第5話 伝説の再来
不定期投稿(毎日投稿しないとは言っていない)
何となくプロローグっぽい部分はまとめて書きたかったので、一気に書きました。
次からは本当に不定期にします。
「ああ、ミア。大丈夫なのか」
ノアは自室で落ち着かないで歩き回る。
体調は芳しくなかったが寝てられなかった。
ノアの子供は唯1人、ミアだけである。他の兄弟は全く子宝に恵まれぬまま戦争で死んでしまい、自分の妻もミアを残して死んでしまった。
純正が少ないマリジアで、ノアの妻を見つけるのは非常に困難を極めた。
ワイアットは無理やり結婚させることは禁じていたので、純正に加えて、ノアと結婚を望む女性でなければならなかったからだ。
それでも王族であるノアの妻候補は居なかったわけではない。
しかし、とにかくノア含めた兄弟は子宝に恵まれなかった。
ワイアットは嫁が1人にも関わらず4人の子供を設けている。
そういうところも父であるワイアットに及ばない点である。
子宝は完全に運だが、王たるもの運も必要な能力である。
そして恵まれないまま、ワイアットが死亡し、兄弟もいなくなり、自身も病気となった。
自分がいついなくなるかという恐怖もあったがミアのことが心配だった。
そんな中、長年優秀な兵士を輩出してきたサナハ家の長男、イーサン=サナハとの縁談の話をグレイソンが、持ってきた。
サナハ家はマリジアの純正を持つ一家ながら、トラジアとの関わりもある名家だった。
マリジアの純正を残せること、最悪でもミアをトラジアに逃がせると言うことで、ミアとイーサンの婚約をノアは決めていた。
イーサンの早い出世は本人の能力もあるが、この事情も手伝っていた。
「ノア様……」
「イーサンか。どうだミアは」
「まだ見つかって無いようです」
「最近ミアはどうだった?」
「ずっとお変わりありませんでした」
「悩みを言ってなかったか」
「いえ、いつも楽しそうに笑っていましたよ」
「そうか……」
ノアは頭を軽く抱えた。
ミアはイーサンと婚約していることはもちろん知っている。
しかし、あれだけの悩みを一切イーサンに見せなかったとすると、ミアはイーサンに気を使っているのではないかと不安になる。
イーサンはミアのことが普通に好きなので、よく見せようと努力している。
それ自体はいいことだが、ミアがイーサンと結婚して幸せかは改めて疑問に思った。
「ノア様! ミア様が見つかったそうです!」
「本当か!」
悩みが重なる中、ノアの悩みがひとつ減ることになった。
「ミア!」
「お父様、ごめんなさい」
城の外でノアが待っていると、ミアが歩いてきて開口一番で謝った。
「いいんだ。私もお前の気持ちを考えなかったし。知ろうともしなかった」
「お父様……」
「ミアの好きにするのが一番だ。最後の時までミアらしい考えを貫いてくれればそれでいい」
こうして、父と娘は仲直り出来ました。
「怪我はなかったのか!?」
ミアがフィージアの兵士に追われていたという話を聞いてノアは怪我を心配した。
「ううん、大丈夫。助けてもらったの」
そういってミアはリアムを見た。
「あ、ありがとうございます。どなたか存じあげませんがお礼をさせてください」
「久しぶりですね、ノアさん。お年を召されましたね」
「はて? どこかでお会いしましたか」
「どうも、リアム=マーフィーです。覚えてらっしゃいますか?」
「はい? リアム……? え、まさか、あの子かい?」
ノアはかなり驚いた。ノアも8年前の戦争には参加しており、リアムのことは知っていたが、8年も会ってなければほぼ別人である。
「あのリアムですよ。ノアさん苦労されてたんですね。8年前は40代とは思えないくらい若かったのに、今は50代とは思えないほど老け込んでしまって」
「あ、ああ」
「グレイソンさんもお久しぶりです」
「お元気そうで何よりです」
「ノア様。この人は誰ですか?」
イーサンがノアに質問する。
「彼がリアム=マーフィー。8年前の戦争で父上を支えてマリジアを勝ちに導いた皆が神の子と崇めた少年だ」
リアムの顔を知っている兵士はかなり少ない。
当時まだ子供であったリアムは常にワイアットの側にいたので、幹部クラスでないとリアムの正体は分からないし、イーサンを含めた若い兵士は8年前の戦争には参加していないからそもそもリアムが何をしたのかすら分かっていない。
だから僅か8年前に関わらず、マリジアの兵士には伝説の存在となっていた。
そんな伝説と呼ばれていた少年が目の前に出てくれば驚きを隠せない。
『あなたがあの伝説の!?』
『救世主がまた来てくれた!』
『これでまたマリジアを守れる』
あまりいいニュースの無かったマリジアに来た久々の朗報に兵士は沸き立つ。
「リアム~♪」
1番沸きだっているのはミアである。 笑顔でリアムの腕をとっている。
ミアは常に笑顔で周りを元気にしてきたが、厳しいながらも頑張って笑っていた今までと違い、今の笑顔は心からの笑顔で周りがそれを眩しいと思うほど輝いていた。
「じゃあ、俺はこれで帰ります」
そんな状況に水を差す発言をリアムがして空気が凍る。
「リアム。また力を貸してはくれないか。私も諦めていたが、できるならマリジアを守りたい。君もマリジアの純正なら気持ちはあるだろう」
ノアが引き留める。
「俺はワイアットさんに恩義があったから8年前は戦争に参加しました。俺はマリジアのためではなくワイアットさんのために戦ったんです」
リアムは頑なに了承しない。
「それは一緒ではないのか? ワイアット様の守られた国を守るのはワイアット様のために戦う理由にならないのか?」
今度はイーサンが訪ねる。
「違います。ワイアットさんは戦争が終わった後、俺を安全な山奥に保護してくれました。そして次にマリジアが危機に陥っても無理に助けなくてよいともいってくれました。最近のことはよく分かりませんが、ワイアットさんが亡くなるまではきちんとしてたんじゃないですか?」
その発言に誰もなにも言えない。
ワイアットの戦後処理は完璧で、ワイアットの死までフィージアは何もできなかった。
「それにワイアットさんは自ら1番先頭に立って戦ってました。俺はそれをフォローしてただけです。今のマリジアにいますか? まさか俺に全てやらせようと思ってませんよね?」
更に何も周りは言えない。
救世主が来たとなれば、全部何とかなるとやはり思ってしまう。厳しい時期が続いただけに、その思いはより強い。考えることを放棄しても仕方なくない。
「分かりましたか。今は8年前と状況が違います。ミアさんから聞きましたがノアさんの意見が正しいと思います。手遅れになる前にトラジアに逃げた方がいいですよ。それでは」
そういってリアムは山側に戻ろうとする。
「わ、私が先頭に立って戦うから、助けてよ」
誰もなにも言えない中、ミアが覚悟を決めてリアムを止めた。
ノアやイーサン達は驚いた表情でミアを見ていた。