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魔導伝ー神が覗く物語ー  作者: 虎寅
第一章 成長
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休日と異人

ルルの仕事も、シンの特訓もほとんど毎日欠かさずあるが、休日がないわけではない。


シンが異人と仲良くなり、ルルも仲良くなり始めていた頃のある休日である。


シンとルルは異人が暮らしている森の中に来ていた。

ここは、エランドが魔法で創った世界なので、魔物や人間の脅威はないのだが、里に戻ったときにその生活に慣れなくて困らないようにとあえて森の中で暮らしているのだ。

森の中でも外でも空を仰げば目に入るその巨大な木、世界樹は、エルフの森に生える世界樹が百年に一つ成す実を譲ってもらい、魔法で成長させたものである。

自由に土地が使える分、農業や牧畜で苦労することもなく、彼らの郷土よりもいろいろ発展している。

その分この世界を創るのには苦労したらしいのだが、それは別の御話。


二人が休日を利用してここに来ているのは、単純に遊びに来たからに他ならない。

ルルは同年代の友人と呼べる相手がいない。

それは、ブレイが旅をしているからである。

本来、豪商の跡取りは国立の学校に通ったりするもので、ハンデル商会は世界が認める巨大な商会である。

しかし、何故かルルは学校に行くのを嫌がり、娘に甘いハンデル夫妻は『自分たちで教育すればいいか』と考え、結局ルルが学校に行くことはなかったのである。

因みに現在教育中である。


そのため、集団で遊べるこの休日をルルはとても楽しみにしていた。

シンもスラムで暮らしていた頃のように楽しんでいた。


身体強化をした肉体で見晴らしの良い草原を疾走したり、川に放してある魚を獲ったり、森の中で木々を飛び回ったりと、普通の人とは隔絶した遊びになっていたが、それでも楽しんでいた。


ルルもシンの手助けもあって、より強い身体強化魔法が使えるようになっていた。

他にも、まだまだ特訓が必要ではあるが、特殊系統の鑑定魔法と形状変化魔法を身に付けていた。

鑑定魔法はその名の通りである。

形状変化魔法とは、物体の形を変える魔法である。形状変化は基本的には変化させる物の属性に合わせて操作魔法を使うものだが、この魔法はそういった属性に関係なく実行できるという特徴があった。それでいて、念力の様なものでもない為、特殊魔法に分類されていた。


二人が森の中の生活領域に行くと、既に子供たちが外に出てきていて、今日はどこに行こうかと話し合っていた。


「だから川に行こうって言ってるじゃん」

「えー、川は昨日も行ったじゃない。今日は森の外の草原に行きましょうよ」

「それよりも、竹林地区に行って高上りしようよ」

「山まで行ってみようよー」


わいわいがやがや、今日も今日とて行く場所が決まらないようだ。

こういう時は決まってこうなる。


「「「「シンはどこ行きたい!」」」」


行きたい場所が分かれる理由は得意な属性にある。

魔術士に得意な属性苦手な属性があるように、精霊術士にもそういったものがある。

精霊にはそれぞれ属性があり、使いたい魔法に合わせた精霊が応えてくれるのだが、そこには相性が存在する。

たった一言で思った通りの魔法を発動させる精霊がいれば、どれだけ言葉を紡いでも全然わかってくれない精霊もいる。


そこで、子供たちは自分に応えてくれる精霊がたくさんいる所に行きたがるのだ。そっちの方が楽しいから。

だが、それで決まらないときは、基本どこでも魔法を使えるシンの意見を聞くのだ。

シンは万能型の天才なのでどこでも構わない。故にシンはそのままルルに流す。


「ルル姉は? 今日はどこがいい?」

「そうね、行ったことないし、山がいいんじゃないかな」


ルルの意見もとい、シンの意見が出た後は口論はなくなる。


「山かぁ、初めて行くな」

「土の精霊がたくさんいるんでしょ」

「意外と火の精霊もいるらしいよ」

「早く行こうぜ」

「じゃあ、競争だ。よーい、ドン」


子供たちは身体強化の精霊術を使い、一斉に駆けだす。

ルルは『身体強化フィジカルブースト』(魔法)を使って、シンも身体強化(魔術)をして追いかける。なお、その時に置いてあるお弁当とシートを回収するのも忘れない。

こういう時、身体能力の高い各種獣人族が前に出るのだが、力の強いドワーフ族が超加速で後を追い、巧みに精霊術を使うエルフ族が風の精霊術を身体強化と同時に駆使して、次第にその距離を詰める。

森の中だと獣人族が圧勝なため、全員での競争はしないが、森を抜けたところに行くにはだいたい同じくらいで着くのだ。


森を抜けたところで、獣人族の子供たちはずいぶん遠くに見える。

障害物が無くなったところでドワーフがさらに強く地面を蹴り、スピードを上げる。

エルフも追い風を強くすることで加速する。

シンとルルはドワーフ族の子供たちの前方、獣人族の子供たちの後方を走っていたが、後方の集団が加速したのを見て、身体強化をより強く掛ける。


そんなこんなで、一時間ほど走り続け、森から離れた場所にある山の麓まで来ていた。

結局一番最初に着いたのはエルフの子だった。

子供たちの中で、一番風の精霊術が巧みな子で、物凄い追い上げを見せたのだった。

二番目は獅子獣人の子で、子供たちの中では最年長である分、技術も身体能力も優れている。

その他の子供たちも着く中、シンは五着だった。

最初はルルに合わせて走っているのだが、ある程度の距離になってくるとルルの速さでは異人の子たちに追いつけない。

そこで、最後尾まで来たところで、シンがルルを抱えて全力で走るのだ。


「よっし、それじゃあ今日も、凄い精霊術勝負と行こうぜ」

「「「「おー!」」」」


子供たちは数人ごとに別れて、各チームで精霊術を使い、その派手さや奇麗さで競うということをしていた。


「メインは土、この砂時計の砂が落ち切るまでを練習時間とする」


シンが大きな砂時計をローブの内側の仮想空間から取り出し、時間を指定する。

ローブの内側に作った仮想空間はシンの特訓の成果だ。

シンが加わると実力差が大きく広がってしまうため、シンは審判をする。

ルルはあまり魔法を使えないため、やはり審判になる。


シンの司会の元、いつも通り精霊術勝負が開かれる。

子供たちは素早く三から五人のチームを作り、それぞれ離れた場所に移り、どんな精霊術を使うかを相談する。


その間、シンとルルは仕事や特訓の内容を話しながら待つ。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



しばらくして、砂時計の砂粒が落ち切る。


「そこまでーー!! 練習しゅーーーりょーーー!!」


シンは遠くに離れている子たちにも聞こえるように大きな声で呼びかける。

すると、精霊術の練習をしていた子たちが集まってくる。

シンがローブの中から預かっていた巨大なシートとお弁当を取り出して広げる。


「うわー! やっぱりシンの空間魔法は便利だな」

「俺たちもいつか使えるようになるのかな?」


子供たちはまだ特殊系統の精霊術を使えないため、シンに憧れを抱くのだ。

みんなで和気藹々と昼食を済ませると、早速お披露目精霊術勝負を始める。


「よっしゃー! 俺らから行くぜー!」


一番手を切ったのは子供の中で一番元気のいい犬獣人の子だ。

チームは髪の長いエルフの女の子と逆立った赤い髪のドワーフの男の子だ。


三人は早速精霊に語りかける。詠唱を始める。

発動は一人一回、一か所に人数分の精霊術を打ち込んで、発動してから目に見える現象が無くなるまでが判定範囲だ。

三人とも土の精霊との相性はいいとは言えない程度なので、発動までに時間がかかっている。

さらに、同時に複数の精霊に語り掛けないといけないので単純に精霊に語り掛けるよりも難しくなっている。


「「「あっ!」」」


いくつかの土が地面からわずかに浮かび、落ちた。失敗だろう。


「零点。次」

「よっしゃ、次行くか」


シンは容赦なく切り捨て次の組へと移る。再挑戦は全組が終わった後だ。

次はドワーフの男の子だ。獅子獣人の子とほぼ同年代の年長組の一人で、やはりそれなりに精霊術が使える。

チームは金髪ロングのエルフの女の子と青い翼を背中に持つ青髪の翼人族の女の子と最年少組のドワーフの少年である。


最年少の子は使う精霊術を一つに絞って、残り三人で演出を強化する予定らしい。

三人が先に精霊へ語り掛け始める。

すぐに最年少組の子も詠唱を始める予定になっている。

しかし、いつまでたっても最年少組のドワーフの子の声は聞こえてこない。

気になって三人がその子のいるはずの場所へ視線を向けると、その子は背を向けてしゃがみこんでいた。

さらには、地面の方に向かって言葉を投げかけていた。


「ちょ、何やってんだ」


最年長組のドワーフの子が近寄りながら声をかける。

だが、傍まで行くとその動きが止まる。

何事かと残りの二人も駆け寄っていく、傍まで行くと驚きの声を上げる。


「え、うそ、これって」

「もしかしなくても」


シンを含め、離れて見ていた子供たちも様子が気になり傍に行く。

傍に寄ってみると、最年少組のドワーフの子が向いて話していた場所にいるものが見えてくる。

地面から小さな頭を出し、長い鼻と硬そうな爪を見せるその生物はモグラだった。

そして、そのモグラが放つ波長は明らかに土精霊のものだった。


普段は姿のない精霊がその姿を持つのは、基本的には誰かと契約した時だけである。

また、精霊は四つの階級に分類されている。

姿を持たない微精霊、光球の姿を持つ下級精霊、動物の姿を持つ中級精霊、人型、もしくは幻獣の姿を持つ上級精霊である。


精霊と契約した者は精霊の階級にも寄るが、魔力制御がより巧みになり、魔力量が増えやすくなり、精霊術がより巧みに使えるようになる。

特に、契約した精霊の属性はほぼ何も言わなくとも発動可能だ。


年少組の子はことの大きさを分かっていないが、年長組含む多くの子供たちは精霊と契約できるのは凄いことだと言われていた。

自らを異人と呼び、精霊術を用いた生活をしている為、精霊への思いは大きい。


「すごーい。あれが精霊か~」

「中級精霊でしょ」

「姿があるってことは、契約済みってことだよね」

「最初に姿見た子が契約してるんでしょ」

「いいな~。俺も契約精霊欲しいな~」


子供たちが思い思いのことを言っている間、年長組は目で合図し、すぐに獅子獣人の子が家がある地帯に向けて走って行く。

ひとしきり落ち着いたところで、家に戻ることになった。

移動しながらも、最年少組のドワーフの子の周りには精霊を見てみたいと多くの子が集まり、いろいろと話している。



 ✩ ✩ ✩ ✩ ✩



魔法を使って走って、一時間ほどかかる道のりを半分ほどは歩いてきたため、家に着くころには日がだいぶ傾いていた。

あまりにも時間がかかるため、途中から魔法を使って走って来たのだ。

家がある地帯に戻ってくるとほとんどの大人たちが戻ってきて、何やらパーティーの準備をしていた。


精霊との契約はそう頻繁にできるものではない。

一人一精霊としか契約は出来ないし、自分と波長の合う精霊と出会える確率は小さい。

そのめったにない機会を盛大に祝おうとするのは、やはり、精霊が特別だからだろう。


集落の真ん中にある世界樹の元へ食べ物が集められ、日が沈む前にと精霊術で創られた光源が周囲を彩る。

走って戻って来た子供たちは慌ただしくパーティーの準備をする大人たちの様子を見て、驚き呆けている。

年長組は素早く大人たちの手伝いに移る。

一刻もすると全ての準備は終わり、飲み物がいきわたる。

精霊と契約した最年少組のドワーフの子は、最も世界樹に近い一段高くなっているステージ上に連れていかれていた。

主役がみんなから見える位置に移動すると、パーティーの始まりが告げられる。


「精霊の加護と精霊に愛されし魂に、乾杯!」


こうして、シンとルルの少ない休日は過ぎていくのだった。

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