第1話
【4月15日】
あの惨事の発生から三ヶ月が経った。
都市部の機能は停止。人で溢れていたこの街は今では死人で溢れている。建物は所々欠けていて中には倒壊している物も見受けられる。整備されていた道路はヒビが入り、少し衝撃を加えれば壊れそうだ。
......今の日本は国としての機能を完全に失っていた。
そんな廃れた街の中を、死人の群れの中を走り抜ける一人の男が居た。
「ハァ......ハァ......。全く、嫌になるほど奴等湧いてくるな。まるで蜚蠊じゃないか......」
息を切らしながら物陰に隠れた男、城崎裕也はそう悪態をついて座り込んだ。
城崎はあの最悪の細菌に感染しなかった数少ない生存者の1人である。つい先日までは同じ生き残りの仲間達5人と共に簡易拠点を作り生活していたが、その拠点をゾンビに襲撃され幸か不幸か。1人だけ生き残ったのだ。その後、食料を求めて探索に行ったところでゾンビの群れに遭遇し逃走、今に至る。
「ここも昔は大都市だったんだ、食料があると思っていたんだがな。全く見当たらん。早くしないとこのまま餓死しちまうぞ......」
わざわざ危険を冒してまでここに探索に来たのは、食料がまだ残っていると踏んでの事だった。しかし、店の残骸の中を片っ端から探すが、見つからない。見つけることが出来ない。
「もう既に地上には食料は無い、という事は......。残っているのは下か」
下。地下倉庫の事である。地上には見てわかるようにゾンビが蔓延っている。奴等に食料を丸ごと全部食われてしまったかもしれない。また、それ以前に他の生存者が地上に残っていた食料を食べた、もしくは持っていってしまった可能性もある。
だが、地下なら。地下ならば残っている可能性はある。いつ襲われるか分からない状況下で地下に潜り、食料を持っていく程余裕がある人間が居るとは思えないからだ。中にはその「余裕がある人間」が居るかもしれないが、全て持っていかれるなんてことは無いだろう。そう確信していた。
「そうと決まれば......。ん、あそこの店の地下にならありそうだな」
城崎が選んだのは数ある高層ビルの1つ。昔は巨大なデパートとして機能していたようだ。巨大な店ならば在庫も大量にあるだろうと判断してのこの選択。
果たして吉と出るか、凶と出るか......