第11話 2つ目の秘密
~同時刻コロンにて~
「え~、グレイソンはずっとリアムのことを知ってたの!?」
ミアが待っている間不安でずっとおろおろしているので、グレイソンが気をつかってかリアムの話をする。
「はい、ワイアット様から、リアム様のお世話をするように承っておりました」
「どうしておじい様はリアムを山の中に追いやったの?」
リアムの功績は非常に大きく、マリジアにおいて十分高い地位を得られることは間違いなかった。
また、リアムがいれば、現状のようなピンチになることは間違いなくなかった。
それをワイアットが分かっていないはずはない。だからこそ気になって質問した。
「当時10歳のリアム様はあのような恐ろしい力をもちながら、とても心優しい少年でした」
「それは知ってるわ」
当時リアムのやさしさに触れた彼女にはそれは分かっていた。
「自らの力をマリジアのために尽くせといわれれば、その力を惜しみなく使用していったでしょう。基本的にはリアム様は自ら相手を殺めることはありません。もちろん、命を狙われれば反撃しますし、結果的に死亡したものはいましたが、自らの利益のために殺すことだけはございませんでした。しかし、当時はやられる前にやってしまえという意見を持っているマリジアの兵士もいました。完全にマリジアを守りきった時にワイアット様は戦争をやめようとしましたが、幹部の方は力があるのだから防衛でなく侵略にリアム様の力を使おうとしました。
それをワイアット様は悟り、リアム様を山奥に逃がしました。その後徹底的な捜索が行われましたが、誰もリアム様を見つけることはありませんでした」
「でも私は会えたのに?」
「おそらく会ってはいます。ただリアム様の能力を使えばなかったことになどいくらでもできます」
リアムは自分の言葉で相手の記憶をいじることもできる。それはミアを助けたときにもその能力を見せている。
「そのままリアム様のことを探したり、覚えている方がどんどん減っていき、リアム様はそのときだけ現れた伝説の存在、神の子としてあがめられることになったのです」
「たしかにリアムは強いけど、今回は大丈夫なのかな? 言葉だけじゃいくらでも対策されそうな気がするけど」
ミアの意見は正しい。たとえばリアムが『【俺を追いかけてきてください】』といえば普通は追いかけられない。しかし、その言葉の裏をかき『リアムがいる方向に走る』という風に考えられてしまえばそれは無効化される。
この能力は相手が初見であれば強いが、ある程度対策をされてしまうと意外と穴が多い。
2万人近い兵士がサリウスにはおり、すべてを倒す前に対策がなされる可能性は低くはなかった。
「大丈夫です。リアム様の能力はあれ1つではございません」
~同時刻サリウス~
「ウィリアム! 無事だったのか!」
捜索が打ち切られてから朝になると、ウィリアムがメイソンの所に戻ってきた。
「多くの兵士が帰ってこなかったんだ。何か知っているか?」
メイソンは近づいて話しかける。
「…………」
「ウィリアム……?」
まったく話しかけず、表情も伺えないウィリアムを怪訝に思ってメイソンが近づく。
スッ。
「!!」
ウィリアムが剣を抜きメイソンに向ける。
「メイソン様!」
周りの兵士が危機を感じてメイソンを後ろにかばい何とか回避する。
「ル……、ルーク様」
ルークとはすでに故人となっているルーク=フィージアのことでメイソンの祖父にあたる。
各国とバランスの良い外交を行い、フィージア王国の安定を作り出した人物である。
ウィリアムはまじめすぎる性格が災いして、なかなか出世ができなかったが、ルークが王となってから一気に頭角を現してそのままルークが死亡するまで尽くしていた。
それもあって、彼は非常にルークを慕っていた。
そんな彼がフィージアを裏切るような行動を起こすはずが本来ならなかった。
だがウィリアムは、初代のルークが目出した平和な国づくりは2代目のイサックになってからは穏健派よりも戦争派が強くなり、戦争による短絡的な国づくりが行われることが多くなったことにわずかながら不満があった。
それでも、ルークの愛したその国を守り続けていくことを重要視し、同じような忠誠を誓い続けていた。
メイソンもイサックの血を強く継いでいて、戦争派であった。
しかし、メイソンはルークが生まれる前に無くなっており、穏健派がいなくなってから生まれたため、戦争派になるのは当たり前である。
それを分かっていたし、実の父親のようにしたってくれるメイソンに対して考えを変えてくれとも言えなかった。
戦争派が多いフィージアでそのような意見を言えば、メイソンが周りから浮いてしまうし、最悪勘当などをされてしまう可能性もあった。
メイソンは戦争派でこそあったが。父親の意見を聞くまじめな青年に育った。その彼に罪があろうはずが無かった。
~再びコロンにて~
「リアムの能力ってあれだけじゃないの?」
「はい、リアム様が普段使われているのは言葉と逆の行動をとらせる『逆強制の能力』です。こちらの能力は100%強制できます。ただし、言葉にしなければいけないのと、言葉の裏をかかれると効果がないという問題が2つあります」
強制力が高いということもあって、その分使い方が難しい能力なのである。
「彼の真骨頂はむしろもう1つの能力です。こちらを知っているのは私とワイアット様くらいでしょう」
もしこのままグレイソンが誰にも語らぬままであれば、一生この能力は本人が語らぬ限り明かされないことになる。
「どんな能力なの?」
「しいて言うのであれば、『奇跡の能力』です。
奇跡とは起こり得るが極めて可能性が低い事象が起きること、または科学的に説明のつかないような要因で可能性が低いことが発生することである。
「それはどんな能力なの?」
「0%で無ければ自由にその出来事を起こすことができます」
「どういうこと?」
「例えばコインを投げるとします。表が出る確率は分かりますか?」
「表でも裏でも50%でしょう?」
「本体ならそうです。しかし、本来起こるはずはありませんがコインにはまっすぐ立つ確率がの請っています」
「そんなこと起こらないでしょう!?」
ミアにしては珍しく大きな声を出す。コイントスをそんなにするわけではないが立つ確率など考えたことも無かったためである。
「はい、まず起こりえません。ですが、絶対に起こらないということではありません。これが、コインが斜めに立つ、地面にめり込む、宙に浮くという話でしたらそれは本当に起こりません。それは不可能ですから。ただ、まっすぐ立つなら本当に限りなく低い確率ですが起こりえます。リアム様はそのまっすぐ立つを何度でも起こせます。だから奇跡の能力なのです」
「すごすぎだよ~、それを使ってればいいんじゃない?」
「奇跡の能力です。そんな乱用はできません。言葉にもしませんし、隙も無い技でただでさえ脳への負担が大きい上に確率が低ければ低いほどさらに負担がかかります。どういった確率を引くかにもよりますが、1日限度にしているそうです」
~再び数時間前~
ウィリアムの剣がわずかに届く直前に剣が止まる。
そして無言で振り向き、反対のほうに歩いていく。
「ウィリアムさん。あなたの忠誠心はすばらしいですね。まさかあなたがフィージアを裏切ってメイソンを討とうとする確率が4万分の1の確率しかないとは思いませんでした」
そういって、リアムもその場を去った。