの他に男子一人、女子二人がいるらしい。

因みに、他の成人している大人たちはこの館の周辺や、自分が研究で使いたい地形の傍に家を建てて暮らしている。


次に、これらの子供達や、自分で食事を作らない他の大人たちのために、一階に食堂がある。

また、ここで医学を調べているリービアさんも一階に住んでいて、治療魔法の使えない人たちが怪我をしたらリービアさんに見てもらうそうだ。


残りの二階から十八階までと、この中央塔を囲む四本の塔は書庫になっており、今までの魔導師の研究の成果や、それらの要約本が分野ごとに分けられて置かれている。


この島は浮遊島であるために東西南北が安定しない。

故に、塔には番号がついており、螺旋階段から入り口の方を向いて時計回りに一番塔から四番塔となっている。

それぞれの塔は十八階建てで、一階、十階、十八階がそれぞれ渡り廊下で中央塔とつながっている。


この島には地下が存在している。


地下一階は魔法特訓用の部屋がある。覚えた魔法を試すためだ。

これらの部屋はエンドの研究成果である世界魔法をアルフレッドが術式に組み立てたもので、ほんの五年前に新しくできたものらしい。

他にも算術魔法や展開魔法などの特殊魔法を組み合わせてあり、いろんな条件下での特訓ができる。


地下二階以下にはいくつもの術式が存在していて、この島の浮遊も、書庫の保存魔法も、島の空間魔法も、全てそこにある術式で発動しているらしい。

故に、そこに影響を及ぼす魔法の発動や、研究は禁止になっている。


‟雷帝龍の祝福”のおかげで、予定よりずいぶん早くここまで来れたシンだが、まだ昼食を食べていない。

雷帝龍のもとで手に入れた情報はいつまでも有効ではないため、急いでここまで来たのだ。

更に、その後もアルフレッドから話を聞いていた為、今は昼をだいぶ過ぎている。


シンはとりあえず、食堂へ行ってみることにした。

食堂では女性の魔導師が魔法を駆使して料理を始めた所だった。

女性はシンに気付くと声をかけてくる。


「あら、初めて見る顔ね。私はシェン、この食堂でみんなの食事を作っているわ。同時に栄養学の研究をしているわ」

「初めまして。シンです。今日来ました」


いろんな食器を魔法で動かしながらもシンに声をかけてきたシェンの後ろにはたくさんの本が積まれている。


「そう、シン、最初に言っておくわね。ここで出る食事は一日三食、私が片手間に作るものだから食べれる時間が決まってるわ。朝六時から八時、昼十二時から十四時、夜十八時から二十時よ。時計は中央の階段についてるわ。それ以外で食べたいなら自分で作ること」


シェンがそこまで言ったところでシンのお腹が鳴った。


「あはは、最初だから特別だよ。なんか作ってあげるから待ってな」

「ありがとう」


別になければシンは食べれるものを持っているから、それを食べるつもりだったのだが、作ってくれるなら頂きたい。

シンはお礼を言って、席に座って待つ。

しばらくするとシェンがスープとパンを載せたお盆を魔法で送ってくる。


「ありがとう」


シンはもう一度お礼を言って、食べ始める。

シンが食べ始めてすぐに厨房の方で扉が叩かれる。


「シェンー、イカ釣れたー」

「はいはい、今空けるよ」


シェンが反応して奥へ行ってしまう。

奥の方でばたばたと騒がしくなっており、シンが食べ終わってもまだ戻ってこなかった。

シンは食器を返却口と書かれているところにお盆ごと置いて、食堂を後にする。


それから、シンは書庫に向かう。

中央塔には魔法や魔力に関する本が、一番塔には物理学、化学に関する本が、二番塔には医学、生物学に関する本が、三番塔には地理学、科学に関する本が、四番塔にはその他の学問書本が置いてある。


最初にシンが向かったのは二番塔だ。

本来ならば中央塔に置いてあるような本を読みたいと思っていたのだろうが、シンは自分が女の子に何もしてあげれなかったことを悔しく思い、先に医学に手を出すことにしたのだ。

というか、今でも女の子の状態がどういったものかさえ分かっていない。


一階の渡り廊下を通り二番塔へ向かう。

本を維持するために保存魔法がかけられている為、書庫の中は埃も本の古臭い匂いもない。

シンが書庫の中に入ると、それに反応して近くの光球が灯る。

奥に大量の本棚が並んでおり、本がびっしりと詰まっている。

上を見上げると天井まで吹き抜けになっており、各階が見えるが、どこも同じように大量の本棚が並んでいる。


その多さにシンは辟易しながらも一番近くにあった本に手を伸ばす。

だが、数ページ読んだだけで戻してしまう。

専門用語が多くて読んでいても全然意味が頭に入ってこないのだ。


その後、シンは塔内を動きまわって専門用語の辞書といくつかの簡単そうに纏められた本を揃えると、本棚の側面を背もたれにして座り込み、本を読み始める。

しかし、シンは今日一日、主に雷帝龍のせいで魔力を使い果たし、疲れていたので、そのまま眠ってしまうのだった。


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