112話 情勢
「なぜ! ずっと粘っていたのに!」
ソフィアが叫ぶ。
「士気が大幅に落ちています! 救援をお願いします」
南の防衛をソフィアに任せて、ミアとリアがイリオスに向かった。
「そういえばミアちゃん」
「どうしたのアリアちゃん」
「今回リアムさんが、リン大陸に行かされたのは2人の人間の策謀なんだよ」
「誰ですの?」
「ディーゼルとイサック」
「え!」
「ディーゼルもイサックもジア大陸を追放されたはずでは?」
「ハッハッハ。お久しぶりですねミア殿にリア殿」
そんな時、ジルとイリオスの国境の砦から声がする。
「ディーゼル!」
「覚えていらっしゃいましたか」
「あなたがリアム様を?」
「そうだ。私がトラジアに毒をまき、リアムをこちらに来させ、アメミットと戦わせた」
「なんてことを! ジア大陸にあの人は必要ですのに」
「逆です。私がここにいるためにはあの人は邪魔です。そしてお嬢さんたち。私が皆さんの代わりにリアムが死亡したことを皆さんに伝えておきました」
「そのせいで……」
「いやぁ、その後は皆さん絶望の表情になって一気に押し込めましたよ。もうジルも落としました。ようやくフィージアをわが手に戻せました」
ディーゼルは笑っていた。
「そして、トラジアはイヴァンに攻めさせています。心配しなくてもマリジアは最後にさせていただきます。ちなみに報告ですが、もうラムザに攻め込まれても問題ないので。クレアとハーパーは処刑させていただきましたので」
「ど、どうして」
「では、また会いましょう」
それだけ言い残して、ディーゼルはまた引っ込んでしまった。
「どうすればいいの……」
「クレア、ハーパー……」
さすがの2人も先手を打たれてしまってどうしようもなくなっていた。
「い、いえまだ実際に見ていませんからわかりませんわ。そうですわ! ジョシュアが必ず今回の事件にかかわっていますわ」
しかしリアのほうが絶望を味わった経験がある分立ち直りが早かった。そして、ジョシュアに今回の事件を結びつけるという冷静さを見せた。
「ジョシュアって、あのダニエルを冒涜したっていう……」
「ええ、だから彼さえ止められれば、まだ兵力はこちらのほうが多いですから、何とかシニジアに攻め入ってジョシュアを倒せば……」
「でも今から防衛以外に裂ける戦力がないよね」
「そうですわね……、それにジョシュアがどこにいるのかもわからなくては、どうしようも……」
方向性は決まっていくのだが、それを行うには、もうジア大陸全土がゾンビに攻め込まれすぎていた。
その後シニジアに何度か攻め入ったが、ラムザすら落とせず、逆にトラジアもピンチになり、ジア大陸全土が陥落するのが時間の問題となっていた。
マリジアに残っているイーサンの軍と、トラジアにまだ多く残る兵士。この2つを失えばもうジア大陸に守る術はなくなってしまうであろう。
その後マリジアの兵力はかなり押し込まれていた。
マリジア自体には攻め込まれていないので、平民こそ無事だが、兵士は何人かなくなり、ラムザを攻め込む軍勢がついにラムザを守る人数と同じになった。
防衛のうまいゾンビ兵を兵力で下回れば間違いなく勝てない。
今回がその最後のチャンスということで特攻をかけることにした。
その戦には、ミアとリア、アリア達も同伴した。
ここまで粘り強く戦ってきた兵士達だけあって士気は高かったが、しかし、ゾンビ兵を押しのけて進むことができず、ラムザの中心くらいで完全に止まってしまった。
そして、倒しきれなかったゾンビや、王族を倒して手柄を狙いたい兵士がミアやリアに襲い掛かる。
それでも2人とも一応戦いの心得はあり、倒していったが、数が多すぎて裁ききれず、ついにミアがバランスを崩して倒れる。
「ミア!」
「ごめん、皆……、リアム!」
ミアは覚悟して目をつぶった。
しかし、そこから何も起こらない。
目を開くと、敵兵のほとんどを占めていたゾンビ兵がすべてその場で倒れていた。
「え……」
その疑問は敵味方すべてから漏れた声であった。
「ふ~、まさか2人がラムザにいるなんて。ススさん、ありがとうございます。間に合わないところでした」
そのゾンビ達の奥から1人男性と小柄な女性が歩いてきた。
「ミア、リア、アリアさん。帰って来れましたよ。では【自分の味方は倒さないでください】」
そういうと、敵兵は同士討ちを始める。こんなことができる人間はミア達の知っている限り1人しかいない。
「リアム!」
「リアム様」
「リアムさん」
3人とも泣く顔を隠さずにリアムに抱きついていった。
「姉さま達、無事でよかった」
「リアムが死んだら私が一生独身になってしまう」
「クレア! ハーパー!」
2人の無事も確認し、リアは2人も抱きしめる。
リアムの参戦で、一気に南の情勢が傾いたのであった。