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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第一章 成長
12/60

休日と魔物の襲撃

シンがヤツバに来てから五か月弱の時が過ぎた。


シンとルルは互いの休日が重なった為、ヤツバの街の商店街を歩いていた。

今までは休日にはほとんど必ず異人の子供たちと遊んでいた為、いまだにヤツバの街を見て回ったことがなかったのだ。

今まで旅した街の全てで商店街を見て回り、各町の特産品や、名物料理などを楽しんできた二人にとって、今日はとても待ち遠しい日だった。


早速近くにある服屋に入る。

商会の店舗だと、いくつもの街に支店を出しており、同じ商品を売っていることもよくある。

しかし、各町限定で販売されている商品も多数あるため、たとえ同じ商会の店でも入る価値があるのだ。

ハンデル商会でもそういった取り組みは行っている。


この商会は冒険者ギルドから、魔物の毛皮や、鳥の羽などを買い取り、質のよいものが多い。

加えて、最近新しいデザイナーを雇ったようで、少し値が張るが、いろいろとお洒落な服が増えているのであった。


二人は最新の服を見ていく。

そして、良さげなものをいくつか手に取ると、試着室に向かう。まぁシンは見た目より動きやすさ重視で、いつもルルから許可が下りないのだが。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



半時程の時間を費やし、二人は一セットずつ服を買い、着替えていた。

シンは赤と黒で炎を彩ったような袖の広い長そでのTシャツにサイドに赤の刺繍が入った真っ黒のズボン。当然ルルのチョイス。

だがその上にいつものローブを身に付けている為、結局のところ外見の変化はほぼない。

ルルは水色の膝下まであるワンピースに黒のジャケットを身に付け、つばの広い帽子を被っていた。ジャケットは目立ち過ぎないようにするためで、帽子はシンのチョイスだ。


「ちょっと早いけど、昼食にする?」


服選びに予想よりも時間を費やしてしまい、微妙な時間になってしまった。

もうほとんど昼時で、早い人ならもう昼食をとっている時間だが、いつもよりは一刻ほど早い。


商店街通りの裏に回り、少し進むと途端にいい香りが漂ってくる。

飲食店通りと呼ばれている。

商店街通りで材料なんかを買い、それらを持ち運ぶためにそんなに遠くない場所で、商品に匂いを付けたりしないように僅かに離れた場所になっている。


飲食店通りに踏み込んだ二人は早速昼食を食べれる食堂を探す。

いや、基本的に飲食店しかないため、探すというよりは選ぶといった感じだ。


二人は少し歩いたところにあった雰囲気の良さそうな食堂に決めて、中に入る。

席に座ろうと店内を見回すと、そこで、ブレイとエランドが座っているのが見えた。

向こうも気づいたようで手を挙げて手招きしている。


「お前らもここに来るだなんて、奇遇だな」

「俺らはもう注文したから、お前らもとっとと頼めよ」


辺境だけあって、強い魔物がいて、その分肉は美味しいものがそろっているのだ。

しかし、基本的に魔物からとれる食材は肉しかない。

だが、中には植物系の魔物から果実を採ってきて出しているレアな店もある。

そして、ここはそのレアな店の一つだ。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



「ふぁ~、食った食った」

「やっぱりここのデザートは上手いな」


簡単な食事と果実盛り沢山のデザートを堪能した四人は食後の一杯を飲みながらくつろいでいた。


だがそこで、鐘の音が街中に響き渡る。

その音を聞くや否や、店内の男達が慌てて駆けだしていく。

残った女性や子供たちは不安そうな顔をしている。


「この音は何?」


シンは周囲の喧騒から鐘の音がただ時刻を知らせるものでないことを悟る。


「シンは経験したことがねえのか」

「これは魔物の襲撃を知らせる音だよ」

「この音がなったら街が総出で魔物の迎撃に当たるんだ」


エランド、ルル、ブレイが答える。


「そんじゃ、俺も行くとしますか。そうだ、シン、お前も行くか?」


エランドは席を立ちあがり、シンに同行するか尋ねる。


「うん。行く」


シンは即座に同行することを決める。


「ルル、俺たちは後方な」

「わかってるってば」


商人はこういう時は物資や魔石、薬品などを提供するのだ。

それぞれ席を立つと行動に移る。


シンはエランドに捕まると、エランドが転移魔法を使う。

次の瞬間にはシンとエランドは街壁の上にいた。

そこでは既に戦闘が始まっており、矢が飛んで行ったり、魔法が飛び交ったりしていた。


襲ってきている魔物は三種類。

狼系の魔物、鳥系の魔物、蛇系の魔物だ。

狼系の魔物は、単純に狼を数倍の大きさにしたものから、オルトロスやケルベロス、ウェアウルフなどを含んでいる。

鳥系の魔物は、鳥類の強化版複数種から、ハーピーなどを含んでいる。

蛇系の魔物は、多種蛇から、ラミア等を含んでいる。


魔物の群れが自分たちの領域を出て人の街に襲撃を掛けることは非常に稀である。

世間一般では魔物は人を襲うことを目的としており、たまに人が集まる街に襲撃を掛けることがある。などと言われている。正確には数の増えた自種族を保つことを目的に魔族へと進化した者が先導していることがほとんどである。

因みに魔族というのは魔物が知性強化の方針で進化し続け、人の体を大部分に持つ種族で言葉を話す者のことであり、他の並の魔物とは別の種族と捉えられている。


その襲撃に対応している人間も負けてはいない。

その理由はここが辺境で、すべての冒険者と警備兵が魔法を使えるからである。

しかも、ここで戦っている人たちは皆、エランドの指導を受けたことがある者ばかりだ。


魔法を駆使して、下にいる狼、蛇系の魔物も、上にいる鳥型の魔物も街壁を越えさせない。

中には当然剣や、槍の方が簡単に魔物を狩れるというものが多いが、剣や槍の出番は街壁が破られない限りない。

そして、街壁が破られるのは飛行型の侵入を自由に許すということで、そうなったら瞬時に街は滅ぶため、結局剣や槍の出番はない。

ただし、中には剣や槍に魔力を通して魔法を放つ者もいるため、そういった連中は例外である。


「さーて、やるかね」


エランドはそう言いながら左手を横に掲げる。

すると、エランドの中指の指輪が光り、その形を変え、その手に杖が現れる。

その杖は長さが二メートルほどもあり、片方の先端は細く、もう片方は太くなっており、太くなっていくほうの先端には直径十五センチほどの真紅の球が樹に絡みつかれるように付いていた。


杖が出現した瞬間、エランドが自分にかけていた隠蔽魔法がほんの一瞬だけ解除される。

たった一瞬だったがエランドの総魔力量がいつもよりも多かったのをシンは見逃さなかった。


「シン、やることは単純だ。魔物の魔法は防ぐ、魔物を魔法で殺す」

「わかった」

「あとは、周りの奴等の邪魔にならないようにすることと、魔力を使い切らないことだな」


エランドがやることと、注意することを言うと、二人は戦闘に加わる。

エランドは前方に円形の魔法障壁を二つ創ると、それを動かして自分と周囲への攻撃を防ぎ、同時に魔法障壁の隙間から雷撃を放ち、魔物を攻撃している。

エランドの放つ雷撃に当たった魔物は一瞬で脳だけ焼かれ、その場に倒れる。

鳥系ならばその場に墜落である。


「僕もやる」


シンはローブを杖に戻す。

その杖はエランドの杖とは違い、非常に飾り気のないただの木の棒に見える。


「はっ! まだまだ杖に蓄えてる魔力がすくねぇな」


エランドが鼻で笑う。


「……十分威力はでる」


シンはムッとして言い返す。

そもそも魔導師の総魔力量は年齢に比例する傾向があるため、未だ八歳の子供に過ぎないシンの魔力がそんなに多いはずがないのだ。ーーーそれでも国のトップの魔術師の数倍はあるが。


そう言ってシンが発動させたのはエランドと同じ雷。ただし、魔法ではなく魔術だ。

エランドの下で基礎属性以外の魔法を学び使えるようにしている途中で覚えた魔法はほぼ全て魔術で行使できた。

その雷は眼下の魔物の群れに広がり、その肉体ごと炭へと変える。


「あーあ、やりやがった」


それを見たエランドは溜息を吐く。

その意図が分からずシンは首をかしげる。


「せっかくの肉を炭にして食えなくしちまったんだよ、お前は。あー、すまんな。あんま魔物を狩って食うってことをしてこなかったんだ、こいつは」

「い、いえっ。街に被害がある方が問題です。魔導師様の御助力感謝致します」


エランドはシンに説明をしてから、周囲で唖然としていた兵士の一人に声をかけて謝る。

声を掛けられた警備兵は見事な敬礼を決めた後、エランドがこの場に来ていることを上司に報告に行った。


エランドの名はこの街では有名だ。

なんせ、この街の冒険者と警備兵の職に就く者のほとんどはエランドの指導を受けているのだから。

ただ、エランドは真横に立っていても本人と認識することが困難な為、居る居ないの情報はこの街では伝える必要事項となっている


「さっ、次だ次! 全部飯に変えるまで終われんからな」


エランドは城壁の上を歩いて移動しながら魔法を放ち、魔物を肉へと変えていく。


「分かった。今度は上手くやる」


シンも魔術を使い分け魔物を肉へと変えていく。


シンとエランドが攻撃しているのは手前の魔物ではなくやや離れた位置に控えている魔物だ。

目前の魔物は駆け付けた警備兵や冒険者たちによってしっかりと狩られている。彼らの攻撃の届かない所だ。

それでも未だに魔物が街壁を突破できていないのは、やはり防衛している人たちが強いからだろう。

魔物も魔法を使って遠距離攻撃をしてくるのだが、それらの攻撃は全て切り落とされている。

ここは辺境で、ランクDを超える冒険者の数が多い。

警備兵もその九割は魔法が使える。


「来たぞーーー!」


誰かが声を上げる。

何が来たのかは一目でわかった。

背に羽の生えた空飛ぶ狼や蛇、四本脚で地面を駆ける鳥、二匹の蛇を顔にしたハーピーなど、適当に混ざり合ったキメラだ。種族を飛び越えたこれらの存在は何故発生するのか魔導師でも謎の状態である。

一部はなかなかかっこいい進化を遂げているのだが、大半、特に人型のキメラはかなりえぐいのが多い。


「撃てーーー!!」


誰かがそう叫ぶと、一斉に魔法が放たれる。

全ての魔法はキメラに向けて集中する。


と、その中で一際目立つものがある。

一本の図太い光線が数秒置きに放たれている。

たまに、味方の魔法同士がぶつかって威力を殺したり、打ち消しあったりすることがあったが、その光線は進行上の全てを焼き払い、キメラを確実に貫通し、落とす。

もちろんエランドだ。


「あれは飯にならないの?」


シンは頭上で杖を揺らし、魔術を発動させる用意をしながらエランドに訊ねる。


「あー、シン、牧畜って分かるか?」

「うん。動物を育てるやつでしょ」

「その中にな、品種改良とかいって、良い肉と良い肉を交配させてより良い肉を作るっていう手法があるらしいんだ」

「……つまり?」

「適当に掛け合わされたキメラが美味いと思うか?」

「……」


シンは返事をする代わりに杖を掲げて魔術を発動させる。

すると、直径十五センチほどの氷球がいくつも生み出される。

シンが杖を前に向けて振るのに合わせて、氷球が勢いよく飛んでいく。

衝突した氷球は破裂して広がり、魔物の体を凍らせる。

体のあちこちが凍ったキメラは動きが取れなくなった時点で落下していく。

凍った部位は徐々にその範囲を広げ、一か所でも氷球が当たった魔物は氷塊になるのだ。


他の皆の奮闘もあり、魔物は一匹たりと街壁にたどり着くことなく撤退を余儀なくされた。

戦闘において、大けがをしたものはいたらしいが、死者はいなかった。


夜には一部見張りの者を除いて、街を挙げてのパーティーが開かれた。

戦闘に参加した者たち全てに報酬を払っていてはきりがないため、領主とギルド主催でこれを報酬としているのだ。


エランドはこのパーティーの間、街中を歩き回って飲み食いをし、いろんな人から声を掛けられていた。

シンはパーティーに食材を提供する側のブレイやルルと一緒にあちこちを回っていた。


こうして、慌ただしい一日は過ぎていった。

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