第3話 謎の少年
「はぁ、はぁ」
お姫様とはいえ毎日外に出ているミアは意外に体力があった。
加えて山のことはよく知っておりうまく逃げていたが、さすがに相手は兵士。徐々に追い詰められていた。
『あれはミア王女で間違いない!』
『捕まえてフィージアにつれていけば大手柄だぞ』
『追い詰めろ!』
ついに崖っぷちまで追い込まれてしまった。
『王女様、こちらに来てください。悪いようにはしませんから』
「私をどうするの?」
『あなたを人質にとって、ノア王に降伏を求めます』
「そんなのは許さないわ!」
『やれやれ、ではコロンが近いことですから適当な住民を捕まえて人質にしますよ』
そして、山を兵士たちが降りようと背を向ける。
「やめて! 私がついていくから、町の人に手を出さないで!」
『あらお優しいですね。ではそうします』
彼女がフィージアに捕まれば、結果的に町の人は襲われる。
それが分かっていない訳ではないのだが、目の前で見るのは彼女には耐え難かった。
『よし、連れてくぞ』
(お父様……、マリジアの皆、ご免なさい)
「人の家の前でなにしてるんですか」
ミアが諦めた時、横にあった古い家から人が出てきた。
あまりにも古すぎて人がいるとは思わず皆が驚いていた。
その人は大人でも子供でもない少年で、ミアには同い年くらいに見えた。
『誰だお前は!』
「誰だとはなんですか! ここはマリジアの近くなんだから、フィージア兵士のあなたがいる方が変です」
『何でこんなところにいるんだ?』
「ここは俺の家です。こんなところとは失礼な。それに大人3人で女の子を襲うとは何事ですか?」
『お前はマリジアの住民か?』
「質問に答えないな~。まぁいいや、一応マリジアの生まれです」
『とにかく邪魔をするな。こんなところにいるならマリジアにそこまで思い入れはないだろう。黙って見逃せば命は助けてやるし、俺達がマリジアを制圧した後にもここには干渉しない』
「それはいい提案ですね。俺は今のマリジアに興味はないですし、コロンに誰がいても関係はないです」
『よし、交渉成立だ』
「でも……」
『何だ? 金でも欲しいのか? 多少なら口止め料として出すぞ』
「めっちゃその子泣きそうじゃないですか。単純に泣きそうな女の子をほっといたら、このあとご飯食べたり寝るのが妙に居心地悪そうな気がしますよ」
『何が言いたい?』
「すいません、邪魔します」
『バカめ! 2人とも、やってしまえ』
自分を拘束する兵士以外の2人が至近距離で銃を構える。少年が撃たれたのを見たくなくてミアは目を閉じた。
自分が見たくなかった光景を今まさに見せられそうになったからである。
「2人で銃を向けるなんて、【確実に俺に当たりますね】」
バーン!!
『何をしとるか! そんな至近距離ではずすんじゃない!』
『す、すいません』
バーン!! バーン!!
『お遊びもいい加減にしろ! もういい俺がやる!』
少し様子がおかしくなったようでミアは気になって目を開ける。
そこには少年が無傷で立っていた。
兵士2人と少年は一メートルも離れていない。少なくとも3発は撃ったはずなのに全く当たっていないのだ。
しかも撃ったのは素人ではない。軍事大国フィージアの兵士である。
「あなたがリーダーですか?」
『そうだ、俺ははずさないぞ』
そう言うと上司の兵士は更に近づき、まず素人でも当たる近さになった。
「これは不味い。下手なところに当たって苦しくは死にたくないので【引き金をしっかり引いてください】」
『!? 銃が撃てない?』
「何がどうなってるの……?」
ミアは状況が飲み込めなかった。
銃を持った兵士3人が丸腰の1人の少年に何もできていないのだ。
『銃が無理でもただの子供くらい倒せる!』
「大人3人には勝てないですね。諦めるから【どうぞ攻撃をしてください】」
『一体なんだこれは!!』
3人とも動けなくなってしまった。
『リーダー、これは一旦逃げた方がいいですよ。ミア王女を無理につれていかなくても、この山道を伝えられれば十分ですよ』
『そうです。十分な手柄です』
『嫌だ! 俺はもっと出世したい』
3人のなかでも揉めはじめた。
2人はまだ若い兵士で今回の件を足掛かりにしたいと思っていた。
しかし、リーダーの兵士は今回の件をそのまま出世に繋げたいようだ。
「喧嘩は良くないですよ。【奥の2人も協力した方がいいですね】」
『貴様!』
2人は銃も武器も全部手放してリーダーを、手伝わない。
『お前は何なんだ。その能力は何だ!』
「教える義理はないです。さっさとその子を離してフィージアに帰ってください」
『やかましい! 俺はもう年だ。今回こそチャンスを掴んで出世する』
「立派だね。でしたら【人質は絶対放さないで、こっちにも渡さないでください】」
『く、くそまた……』
兵士はミアを手放してしまう。ミアは走って少年に隠れた。
『リーダー、あれはホントに不味いですよ。逃げましょうよ』
『いや、俺は諦めない。お前ら2人は先に帰って報告しろ』
『わかりました』
部下2人は逃げようとする。
「お二方気を付けて。【フィージアにこの道と俺の件を必ず報告してください。全員に伝えてください】」
『このやろうが!』
兵士2人は既に先に帰ってしまった。それはよいのだが、これで自分がなんとかできなければ、今回の作戦は失敗になってしまうと兵士は焦った。
「さて、あなたも帰られるならもう何もしませんよ」
『そんなわけにはいかないんだ! どうせ俺にもさっきのよくわからない術をかけて報告させないつもりだろう』
「まぁそうです」
『それじゃ手柄どころか降格されるんだよ!』
そういって、その兵士は耳栓を取り出して耳に入れる。
安眠用に持ち歩いていたのだ。
かれはその少年の術を、言葉による暗示と読み、聞こえなければ大丈夫と判断した。
そして、無言で銃を構え、ジェスチャーでリアをこっちに渡せと要求する。
「あ、あの、私が行くから無理しないで。私のために傷ついて欲しくないの」
ミアは少年の後ろから出ようとするが、手でそれを制される。
それを見て兵士は軽く頷き、銃の標準を合わせた。
「あれはいい銃ですよね」
少年はさっきまでと同じように話す。もちろん兵士には聞こえていない。
「【まさか暴発はしないでしょう】」
ドカーン!!
『ぐわぁぁぁ!! 熱い! 熱い!』
引き金を引いた途端に銃が爆発し兵士は手を火傷した。
あまりの熱さと痛みに立っていられずのたうちまわる。
「火傷ですんで良かったですね。では、【暫くここにあなたはいると思いますが、俺達のことも今日のことも全部しっかり覚えていてくださいね】」
『くっ……』
のたうち回っているうちに耳栓がとれてしまい、少年の声を聞いてしまった兵士はその場を去った。
「さてと、大丈夫かい?」
少年の表情が優しくなったのを見て、ミアは危機的状況が去ったと分かり安堵してその場に座り込んだ。
そして昨日寝不足だったこともあり、そのまま気絶してしまった。