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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第二章 浮遊都市国家エデン
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空中戦

朝、目を覚ますと、隣で昨日拾った女の子が眠っている。

ひどく呼吸がゆっくりだが、辛そうにしている。

目を覚ます気配はないため、シンは手早く朝食を摂る。

そして、女の子を抱き上げると、昨日と同様にローブで包み込む。


部屋を出て、受付に鍵を返し、宿を後にする。

まだ朝早いため、周囲に人の気配はない。

建物の中では人が活動している気配もあるが、視線は感じない。


シンは光学迷彩を発動させるとこの場で飛翔魔法を使う。

空高く、雲の上まで飛ぶと、光学迷彩を解除する。

そして、南に向けて移動し始める。


同時に、女の子に魔力を供給する。

彼女の魔力総量は昨日から着実に減っていた。

彼女自身も魔力を創り出してはいるのだが、それでも減少の傾向にあり、シンはこの魔力を切らしてはならないと直感で察していた。


飛翔に使う魔力と彼女に供給している魔力を総じて、シンが起床中創り出せる魔力をわずかに超える。

当然飛行速度は昨日よりだいぶ落ちている。

だが、途中で魔物と戦闘になる可能性も考慮すると、これ以上の速度を出すわけにはいかない。


とにかく早く浮遊都市に着く必要があった。

本当は瞬間移動でエンドの家に戻ればいいのだが、シンは戻るという選択肢を思いつかなかった。


空を飛んでいると、当然魔物の領域に入る。

すると、極まれに飛行型の魔物が襲ってくる。

旧国境の山脈からも外れているし、辺境からも離れているため、非常に弱い。

国内中心部の飛行型魔物は非常に珍しく、山なども少ないため地上に近いとこにいる。

これらは旅をしながらブレイに聞いたものだ。


シンは昨日と同じように一撃で魔物を屠っていく。

その頻度は昨日の半分以下である。


意外と戦闘になる魔物が少ないことに安堵しながらシンは南下を続ける。

そして、不意に前方上空にたくさんの魔力反応を感じ取った。


驚いて移動を停める。

既にだいぶ中央部まで来ている。

それなのに雲の上を飛ぶシンよりも上を飛んでいる魔物がいる。

このまま進むと戦闘になる可能性が高い。

だが、シンは一刻も早く移動したかった為、そのまま進むことにした。


シンが進み続けると魔物の反応は強くなる。

魔物の領域に近づくと、魔物もシンの存在に気付いた。

魔物が近寄ってくるのを感じ取りながら、そちらに視線を向ける。

目に魔力を送り、視力を強化すると、魔物がはっきりと見て取れた。

それは、風竜だった。


ブレイが教えた、飛行型の魔物が少ないという情報は、あくまでも陸上を移動する場合だけだった。

魔物の領域は重なることがないと言われているが、それは正しくない。

正確には互いに影響を及ぼすようであれば重ならない、である。

そして、はるか上空を飛ぶ竜の群れに影響を及ぼす魔物は存在しない。


風竜は世界最強の一角として捉えられる龍種の中でも最弱の部類である。

最弱たる所以は、龍種の最たる武器であるブレスが球状で持続性が無いからである。


それでも、龍の名を持つだけあって、それなりには強い。

冒険者のAランクパーティー一つで一匹何とか倒しきれるくらいだろう。


風竜はその名の通り風属性の龍であり、その最大の特徴は飛行能力にある。

シンがとばした風の斬撃は軽々避けられてしまった。


(チッ、でかいくせに速いな)


シンが得意とする風魔法を軽々と避けられ、シンは舌打ちをする。

シンがストレスを感じたのはこれが初めてかもしれない。


続けざまに風の斬撃を打ち込む。

さっきよりも魔力を込めてだ。

竜との距離も近付いている。


四発ほど放った風の斬撃は先頭集団五匹の内、最前の三頭に避けられたのち、二匹に一発ずつ当たり、残り二発は当たることなく消滅した。

斬撃の当たった二匹の内、片方は直撃で首を切り落としたが、もう片方はかすっただけでわずかにバランスを崩すに終わった。


回避した先頭三匹はこちらに風の球を放ってくる。

最弱の部類である風竜のブレスである。

ただ、単発であるため、回避は容易だ。


三つの風の球を軽々と避ける。

その時、前方上空、竜の群れの中に巨大な魔力を感じ取った。

ヤツバで魔物が襲来した時にエンドが一瞬だけ見せた魔力と同規模のものだ。


巨大な魔力に驚き、一瞬シンの動きが止まる。

その隙に風竜は距離を詰め、その牙をシンに突き立てんとする。

シンの反応が遅れる。


(しまった)


障壁は間に合わない。

シンは即座にローブを膨らませた。

同時に外側を硬化させる。


竜の牙と硬化したローブがぶつかり高い金属音を響かせる。


この技術もエンドの特訓の成果だ。

魔力の制御と共に杖の魔力操作をこなせるようになってから、エンドに強く言われ、体に叩き込まれた技術である。

この特訓の最中、エンドは常に「反射で杖を使え」と言っていた。

なかなか難しく、殴られては治療してを何度も繰り返した。

そのおかげで辛うじて防御が間に合った。


そのまま攻撃に移る。

形状変化はお手の物。

ローブの外側表面から鋼鉄の棘を繰り出す。

棘は竜を貫通し、絶命させる。


棘を引っ込めると絶命した竜は力なく落下していく。

下に何があるかはシンの知ったことではない。

というか、今はそんなことを気にしている余裕がない。


わざわざ棘を創るよりも、ローブの先端を刃と化し、振るった方がシンとしては得意なのだが、今はその先端は女の子を包んでいる。

それによって、どうしても一度防御してからの攻撃になってしまう。

それに、移動速度はどうしても落ちる。

唯一の救いが攻防の要となっているローブの変形に魔力の消費がないことか。


二匹目、三匹目と攻撃をローブの硬化で防いでから表面に棘を創って刺し殺す。

そのまま南に進み続けているが、巨大な魔力の主は動きを見せない。

四匹目、五匹目と同様に倒していき、徐々に巨大な魔力に近付いていく。


二十匹、三十匹と倒したあたりでようやく巨大な魔力の正体が見えた。

人の五倍以上の大きさを持つ風竜の優に十倍以上の大きさを持つ龍。

雷を司り、龍種の中でも上位の存在、雷帝龍エレクトリックエンペラードラゴン


(うわー、あれは流石に相手できない)


シンがそんなことを考えながらも風竜を倒していると、雷帝龍がその体を起こす。

そして、猫が伸びをするような姿勢をしたかと思った次の瞬間、雷帝龍が激しい光を放ち、視界を覆われる。

目を逸らした時には、雷帝龍は目の前にいた。


「ほう、人間が空を飛ぶか。酔狂なり」


超上位の魔物は非常に知能があるため、人の言語も話せる。

この世界の常識であるが、知らない人も多い。

というか、知らない人の方が多い。

そもそも、超上位、ランクSやランクSオーバーの魔物は人が踏み入れる場所にいない。

シンも知らなかった為、結構驚いた。


「なっ! あんた人の言葉を話せるのか!?」

「ふん、我を何と心得る。して、人間、ここで何をしている。話せ」

「あ、いや、南目指して移動しているだけだけど……」

「用なく我の前を横切ったとぬかすか!!!」


雷帝龍が吼え、周囲に雷撃が走る。

その迫力に圧され、シンが竦む。


「とはいえ、珍しき空飛ぶ人間だ、ここは一つ勝負と行こう」

「勝負?」

「なに、難しいことではない。ただの競争だ」


そう言って、雷帝龍は風竜たちの方を見て低く唸る。

すると、何十匹もの風竜が二列に並ぶ。


「最速の龍である我が相手では勝負にならんからな」


今度は短く吼える。

すると近くにいた一匹の風竜の魔力が爆発的に増え、体が大きくなり、体に僅かながら雷を纏う。


「こいつが相手だ」


雷帝龍の力で風竜から雷竜へと進化したのだ。

雷帝龍の言葉からは既に上機嫌であることが窺える。


「こいつと人間で競争して、先にこの列の最後尾を抜けた方の勝ちだ。簡単だろう?」

「はあ、わかりました」

「妨害はありで負けた方は殺す。さあ、スタート位置に行け」


最後におっかないことを言って雷帝龍はコースの上空へ移動する。

雷竜もスタート地点に移動した為、シンも移動する。


(なんでこんなことに)


今更後には引けないし、今のシンでは雷帝龍と戦っても勝ち目はない。


「我の爆音が開始の合図だ。いくぞ。ヨーイ」


爆音が鳴り響く。

そのあまりの大きさに驚いて出遅れる。

一方、雷竜はいい出だしだ。


大きく引き離されるが、シンは魔力を出し惜しみせずに加速する。

女の子を抱えている為、最高速は出せないが、それでも特訓を受けたシンは彼女に気を配りながらも雷竜より速い速度が出せた。

スタートで出来た差は四分の一も行かないうちに無くなる。


しかし、このレースは妨害ありだ。

シンが雷竜を抜いたとたん、雷竜が電撃をとばしてくる。


シンは魔力と殺気を感じ取り魔法障壁を張る。

そちらに気を取られて、速度が落ちたところで雷竜が横に着く。

そして、その巨大で鋭い爪をシンに向けて振るう。

それをローブを膨らませて受ける。


だが、そこに雷撃が流れた。

シンは直感で雷撃に気付き、ローブの一部をゴム化することで回避する。


「この、くそったれがあああぁぁぁ!!!」


雄叫びをあげ、雷竜を遠ざけるように風の斬撃を乱発する。


もし、シンが雷竜の雷撃を受けてもシンの持つ魔力が抵抗となるため、火傷を負う程度で済むだろうが、抱えている女の子は即死だろう。

それが分かったからシンは怒ったのである。


雷竜は離れながら斬撃を回避する。

だが、シンの放った斬撃は雷竜を通り過ぎた後、爆散して戻るよう仕掛けられていた。

雷竜は突然折り返した、数多の斬撃をその身に浴びる。

大きさは小さくなっていたが、その鋭い切れ味の斬撃は雷竜の体を切り刻んだ。

しかし、まだ終わりではない。

折り返した斬撃の中で雷竜に当たらず消滅しなかったものは、シンの手前まで戻ると、さらに爆散し、無数の弾丸となって再三雷竜に襲い掛かる。


雷竜は体中に数多くの傷を負ったがそれでも倒れないところが龍族のタフさを象徴している。

だが、満身創痍となった雷竜にシンを止める術もシンより速く移動する術もない。


シンは雷撃には特に注意を払いながらもゴールする。

シンがゴールすると同時に物凄く強烈な光がおこり、雷竜は塵一つ残さず消滅した。


「人間、なかなかやるな。面白かったぞ。何か褒美をやろう。好きに申せ」

「えーっと、じゃあ、浮遊都市国家エデンの場所を教えてください」


雷帝龍が宣言通り雷竜を殺してしまった、しかもとてつもない威力で、シンは毒気を抜かれた気分だ。

雷竜のことなどなかったように話をしてくる雷帝龍に、シンはとりあえず今一番欲しい情報を要求する。


「ふむ、エデン、というと、あれだな。五百年ほど前からその辺を漂ってる。今は確か、ああ、南の海でイカを釣ってると思うぞ」

「はあ、南の海ですね、ありがとうございます」

「ちょっと待て」


シンがお礼を言って去ろうとすると、引き留められる。


「何でしょうか?」

「お前さんにはこれをやろう」


雷帝龍が短く吼えると、シンの脳内にメッセージが浮かび上がる。


『‟雷帝龍の祝福”を獲得しました』


「これはいったい?」

「なに、我の力をちょっと分けてやっただけだ」

「はあ、ではこれで」

「うむ、達者でな」


今度こそ南、浮遊都市国家エデンに向けて再出発する。

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