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第13話 サリウス・イリオス南部交換条約

「とりあえず、サリウスを手に入れてきました。今はグレイソンさんが見てくれてます」


リアムの発言に全員が驚きを隠せない。

確かにリアムの能力も伝説も知っているが、実際目の当たりにすると信じられない。

この周辺でもっとも戦力の強いフィージアで、しかも兵力も2万人いたのだ。

それを戦略も兵力も何もなしで1週間もかからずに奪還してしまったのである。


「では、予定通りトラジアとの交渉に行きましょう」

『待ってください』

リアムが前回の会議で決まったとおりに、トラジアにイリオス南部とサリウスの交換交渉に行こうとすると、一部の人間に止められる。


「どうしました?」

『せっかくサリウスを取り返したのです。ここを実力者に押さえてもらって、次はラムザを落としにいくべきではありませんか?』

『そのとおりです。せっかくサリウスを手に入れたのですから、当分は大丈夫でしょう』

「お、お前たちどうしたんだ?」


ノアがあわてた様子で質問する。

「ノアさん、たぶんですが皆様せっかく取り戻したサリウスをまたトラジアに渡すのはいやなんでしょう」

ここ何年か厳しい管理下にあったマリジアにとって、久しぶりにコロン以外の土地を取り返したのである。

この土地をまたトラジアに渡してしまうことに抵抗があったのである。


『私たちはもともとサリウスを管理しておりました。私たちにお任せいただければ、前回のような不覚は取りません。必ずサリウスを死守し、あわよくばイリオスも手に入れて見せましょう』


「お前たち、それでは約束が違うではないか。前回の会議でサリウスはイリオス南部との交換で話がついたはずだ」

『しかしせっかく取り返したサリウスをみすみすトラジアに渡すことは我慢なりません。前回サリウスをとられたのは不覚を取っただけです、きちんと対策さえしてあれば簡単には落ちません』

「ならばなぜそれを前回の会議で言わぬ。そのときに反対せんかった以上は従わねばならぬ」

『それは横暴です!』


「あなたたちの言いたいことはわかりました」

ノアと彼らの口論を聞いてリアムが発言する。

「今回は俺がフィージアを攻めましたが、基本的には俺が何もしなくても良い国作りが理想です。俺の意見にイエスマンでは、あまりよろしくない」

『話が分かりますね。では……』


「ですが、フィージアは今回の件で以前よりも更に兵を揃えてサリウスに来る可能性があります。これを、当時より少ない兵力で守れますか? もちろん俺がいないという前提でお願いします」

『? リアム様は戦ってはいただけぬのですか?』

「別に戦ってもいいですが、俺がいないと何とかならない作戦には参加したくないです。前も言ったかもしれませんが、俺は不老不死じゃないんで、俺がいなくなった途端にマリジアが駄目になっては意味がないんです。最悪俺が必要ない作戦じゃないと手伝いません」


『……』

本来はリアムが全部やってしまえば、かなり早い。

しかしそれではその場の解決にしかならない。リアムはあくまでも異端の存在である。

リアムの能力を受け継げるはずもないので、次世代はリアムがいなくてもマリジアをきちんと管理できる仕組みづくりをしなければならない。

そのためには、リアムがいるうちに制度を整えておくのが最も効率がよい。それもあってリアムはトラジアを見方につける作戦が最もよいと判断したのだ。


『それならば、リアム様がいるうちにフィージアを攻め落としてしまえばよろしいのでは?』

しかし、人間というのは力を持てば欲望を持つもの。特に長い間劣勢であったマリジアにとっては反撃のチャンスであるこの絶好の機会に逆にフィージアに復讐の意味を込めて攻め込みたいと考えてしまう過激派の人間もいるのは仕方がないことでもある。

マリジア王国の大臣や、有力な兵士からもそういう意見がでてしまい、非常に揉めていた中、リアムがフィージアを完全に攻め込んでしまうというかなり強引な意見が出た。

フィージアを1回滅ぼしてしまえば、リアムがいなくなっても関係ないという考えであろう。


「別にできますが、たぶんそれでも意味がないと思います」

しかしリアムは否定する。

『できるならいいでしょう。最もわかりやすいじゃないですか?』

「ならば逆に聞きますよ。たとえばフィージアが攻め込んできてマリジアを落としたとします。それであなたたちはフィージアに従えますか?」

『従えませんが、力がある以上は従うしかないでしょう』

「そうです。ではたとえば、その後フィージアの兵力が落ちて自分たちでも簡単に落とせそうな状況になったらどうされます?』

『国を取り返すために戦争を起こすかもしれないですね』

「でしょう? 自分たちの場合はもっとわかりやすいですよ。俺がいなくなったら戦力が落ちるのが名価格あので、それまで何とか耐え忍んでいればいいんですから。フィージアはマリジアよりもずっと国民が多いので反乱されたら終わりです」


リアムの言葉には何も返せなかった。自分たちの例にたとえてみれば無理やり支配されても、従うはずなどないことはよくわかってしまった。


「ただ大事なのは議論することです。今回この議論をしないで勝手にサリウスをトラジアに渡していれば、今話したような不満がいくつも出てきてマリジアの内部で足並みがそろわないという事態になってしまったはずです。フィージアを落としにかかることそのものは別にいいんですよ。きちんとその後フィージアの国民を従わせる仕組みを作れるのなら。今後もこの議論はしていきましょう。皆が納得する行動をとるのが1番ですから」

『すまなかった。私たちが短絡的であった。今回は君の意見に従おう』

『私たちの子孫のことも考えなければな』

『自分たちの国なのに君ばかりに頼ってはいけないな。今後も意見を聞かせてくれ』

大臣や兵長もリアムに笑顔で握手を求める。

その光景をみてノアは安心し、ミアはさらにリアムに惚れ直したのである。


もちろん、トラジアとの交渉はあっさり成立した。

トラジアは国民の増加によって大きな土地を望んでいたし、フィージアをけん制できるサリウスはぜひともほしい場所であった。

加えて、イリオスの南は国民が増えすぎてトラジア国内で扱いきれていない溢れた奴隷を管理しており、別の国が管理してくれるなら願ったりかなったりであった。

イリオス北部はトラジア管理のままなので、トラジアがサリウスに行くのにもマリジアの土地を通る必要がなく、行動制限が少ないのもありがたかった。

その代わりに、マリジアへの戦力援助や交易などの条件はついたが、金銭や人員に困っていないトラジアには何のデメリットもなく、トラジアとの会議はただ内容を確認するだけとなり、1時間もかからなかった。


これが後に言われる『サリウス・イリオス南部交換条約』である。この条約締結が、マリジア復興の第1歩となるのであった。






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