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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第一章 成長
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出発

魔物の襲撃から半月。


ヤツバに来てから半年、シンとエランドによる魔術の研究は続けられたが、めぼしい成果は得られなかった。


「やっぱりだめだな。俺ら二人じゃこれ以上の考察すら挙がらんだろうな」

「そうだね。僕も自分で使っていながらほとんどなんとなくだしね。未だに」

「俺もそうだな」


シンが四種の基礎属性全部の魔術を使えるのに対して、エランドは新たに習得することは出来なかった。

対して、シンは存在強化の魔術を習得していた。


半年の間、エランドが魔術の習得に四苦八苦していた一方で、シンはエランドから隠蔽魔法や空間魔法の術式、魔道具の作り方など多種多様な技術を習得しまくっていた。

もともとシンは才能が有り、こと魔法に関しては天才と呼ばれたエランドを唸らせる程だった。


「それで? どうするの?」


シンの問いにエランドは少し考える素振りを見せる。

しかし、既に答えは出ているのか、すぐに口を開く。


「エデンへ行くぞ」

「エデン?」

「そうだ。浮遊都市国家エデン。多くの魔導師の拠点でな、古から最先端の研究データが集まってる。そこに行けば何かしらヒントになる物があるだろ。んじゃ、まずはブレイのとこに行くか。しばらく帰ってこれないだろうからな」

「え? 転移で行かないの?」


エランドの言葉にシンは驚く。転移魔法を使えばどこでも好きに行き来できる。てっきりこの街を拠点に転移でエデンに通うものだと思っていたのだ。


「いや、エデンは浮遊都市だからな。転移魔法で飛ぼうにも座標が分からなくてな……。探し出すとこからだな」


エンドはそう言うが、シンも転移魔法は使えるのだ。その欠点も対応策も知らないわけがない。


「対象物を登録しておけば飛べるでしょ?」

「いや、すまん。研究が終わって転移でここに帰ってきたもんだから、登録してなかったんだ。もう行くこともないだろうと思って、それから探してないんだ」


シンの責める様な視線にエランドがたまらず謝る。

エランドがエデンを見つけたのは三十年も前のことで、既にそこからだいぶ移動しているらしい。エデンの巨大な魔力を探知できる距離に捉えるまで空の旅をすることになる。


当てのない旅路にシンはたまらず溜息をつく。一先ずはこのことをブレイとルルに伝えに行かなければ打ろう。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



『ハンデル商会本店』ーーそう書かれた看板のかかる建物の中、最上階の最奥の部屋で二人は書類仕事をこなしている。

シンとエランドは転移魔法、転移魔術で直接そこに赴く。

突然現れた二人にブレイとルルは驚く。


「突然目の前に現れるのは辞めろと言っているだろう」

「わりぃな。わりぃついでにちょっくら旅に出るわ」


ブレイの諫める言葉を軽い対応で流しながら要件をしれっと告げる。

その言葉に反応したのはルルだった。


「えぇ!? 旅に出るって、シンも? どういうこと!?」

「うん。エデンとかいう国だか都市だかに行くんだって」

「いや、都市とか国っつうより、島? だな。うん」


ルルが口にした問いにシンが答える。エランドがシンの言葉を訂正して勝手に頷いているが、エデンについて知っているのはエランドだけなため無視する。


「そんな、それじゃあしばらく会えないってこと?」


ルルが悲しげな口調で問いかける。


「うん? そんなことないぞ。空間魔法を使える魔導師が二人もいるからな。会おうと思えばいつでも会える」

「それなら毎日戻って来てここを拠点に旅路を伸ばすこともできるんじゃない?」


エランドの言葉にシンが毎日転移でヤツバに戻る案を述べる。

その意見にルルが希望が刺したような顔をするが、エランドは首を横に振る。


「はっきり言って、魔力の無駄だな。転移に使う魔力があるなら探知範囲拡大か移動速度上昇に回すべきだな。最悪の場合星を一周しなきゃいけなくなるんだからな」

「それでも、偶には戻ってくるんだろう?」

「まあな」


エランドの言葉を聞いて落胆を隠せないルルを見かねてブレイがいつでも会えることを確かめる。


「まぁ、俺達は最低でもあと二年はこの街にいるからできる限り戻って来て顔を見せてくれ。俺達が旅立つ前日には呼びかけの鈴を使わせてもらうよ」


ブレイがシンとエランドに予定を告げる。


「呼びかけの鈴?」

「ああ、呼びかけの鈴ってのは鳴らすと俺に信号(シグナル)を送る鈴で転移の座標を知らせる対象だよ。ブレイがどうしても俺の助けが欲しいと泣きつく時に鳴らせって渡しといたんだ」

「へぇー、そんな道具もあったんだね」

「あんまりこいつに頼ってもなんだから、今まで一回も使ったことはないけどな」


シンが聞きなれない道具について尋ねるとエランドが答える。

魔物が蔓延るこの世界で力を持つ魔導師を頼れるのは心強いが、あまり頼ると対等な関係が崩れる為ブレイは気を付けているらしい。


「とはいえ、ルルには危険な旅はしてほしくないからな、できればシンにはちゃんとルルを守って貰いたいがな」


そう言ってシンの方に視線を向けるブレイに頷いて返すと、シンはルルに抱きつく。

シンが魔力を動かし、ルルの体内に自分の魔力を流し込んで術式を構築していく。


「うわぁー、魔力が流れ込んで来てなんか不思議な感じがするね。……ちょっとくすぐったいかな」


ルルが感嘆の声を上げ、身動(みじろ)ぎをする。

シンが流し込む魔力に比例してルルの包むような淡い光がその輝きを増していく。

直視するのが辛くなる程になった時、ルルを包んでいた光がルルの体に吸い込まれるかのように消える。


「で、今なんの魔法をかけてくれたの?」


光が消えて、シンがルルから体を話したところで尋ねる。


「えっと、部位欠損時に周囲に障壁を展開する魔法と状態を回復する魔法と僕に信号(シグナル)を送る魔法、かな」

「簡単に言えば怪我した時にその怪我を直してそれ以上の怪我を負わないようにしつつ、シンに合図を送るって感じだな。外傷完全無効化ってか。欠点としては毒や睡眠薬なんかを盛られても対応しないってとこだな。まぁ無敵じゃないから気を付けろってこった」

「うん、そう。ついでに魔力は周囲の界力を利用するようにしといたから、ルル姉が魔力使い切った後でも発動するよ」


ルルの問いにシンが単純に答えて、エランドが分かり易く言い換える。


「う、うん。なんとなく分かったよ。毒なんかはお父さんにもよく言われてるから大丈夫。気を付けてるよ」


ルルが予想以上に優れた魔法にあっけに取られている様子を見て、ブレイも苦笑している。


「ま、そんなわけでしばらく留守にするから」

「行ってきます」


エランドが軽い感じで告げて転移で消える。シンは二人に頭を下げてエランドの後を追う。

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