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第8話 リアムの戦い方

「大変なことになった……」

ノアはあわてていた。リアムへの不平不満解消のためにイーサンが代表して戦うことで収まりがついたが、足並みが悪くなってしまうのではないかと不安だった。


「いいんじゃないかな。ちょうどプライドだけの高い兵士を抑えるのにいいと思うし」

兵士の中にはもともとイリオスやサリウス、ラムザの城を守っていた家柄の高い兵士もいた。

そういった兵士はプライドが高く、平民の兵士を差別する傾向にあった。


「しかし、それでも怪我でもされたら……」

「リアムなら信用していいよ」

「8年もあってなかったんだろう。なぜそこまで信用ができる?」

「リアムだからだよ。おじい様もそう言ってたから」


「じゃあ勝負しよう。君は手ぶらでいいのかい?」

城の手前の訓練場に多くの兵士が集まっていた。目当てはリアムとイーサンの決闘である。若いながらイーサンは剣、銃、弓すべてに精通しており、複数人が相手でも負けたことは無い。

エリート兵士も、イーサンには負けを認めざるを得なかった。そういう点もイーサンのカリスマ性である。


「いりませんいりません。好きに向かってきてください」

重装備のイーサンに対して軽装というより、私服でラフにもほどがある服装でしかも銃も剣もなにも持っていない。

『イーサンがんばれ!』

『俺たちの誇りを見せてくれ!』


「イーサンさん。すごい人気ですね」

「そんなことはありませんよ。伝説の神の子に比べたらとてもかないませんよ」

謙遜するイーサンだが、プライドの塊のような貴族が若いイーサンを慕っているというのは、いかにイーサンが人徳があるかというのがよくわかる。


「では、勝負をさせていただきます!」

そういって早速銃を構える。

「さすがに本物を使う訳にもいかないので、訓練用です。しかし当たれば痛いですよ」

イーサンが持っているのは、武器すべてが訓練用である。


「では、試合開始!」

「行きます!」 


「【その銃は優秀なので確実に俺に当たりますね】

バーン。バーン。バーン。

銃は3発発射された。

しかし1発も掠りすらしなかった。

  

『どうしたイーサン。お前らしくないぞ』

『相手が手ぶらだからって、手加減するなよ』


見学している兵士が野次をかける。兵士は場を盛り上げるためわざとらしく外したと思った。

そうでなければ、当たらないのがおかしいぐらいに2人の距離は近かった。


(おかしい。確かに私はねらったんだが)

何かしらの方法でリアムが回避すると思っていたので、イーサンは全て当たるように打った。

しかし、弾は外れた。特にリアムがなにかをした様子はなく、ただ、一言話しただけだ。


「では、次はこれでどうですか!?」

銃が何発撃っても当たる気配が無いため、イーサンは弓に持ち変えた。


「【いい弓ですね。先ず弦は切れないでしょう】」

プツン。


「なっ! 弦が切れた!」

イーサンは弓の手入れは欠かさずやっているためまず故障などしない。

それが弦が緩むどころか切れてしまった。


『おい、おかしくないか』

『イーサンがこんなミスをするはずがない!』

『まだリアムはなにもしていないぞ。二言しゃべっただけだ』

『あれが伝説の……』

周りもざわつき始める。銃にしても弓にしてもイーサンほどの使い手はいない。そんな彼が当てることすらできないのだ。


かつて8年前にマリジアの危機を救ったと言われるリアムだが、その逸話の1つとして、リアムがほぼ独りで勝った戦があったとも言われている。

かなり信憑性の低いうわさだったが、今の光景を見てもしかしたらと一部のものは思っていた。


「はぁはぁ……」

イーサンは諦めず、拳銃を撃ち、弓を放とうとしたが、弾は何発撃っても当たらず、弓は別のものを持ってきても弦が切れてしまうので、放つことすらできなかった。


「どうされます?」

これが8年前にマリジアを救った伝説の存在。強いのか弱いのかそれすら理解できない。そもそも戦いにならないのだ。次元が違うのである。


「いや、ここまでとは恐れ入りました。神の子と言う呼び名も名前負けしてないです。人を相手にしているとは思えません」 

「じゃあ止めます?」

「最後に1回ためさせていただきます」

そういって剣を抜く。

銃や弓とは違い、綺麗に輝く新品だった。


「これは家の家宝の剣です。これは絶対に折れたりはしません」

刀身をリアムに向けてみせる。


「確かにこれは丈夫そうです。刀は折れないでしょう」

「私がこれで切りかかります。回避してみてください」


「これは本物の剣ですね? 模擬試合で使うのは問題があるのでは?」

「試合? はじまってもいませんよ。それよりもあなたに本気を見せたくなったんです」

イーサンの表情が引き締まった。

先程まではリアムの強さを周りに納得させることが優先だったが、そのあまりの強さに自分が普段出さない全力を見せたくなったのだ。


「私は剣が最も好きなんですが、戦闘においては銃の方が明らかに強いのであまり使われる人はいません」

剣は接近すれば強いが、銃が相手では明らかに勝ち目がない。

それこそ、銃の使い手が剣の使い手に相当実力で劣らない限りはかなり厳しい。


「実戦では銃を使いますし、練習では私くらいの使い手はいません。全力を出してもいいですか?」

「別に構いませんよ」

「ありがとうございます」

そう言うと神速でリアムの前に来た。


『速い!』

『あれがイーサンの本気だ!』

『これはさすがに決まるだろう!』


「【刀をキチンと握ってください】」

スカッ。シュルルルル……、グサリ。


イーサンが刀を振りかぶったとたん、剣は彼の手をすっぽぬけて遥か後方に飛んでいった。


「……降参です。これは本物の神の子ですよ」


イーサンは両手を上げて敗北の意を示した。

模擬試合とはいえお互いここまで無傷なのは初めてであった。


『なんだよこれは』

『むちゃくちゃじゃないか』


周りが感じたのは強さに対する尊敬ではなく、恐ろしさに対する恐怖感であった。


「やった~。リアムつよーい♪」

ただミアだけはすぐにリアムに向かっていって手を取った。 


(ミア……。お前はすごいな。周りの兵士が全員、救世主であるはずのリアムに恐怖心を抱いていたと言うのに。強いし、それほどまでにリアムが好きか)  

リアムが現れてから一段と明るくなった娘の笑顔を見ながらノアは心でそう感じていた。

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