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第17話 久々のぬくもり

リアは絶望していた。


彼女は親は物心つく前から失っていたが、叔父夫婦も兄妹も優しかった。

特に優秀な兄2人とはお互いに知識を高めあう仲で、互いに尊敬しあっていた。

彼女は第3皇女という高い地位を与えられてはいたが、彼女自身にはそのような気はなかった。

リアは教育係が舌を巻くほどの才の持ち主だったが、それはあくまでも天才である兄2人の教えを受けてのもの。

その優秀な兄の支えになっていくことが彼女の望みであった。


しかし、兄2人が次々と他界。妹2人があまり優秀ではなかったが、リアを含めた3人が優秀であったため、政治や教養の勉強はまったく為されず、花嫁修業のみであった。

そんな2人がトップとして引っ張っていくのは難しく、当時まだ10歳と8歳であり、もともと他国や富豪に政略結婚として出す予定であったため、相手の当ても無かった。


そうなると、リアの皇女就任が濃厚となった。彼女は兄2人とともに勉強しており、政務にもヘンリーに助言したりすることもあった。

そんな彼女をヘンリーは他国に紹介することもあり、外部に対しての人脈も持っていた。


しかし、それを面白く思わない義母によって彼女は視力を失って、シニジアを追い出され、山の中で何度も転んで体中に傷を負った。


そしてついにまったく歩けなくなり、彼女は失意のまま死ぬのみであった。

そこをたまたまシニジアへの仕事でたまたま来ていたハンターが拾ったのである。


彼女はハンター達の話を聞いていて、自身がすでに死んだことになっていて表ざたにできない存在であることが分かった。

そのため、どこかに売ることが簡単にできないこと。しかし殺してしまうことはできないため、死なない程度に管理しておこうということということを聡明な彼女は察してしまった。


そして事実そのとおりとなった。

もっとも最下層の部屋に入れられ、まともな食事を与えられることも無かった。

毎日暗い部屋に押し込められて、死にたい気分になっていたが、奴隷施設では自殺だけは絶対にできない設備となっていた。


最下層でも、圧倒的な安さで買えるため、本当にまれに買う人が来ないことも無い。しかし、彼女が外に出るということは、シニジアに引き渡されるか、ひどい扱いを受けるかの2択。

他の奴隷がもうアピールをして買われていく中、彼女は声を出すことは無かった。外にいても中にいても地獄であることは変わらない。

ただ、外に出たときにどうなるかという恐怖が、彼女に声を出させなかった。

そのうち、彼女は自身の声の出し方も分からなくなっていった。


そんな生活が1年続き、小さな小部屋の片隅でわずかに動くことも無くなっていった。

目も開かず、口も利かず、不衛生な見た目になってしまった彼女を買おうと思う人間はいなかった。


そんな彼女に久しぶりに声をかけた人間がいた。

「君のような子がこんなところで何をしているんだい?」

はじめはそれが自分にかけられた言葉とは思わなかった。しかし明らかな目線を感じて彼のほうを見た。

もちろん見ても彼が何者か分かるわけではない。しかし、彼女はそこに久々に好奇の視線ではなく、優しさを感じた。


そして、彼女は久々にその狭い小部屋から外に出ることとなった。



「一応奴隷となりますので、分かるように腕輪だけつけさせていただきますね。この腕輪は決して取ることができません。これをつけている限りは、どこにいても兵士に捕まります」

「そんなものつけなくても逃げない。リアさんでしたっけ? 仮に腕輪が無くてもこんな状態じゃどこにもいけないだろう」

「まぁそうなんですが、後々問題になりますから。腕輪をつけた状態でお渡ししないと、後に逃げてしまった時に責任を問われます。法律で決められてるんです」

「面倒だね。リアちゃんはじゃあずっとこのままなの?」

リアが心配して口を挟む。

「3ヶ月たてば、奴隷のご主人、つまりこの場合はリアム様が自身の権限で外せます。普通は奴隷契約と説かずに一生奴隷として使いますので意味の無いものです。外してしまえば、一般国民と同じになりますので、要は自由の身となります。また、リアム様には奴隷を引き渡す権利もあります。その場合は主人のみが変わり、腕輪の効果は継続します」

「とりあえず了解しました。要は俺の権限でいろいろ決められるんですね」

「そう思っていただいて大丈夫です。詳しい内容を書いた書類も準備しておきます」



奴隷省を出てリアムが歩く。リアムはリアの手を持ってゆっくり歩いていくのだが、1年以上まともに立つことすらしていない上に、目が見えず、方向感覚もまともでない状態ではいくら手を取ってもらっても簡単には歩けない。

転びそうになったり、リアムにぶつかったり、なによりかなり遅い。

ノアとミアは長く城を空けられないということで、2人は心配していたが先に帰っていた。


「仕方ないか……。戻ったら運動もしてもらわなければいけないな」

そういって、リアをリアムは背におぶる。とてつもないほど軽い彼女は簡単に持ち上がった。

本来奴隷を主が背負うなどありえない。他の人に見つかるようなことがあればそれは別の問題が発生する。

しかし、裏道を通っていったわけではないのに彼らは人に見つかることは無かった。


リアは久々に感じる人のぬくもりと優しさに困惑していた。

もちろん彼女も奴隷が背負われることなどあるはずが無いことは知っていた。身体能力の落ちている彼女は抵抗などできなかったが、周りに見られてはいけないと重い、わずかながらに抵抗した。

しかし、それ以上に感じる暖かさが彼女にはあまりにも優しく、それに身をゆだねてしまい、安心して眠ってしまった。


彼女が気がついたときには、無事にコロンについていたのである。



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