45話 意思
「ラムザにはもうカーターさんの息がかかった人はいませんわ。いつでもマリジアに戻せると思いますわ」
ます初めの作戦は、ラムザにできるだけ親マリジア派の人間をそろえることであった。
しかしいきなりそうすると疑いを持たれるため、まずリアが本格的にシニジアの建て直しを行った。
シニジアには資源がしっかりあるため、その管理をきちんとすることは、マリジアにとっても決してデメリットはない。
現状敵対しているシニジアとは直接に貿易はしていないが、トラジアを介して間接的にシニジアの資源を使用することもある。
そのため、シニジアがきちんと管理をできるのであれば、そうしてあったほうが良いので、シニジアの建て直しそのものは、本当に本気で行っていた。
そこで人事もきっちりと行い、誰にも疑問は持たせなかった。
カーターの友人はもともとは政務に本格的に絡んでおらず、簡単な仕事であればそれに文句は言わない。
昔の人間は遠くの地を任されるので、あまりカーターに負担もかからず、元マリジアの都市で、管理が少し複雑なラムザの管理はリアが行うことで、完全な人事の配置に成功した。
カーター含め一部がいまだに少し疑っている素振りを見せていたが、大多数がリアを信用していたため、大きな問題にならなかった。
そのため、ラムザに徐々にカーターの知っている人間が少なくなり、管理の方法がマリジア寄りになっていることに誰も気づかなかった。
「これでラムザは事実上マリジアの管理にできる。リアはそのままラムザを管理してくれ。金融関係はリアの部下がきちんとやってくれている……、どうした?」
話している途中にリアがリアの胸に飛び込み泣く。
「リアム様、あれがリアム様の言ってた私にとって悲しいことですの?」
「そうだ、見たんだな。まぁ俺が未来予知で見れるってことは、リアが俺に話すってことだからね」
「ダニエルは確かに生きておりました。ですが、あれは生きていると言えるのですか?」
リアが見たのは、お香の焚いてある部屋に腐敗した体で無理やりダニエルが立っている姿であった。
「話し方も、笑顔も彼のものでしたが、あんなことどうやって?」
「リア、俺の力って不思議だと思うよね」
「はい、そうですわね」
「俺の力は世界で唯一だけど、俺と似たような力を持った人はいてもおかしくない。例えば、死人を生き返らせたり、それをまわりに違和感なく見せられたりさ」
「何なのですか、その能力は?…」
「死体の呼び起こしと、幻術魔法で死体を自然に見せているから周りにダニエルが自然に生きてるように見えるんだ」
「使用人の態度がおかしかったのは?」
「ダニエルとの付き合いが長い人には、この幻術魔法が効かないんだ。だからたぶんカーターはリアがあれを見抜けてないと思っている」
「私もリアム様からダニエルが間違いなく死んでいると言われていらっしゃらなかったら、引っかかっていたかもしれませんわ」
リアムの分析、というより仮未来視があるのでただの確信だが、その何者かの能力が完全にリアムには分かっていたので、リアにまったくの疑いを持たせないように話すのは難しくなかった。
幻術魔法は結局はまやかしであり、強い意思を持った人間には効果がない。
リアムの逆強制もそうだが、基本的に人の強い意思は時に超能力など凌駕するのである。
「ラムザの管理がうまくいきそうなら、いつでも戻ってきて大丈夫だから。きついだろうけどがんばって」
「でも、リアム様。あまりにもダニエルがかわいそうで……、彼の死は私を追い出すために使われて、死んでからは私をシニジアに戻すために利用されて……、あまりにもひどいですわ」
「今でも彼のことは好き?」
「はい、もちろん愛しているのはリアム様、あなただけですわ。ですが、ダニエルは間違いなく私が好きであった人。安らかに休ませてあげたいですわ。何とかできませんの?」
「分かった。ちょっとラムザの管理に支障はでるけど、俺がダニエルを楽にさせてくるよ」
本来であれば、ダニエルが生きているとだまされたままでリアがシニジアにいるほうが安定してシニジアにリアがいられる。
リアと接見してすぐにダニエルに何かあれば、何かしら疑いを持つ人間が現れるリスクは大きい。
しかし、リアムはダニエルのため、そしてなによりリアのために、自分の考えていた運命のシナリオの変更を行うことにした。
常に最善の選択をすることが多かったリアムにとって、あえて不正解の道に進むということは珍しいことであった。
「リア、ちょっと大変かも知れないけどなんとか乗り切ってくれ。俺も精一杯フォローするから」
「ありがとうございますですわ。そして申し訳ありませんですわ」
「いいって」
リアムはリアを軽く抱いて優しく慰める。
次の日、ダニエルが死体もろともなくなって大騒ぎになった。