33話 権力
「しかしリアム様、どうして今回の作戦がトラジアの耳に入ったんですか?」
イヴァンとイヴァン派の人間がリアムに聞く。
ジョセフの報告を詳しく聞くと、トラジア人の備えはあまりにも万全で、一応警戒しておくというよりも、間違いなくマリジアが攻めてくることを想定した備えになっており、軍の人数も武器の規模もかなり多かった。
フィージアとのにらみ合いが続くトラジアが何の確信もなくシニジアに兵を送るはずが無いのだ。
「可能性を考えてください。なぜトラジアがあなた方の動きを読めたのかということを」
リアムは冷静に状況の説明をする。
「既にトラジアの人はマリジアと多く交流をしていますし、マリジアの女性がトラジアに嫁いでいることから、マリジアの情勢というのは、皆さんが思っている以上にトラジアの国民には知られています。そして、今回の話も一部のトラジア人の耳に入ったというただそれだけのことです」
「ですがいくらそうであっても、具体的に攻める日程や、人数などはトラジア人には分からないでしょう」
「人数は今の情勢から逆算すれば分かります。日程は確かに分からないと思いますが、ここでライリーさんが絡んできます」
「ライリー様が何の関係があるのです?」
「彼女自身、自分の後を継ぐものが自分より劣っており、ラムザの管理がずさんになることは分かっていました。そこで、トラジアにこのように伝えていたのです。『ラムザの住民が反発してからマリジアで不審な動きがあれば、その7日後にシニジアに兵士を送ってください』と」
「……」
イヴァン含めて何もいえなくなってしまった。
「リアム様はどこから……、いえ、愚問ですね」
「はい、俺の能力で以上の情報は知っていました」
「でしたらなぜとめていただけなかったのです!」
「死傷者が出るなら止めますよ。ですが、今回はトラジアがかなり兵力を多めに配置することも知っていましたから、戦争自体が起こらないことも知っていましたので、止める必然性がありませんでした」
リアムは飄々と話す。
「しかし、この件でトラジアの心証が悪くなったでしょう? それはどうするんです?」
「ですが、あなたたちは俺が事前にこういったら止めましたか? 俺は会議に口出しはしませんでしたが、政務においてラムザへの進行を慎重に行っていたことは皆様ご存知であったはずです」
「……」
また何も言えなくなる。
「確かに今回トラジアともめる可能性はありますが、今回の件においてトラジアは大きな損害を被ったわけではありませんから、大問題にはならないでしょう。それよりも、昔持っていた権力を利用して、いざとなれば暴力に手を染めようとする政治家をあぶりだそうと思いました。イヴァンさんすいませんが、政務の任は解かせて頂きます」
「な!」
イヴァンをイヴァンに従う政治家が大きな声をあげる。
「政務はあくまでも平等な話し合いの元で国の方針を決めます。イヴァンさんはちょっと今のシステムには向いていないようです」
「私がいなくて、誰がラムザを管理するのです! 農耕の技術は簡単ではないのですよ」
「ドニさんがいれば十分ですよ。後は俺が補助しますし」
「こんなことをして、どうなるか分かっているんですか?」
「それがだめなんです。権力はある程度は必要でしょう。しかし、それが強制につながってはいけないんです。あなたに逆らうと立場が危うくなるということで間違っていても抗議ができない。今回の件も知ってますよ。かなり無理をさせて、ラムザ侵攻とトラジアへの未報告を採決を取ったんですよね」
「せ、政治とはそういうものだ。トップに委任するのが普通だろう」
「それはもっと後の話です。今は全員で話し合って正しいことの定義をはっきりさせる時期です。とにかくお引取りください」
「覚えていてください。必ず後悔しますよ」
恨みのこもった目でリアムやソフィアを睨んでイヴァンは会議している部屋を出て行った。
「では、これからトラジアに対する対応策を話し合いましょう。ソフィアさん、俺の服つかんでないで仕切って」
「は、はい、ありがとうございます」
リアムがイヴァン達に対峙している間、ソフィアはずっとリアムの後ろにかばわれていた。背の高いソフィアより少しだけ大きいリアムの背中に安心感を覚えて服をつかんでしまっていた。
「トラジアとの問題はやはりそんなに大きくなりませんでしたね」
2日後、すぐにトラジアとの会談が行われた。
一歩間違えば、サリウスやイリオスの返還の可能性もあったが、リアムとソフィア指導の下、今回のラムザ侵攻を賛成した政治家の処分や、ラムザの管理について、マリジア、トラジア合同でシニジアの管理を確認し、問題があると判断されれば、トラジアの確認を得た上で、シニジアへの侵攻をすること、その際、初めは管理の優先権をトラジアに与えることなどで合意し、大事には至らなかった。