20話 能力のバランス
「そういえばリアちゃんの目は治してあげないの?」
リアムの家に来ていたミアが尋ねる。
リアムがリアを買い取ってから1週間ほど経ってガリガリにやせていたリアは肉付きがよくなった。
野菜ばかり食べていたリアに、ノアやミアは不安に思っていたが、きちんと食べていれば大丈夫なのがわかった。
ミアはリアが心配で、よくリアに会いに来ていたため仲良くなっていた。それもあり、ついリアムに質問した。
目が見えないことで、家の外にもあまり出られず、家の中でさえ自由には動けないのが気の毒で仕方なかったのだ。
リアムの能力を持ってすれば目も治せるはずなので気になってしまった。
「目はちょっと精神的なもので、俺の逆強制では力が足りない」
リアの目が見えなくなったのは、悲惨な光景が見えなくなるように反射的になったものであり、本人の意思とは別のものである。
逆強制の能力はあくまでも本人の意思を強制するものなのでこの場合は適用されない。
「奇跡の方ならいけるんじゃないの?」
「あっちならいけなくはない。でもあの能力で無茶をさせるわけにはいかないんだ」
リアムはミアに説明する。
「奇跡の能力を使えば、目を開けさせることはできる。しかし、ただ目を開けるだけでは意味がない。
精神的な不安の大きさがあるから、じっくりその不安を取り除きながら目を開けさせなければ、また目が閉じてしまう。そうなると、目が見える可能性が0%になってしまう心配もあるんだ」
「そっか、なんでもありじゃないんだね」
「一応リアさんの尊厳は踏みにじらないということを約束したから。俺の能力は0%に近ければ近いほど無理が出る。サリウスでこの能力を使ったときは、ウィリアムさんが暴走する結果になってしまった」
リアムが言うには、あの時の本来の意図はウィリアムに退却させて進行を止め、降伏にもちこむことが目的であった。
しかし、ウィリアムが裏切る可能性が低すぎて、ウィリアム自身の理性が無くなって、メイソンを切ろうとする結果になった。
目が開く可能性は0ではないが、現状ではかなり低い。それを無理させることがリアにとっての負担になる可能性は十分にある。
「十分健康になったし、焦ることはないもんね」
「だから今使ってるのは3つ目の能力さ」
「今日も失礼」
リアの部屋にリアムが入る。リアにはリアムの屋敷の部屋の一室が与えられている。これも奴隷としては破格の待遇である。
(《リアさんの目が開く》)
リアムはそう思った。2つ目の能力、奇跡の能力である。
「?」
こちらの能力はリアムが思うだけなので一見リアムがただ黙っただけにしか見えないので、リアのように事情を知らない人が見ると不自然に見える。
「よし、こんなもんか」
「なんなんですの? 1週間も毎日同じようなことをされて」」
「今日も目を見えるようにするためにやってるんだ」
「私の目はもう見えることはありませんわ……。目が見えなくなったから特に治療を受けることもなく放置されていましたもの」
「まぁ確かに普通に考えたら厳しいな」
ジア大陸においては、目が見えなくなった患者を医療によって治した例はない。
偶然直った例もあったが、それはあくまでも目が見えなくなってからの時期が短い場合に限られていた。
「でも別にリアさんは目をくりぬかれたわけじゃなくて、そのまぶたの裏に目はあるわけなんだよ。だったら可能性は0じゃない」
リアムはリアの両まぶた右手で覆う。
「よくわかりませんわ。私いろいろ勉強してきましたけど」
「いえいえ、いずれどうにかはなる。というか今日大丈夫になる」
「え……?」
リアムがそういって手をどかすと、リアのまぶたが開く。
目が開いてすぐはいまいち視線が定まらず、目線がキョロキョロしていたが、やがて視線が落ち着き驚いた表情でリアムを見る。
「改めましてはじめまして。リアム=マーフィーです。目は大丈夫か?」
「は、はい何の問題もありませんわ」
「よし、成功した」
「さすがリアムだね。リアムが今日って言ってたから、お父様も連れてきたよ」
そのタイミングで、ミアとリアが部屋に入ってくる。
「リア、本当にお久しぶりだね」
「ミアにノアのおじ様……、お久しぶりですわ」
「是非城と町を紹介したい。案内させよう」
目が見えるようになったリアは早速町や城を案内された、もちろんシニジアの元皇女であることは隠していたが。
高飛車なしゃべり方ではあるが、基本的に教養のあってよい子であるリアはすぐに受け入れられた。
「リアさん、是非マリジアの再興に力を貸してください」
リアの案内が終わり、落ち着いたところで、リアムはリアにそう言った。
「私を助けてくださったリアム様に恩返しいたします。私が今お返しできるのは私自身しかありませんから、私をご自由に使って良いですわ」
リアムは能力を何も使わなかったか、リアにとって既に神のような存在となったリアムに逆らうはずもなかった。
「そんなつもりはないから。対等に協力してくれれば良いし、いずれ望むのならシニジアに返してあげるよ」
下を見て服従の態度を示すリアの頭を軽くたたいて立たせる。
「私はシニジアに帰るつもりはありませんわ。あなたとあなたのいらっしゃるマリジアが私の新しい故郷になりますわ」
リアムの右手を取って自身の胸に寄せる。右手が胸に触れて、ちょっとどぎまぎしていた。
その珍しい表情を目を閉じていてリアは見ていなかったのだが。
リアムが使った3つ目の能力は仮未来視。<仮にこういった行動を取ったら、こういった未来が訪れるということが分かる>という能力である。
通常の未来視よりも使い勝手が非常に良い。
次の日から、リアがやたらとリアムの世話をするようになり、ミアがヤキモキするようになったらしい。
リアは野菜ばかり食べていて、ミアより2個年下なのだが、スタイルはリアに軍配があがっていたためにそれも彼女の不安になった。
ミアはまったく太っていないがかなりの肉好きで、野菜は時々まとめて取るという偏食振りを見せていた。
しかし、しばらくベジタリアンの真似をしたらしい。
ちょっと城内や町中でもこの話が広まって、一時期野菜ブームとなったが、ミアを含めて続かなかった。