第1話 ミアというお姫様
第3次ジア戦争がわって国を安定させたの後は、ワイアットが引退して後見人となりノアが国王となったのだが、ノアはワイアットほどの手腕はなく、毎日何とかワイアットに負けないように頑張っていた。
ノアが全力で頑張る姿は国民に評価は受けていたが、家族の世話までは両立できなかった。
ノアの妻はミアを産んで亡くなっており、ノアの兄弟もノアのフォローで手一杯だった。
母親がいなくなったミアは、城の使用人が世話を日替わりで見ていたが、1番世話をしていたのはワイアットであった。
ミアもワイアットになつき、特に引退してからはワイアットが自分の過去話をしたりして、ワイアットの知識をミアに教えたり、一緒に城を出て祭りやイベントに参加して国民と触れ合ったりして、信頼を得たりした。
ノアが毎日頑張っていることは国民は認めていたが、行事に参加どころか見学すらしないため、寂しくもあった。
ミアはワイアットが来れなくても自ら行事に参加して仲良くしてくれるので、ワイアット同様国民人気はとてもあった。
ワイアットが死亡した後も、町に出ては国民と触れあった。
度重なる戦争や兄弟が次々と倒れたことのプレッシャーで、病気がちになっていたノアに対し、性格もワイアットの血を強く継いでいて、非常に図太く育った。
自分が不幸になるなど一ミリも考えておらず笑顔を振り撒くそのさまは、残りの兵士や住民たちの力となった。
「おはよー♪ 今日も頑張ろうねー」
そして現在、ミアは17歳となった。
セミロングの髪を緩く左側で縛り、常に笑顔を絶やさない可愛い少女に育った。
「お嬢様。今日もお元気そうで」
「おはようグレーさん。今日はどうするのかな?」
グレーと呼ばれたのは執事のグレイソン=ブレッド。
前国王から仕える功労者である。
既に80歳で髪も髭も真っ白だが、体つきはしっかりしており目力もある。
よほどノアより健康に見える。
「本日もノア様のご看病と、後輩の育成。手紙の仕分けでございます」
「そっか~。私は今日も外に出てくるね」
「かしこまりました。お供にイーサンをお連れください」
「え~。やっぱり1人は駄目なの~?」
「お嬢様は大事なマリジア王国の跡継ぎです。何かあってはならないのです」
好奇心旺盛な彼女は放っておくと、余計なことをすることがしばしばある。ワイアットからは落ち着きだけは遺伝しなかったようで、突拍子なく行動することがあるため、グレイソンはいつも気にして見ている。
「分かったよ~」
「イーサン。お嬢様を護衛しなさい」
「かしこまりました」
イーサンと呼ばれて出てきたのは、二十代くらいであろう若い男性イーサン=サナハ。
マリジア王国の兵士の1人で、若いながら部隊長を務める。
マリジア王国の兵士の絶対量が少ないとはいえ、この若さでの部隊長は異例の出世だった。
「いってきまーす」
ミアは元気に城の外に出た。
いつも通りコロンの町中を歩く。
「あ、ミア様!」
「今日もお元気そうで何よりです」
「最近は物騒ですから気をつけて下さい」
彼女が歩くと、町の人がほぼ全員話しかけてくる。
「ありがとー♪ 今日も楽しくがんばろーね」
「ああ、あの笑顔が見れた。今日も頑張ろう!」
「ミア様を見てるとなんとかなりそうな気がするな」
「あれが見られなくなるなんて嫌だよな。絶対に諦めないぞ」
マリジア王国が非常に厳しくなった今でも、ミアは町に出ることを欠かさない。
彼女がいなければ、マリジア王国から離脱する国民はもっと多かったに違いない。
国民は生活は大変だったが、マリジアをミアと共に守っていこうと頑張っていた。
「今日もミアは外出か?」
「その通りでございます。相変わらず民衆の支持は高いままです」
ミアが人気があることは、ノアも分かっていたし、自分がきちんと面倒を見られなかったにも関わらず、とてもいい子に育ってくれたことは安心している。
しかし、17歳の彼女にマリジアを任せてよいかと言うと不安があった。
堅王とまで呼ばれたワイアットすら、国を継いだのは25歳。しかも周りには多くのサポートがあった。
ノアにはワイアットのような政治力も人脈もない。ミアを形の上で王女にして、自分が実際に政治を行うことも考えたが、ミアに責任を押し付けることになる。
それは王である前に父親であるノアには許しがたいことであった。
だが、自分は病気でいつ死んでもおかしくはない。
そうなれば結局ミアは女王になる。グレイソン以外は若い兵士しかおらず、ミアをフォローできる実力者はいない。
何より、心優しいミアに戦争の指揮をとらせることは出来るのかが心配だった。ミアは平和な国を統治するには適しているとは今の人気を見れば分かる。平和な国にできていないことがもどかしくもあった。
「あ、アリアちゃんだ。やっほー」
「ミアちゃんこんにちは。今日も元気そうね」
アリアちゃんと呼ばれているのはミアと同じくらいの年齢の少女のアリア=スタンレー。
おっとりとした見た目同様、活発なミアとは異なりかなりおとなしい。
移動も、勝手に歩き回るミアと違い、馬車に揺られてこちらの方がよりお嬢様らしい。
お付きも兵士ではなくメイドがついている。
「アリアちゃん。今日は外にいるなんて珍しいね。遊ぶ? 何する?」
アリアは少し病弱であまり外出はしない。
「うん。今日はお祖父様に会ってきたの。お祖父様が私をフィージア王国に戻したいらしくて」
「え……、アリアちゃんもいなくなっちゃうの?」
元々ミアとアリアはマリジアにあった学校の同級生で、他にも友人はたくさんいた。
しかし、敗北濃厚となったマリジアには居られないと、多くの生徒がいなくなり、学校は廃校。
ミアの友人もアリアを含めてごく少数となっていた。
「私はそんな気はないけど……」
アリアは父親がフィージアの生まれで母親がマリジアの生まれであった。
隣接する王国の多いマリジアでは、他国との結婚は、戦争が本格化する前まではよくあることだった。
フィージアとマリジアでは、住みやすいのはフィージアのため、普通はフィージアに住む。
しかし生まれてきたアリアが体が弱く、軍事に重きを置き自然が少ないフィージアより、自然が多いマリジアに住まわせたいということでアリアの一家はマリジアに住んでいる。
そのかいあって、アリアは外出が時々できる程度には回復し、医師の見立てでは20になる頃には元気になれるとのことだった。
「私にとってはマリジアが故郷よ。元気になってミアちゃんと一緒に色々やってみたい」
「約束したもんね」
アリアの病状の話はミアも知っていた。ミアはアリアの親とも仲が良く、アリアの親も学校で常にアリアのフォローをしていたミアに感謝していた。
「でも私は子供だから……。最後はお父様やお母様に従うしか無いわ。だから多分マリジアを離れることになるわ」
「アリアちゃん!」
俯いて泣きかけたアリアの肩をミアは掴んで目を見た。
「私も子供だから、何もできないけど、お祖父様と約束したの。マリジアを守るって。私は絶対に諦めない。だからアリアちゃんも頑張って強くなっていつかマリジアに元気に戻ってきてよ。それで約束は果たせるから!」
「……うん……うん、ありがとう」
アリアは結局泣いたが先程の涙とは違う嬉しい涙だった。
今のマリジアがどれ程厳しいか、それはミアもアリアもわかっている。よほどミアの方が大変に決まっている。それでもミアが自ら諦めないと言ったならアリアも頑張らなければならなかった。
このハートの強さはまさに王族の血を継ぐものであると、イーサンもアリアのメイドも感じていた。
数日後、アリア一家はフィージアに行った。
「さて、私も頑張んなきゃね」