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第18話 食文化

コロンに戻ってきた2人はリアムの家に到着する。

リアムは初めの頃は山にあった自分に家に戻っていたのだが、できれば常に城の側にいてほしいということで、コロン内部に家を持つようになった。

 

昔マリジアに住んでいた資産家の家だが、マリジアを捨てて逃げたためノアが管理していた。


「ちょっと前に完成したばかりだからまだ新築っぽい香りがするかもしれないけど、とりあえずは俺の家に入ってくれ」

彼女は奴隷の扱いを知っている。リアムをまだまだ信用仕切れていないため、周りに誰もいない状況ではまだ不安を隠せなかった。


クゥ~。


まだ人の出入りがほとんどない静かなこの家にかわいらしい音が響いた。

彼女は自分の顔をうかがうことはできないが、自分の顔が赤くなっているであろうことは分かった。

信用していないとはいえ、あきらかに以前より良い場所に連れてこられてきたことでわずかに安心してしまい、緊張が解けてお腹を鳴らしてしまったのだ。


「ああ、そうか。まずはそうだね」

リアムの能力は基本的に自動的に発動するものではなく、自主的に発動させるもの。ハンターとの交渉では高い交渉能力を見せたが、18歳の少年の彼にはまだ時々察しきれないこともある。

「そんなに痩せてるんだから何か食べないとまずいね。ちょっと町に出ようか」


4つの王国には食べるものにも特色がある。

トラジアはお金を持っているため国内自給率は最低でそのほとんどを大陸外からの輸入に頼っている。そのため、多様性はあるが、新鮮なものは少なく、保存が利くものが中心になる。


フィージアでは戦争が多くあるため、全体的に料理が味が濃くて量が多い。自国では野菜よりも、環境が悪くても生き残れる家畜が多く残っている。

武器を作ったりすることの多いフィージアの環境下でも生き残れる家畜をうまく育てたため、資源には困っていたが、食事にはあまり困っていなかった。


シニジアは逆に自然がとても多く、野菜を育てるのに非常に良い環境づくりになっている。

シニジアの野菜は非常に新鮮で、他国からの買い付けも多くあった。

自然がしっかりしているので、家畜も育てられるのだが、生粋のベジタリアンの多いシニジアではそういった文化はないが大豆を取ることで十分たんぱく質を獲得できるため特に問題はなかった。


奴隷時代にリアがもっとも苦しんだのは食事であった。

彼女もシニジア人らしくベジタリアンであり、ただでさえ粗末な奴隷食に加えて、トラジアの加工品のあまり新鮮でない食事が完全に彼女にあっていなかった。

彼女がほかの奴隷と比べてもかなりやせ細っていたのはこういった理由もある。


「リアさんはシニジア人ですから、野菜の食事のほうがいいんですよね」

気遣いはできないが、知識はきちんと持っているため、彼はリアにそういった。


リアは初め何を言っているのか良く分からなかった。

奴隷は無償で働くもので、食事はまともなものを与えられることはない。せいぜいトラジアの裕福な家庭が奴隷を拾った場合に、そこそこの物がもらえるというだけであり、少なくとも主人と同じ食事を与えられることなどあるはずがない。

それは単純な知識として彼女は知っていた。

ところが目の前にいる自分の主人である人は、自分のために専用の料理を用意しようととしている。自分の唯一まともな耳すらもおかしくなったかと思ってしまうくらいであった。


「あらリアムさん。今日はリアさんと違う女の子を連れてきたのね」

「人を女たらしみたいに言わないでください。まだ店来るのも3回目くらいでしょう」

リアムがやってきたのは城の周辺にあるシニジア人が経営している食事所である。

リアムに話しかけた恰幅のよい中年女性がここの経営者である。

彼女はシニジア人だが、娘がマリジア人男性と結婚してこちらに住んでおり、夫が亡くなってからこちらに同居している。

戦争状況になってもマリジアから出て行かなかった、かなりの親マリジアである。


「あら、その子は奴隷さん?」

奴隷制度がないとは言え、マリジアにも奴隷がいないわけではない。腕を見ればすぐにそうであると分かる。あくまでも自主的に奴隷を作らないだけであり、他国から購入することはあるのだ。


「あらあら隠れちゃってるわね。かわいらしい」

彼女が話しかけると、リアはリアムの後ろに隠れてしまう。

「彼女は人見知りなんです。つい最近まで奴隷だったんですから」

「あらあらそれはかわいそうに。見た目もそんなに細くなって……。だったらもっと精のつくものを食べたほうがいいんじゃない?」

「彼女はベジタリアンなんですよ。お肉があまり食べられなくて、奴隷時代も苦労したらしいです」

「そうなの……、かわいそうにね。私に任せて頂戴!」

そういって彼女はリアの頭をなでる。

一応奴隷契約をする際に軽くきれいにされてはいるが、決して見栄えがきれいであるとは言えない。そんなリアを彼女は何の抵抗もなく触って頭を撫でた。

いくら時間帯が食事時間ではなくてお客が少ないとはいえ、不衛生な見た目をした彼女が店に入ることは本来は店主にとってうれしくないことだが、そんなことを彼女は気にしない。

「今はほかの人を入れないほうがいいわね。店を閉店中にしてくるわ」


「お待たせ! いっぱい食べてね」

出てきたのは、前菜に大根ときのこのサラダ、キャベツ丸ごと煮、じゃがいもとたまねぎのスープ。

メインには豆腐とねぎの豆乳鍋、なす味噌いため、ポテトグラタン、ごぼうとたらの芽のから揚げ、しょうがの炊き込みご飯。

最後にフルーツがたくさん用意されていた。

目が見えないリアのために、口頭でメニューの説明をした。


「最近はマリジアでもいい野菜が作れるようになったから、繁盛するようになりましたよね」

「コロンも自然の多い街だからね。私が来る前にも誰かやってても良かったと思うけど」

マリジアは比較的食文化が多様性があるのだが、どちらかというとシニジアの食文化の取り入れは少なかった。人口が少なくなったこともある。彼女のやっている野菜中心の食堂がかなりの独占市場となっていた。


店主の彼女と話しつつも、リアムはリアの口に食べ物を運んでいく。

新鮮な野菜の味と、あったかい料理の味は彼女が何年も味わっていなかったもので、あまりの美味しさに涙を流しながら食べていた。

その涙の理由を尋ねるほどは彼は鈍感ではなく、泣きながら食べる彼女は非常に食事に時間がかかったが、リアムは最後まで付き合った。


その様子をほほえましく見ていたため、店を営業中にするのを忘れたという話があったりしました。





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