110話 伝えられた事実
マリジア、シニジア、フィージアの3国は少しずつ兵士を失いつつも、粘り強く耐え続けた。
フィージア北部のテレンスはアリアを迎えるために、一部の港を何とか取り返し、上陸可能にした。
そのために、グラインドの一部を攻め込まれる結果にはなってしまったが、すべてはリアムが戻ることで解決することに期待していた。
「おーい! 船が戻ったぞ!」
テレンスを守っていた兵士の1人が船に気づく。
「メイソンさん、ようやくですね」
時期的に戻るということ、テレンスをなんとしても取り返すためにソフィアがフィージアに派遣されていて、メイソンと協力してなんとか戻るまでに船を上陸させるための港を一箇所確保した。
「まさかリアム様がいなくなった途端に、シニジアが攻め込みにかかるとは……。偶然であればいいんですが」
「この用意周到さを考えると、偶然ではないのでは?」
「でしょうね。あのゾンビ兵たちはかなり準備されていたみたいです」
2人の予測はあっていた。ただ、ゾンビについてはあらかじめずっと用意されていて、今回のディーゼルの案にのっただけではあるが。
まだジア大陸には、今回の事件の黒幕にディーゼルが絡んでいることは判明していないのである。
続々とトラジアの兵士が降りてきて、ルーナが何か大きな箱を持っていた。
「ルーナさん! それがあれですか?」
「は、はいそうですよ」
ルーナの顔色があまりよくなかった。ルーナは病院でも常に働き者で笑顔を絶やさなかったので、その表情は珍しかった。
「とにかくここは少し危険なんですよ。早めにマリジアに行きましょう」
ソフィアはその表情を今回の冒険がかなりハードなものであったと感じ、まだ安全なマリジアの北部にすぐに案内することにした。
続々と人が降りてきて、最後の方にアリアとノラも降りてきた。
「アリア様?」
「アリアさん?」
ソフィアやメイソンが驚くのも無理はない。
アリアの顔色はまだ病弱であったころと比べても、わかるほど青白い色になっていて、ノラに支えられていないと倒れてしまいそうであった。
「ノラさん、大丈夫なんですか! お怪我などされたのでは?」
ルーナのこともあって、もともとは病弱なアリアが厳しい冒険で体を壊してしまったのではないかと心配していた。
「い、いえ……、アリア様にお怪我はありません。体調も悪いわけではございませんが……」
「とにかくお話を聞きますよ……、あら?」
ソフィアが驚いた声を上げる。
船から全員人が降りたようで、船から降りるための橋がどかされたのだが、リアムの姿が見当たらなかった。
「メイソンさん、リアム様を見ましたか?」
「そういえば見ませんね、アリアさん……」
メイソンがアリアに聞こうとすると、アリアの顔色がさらに悪くなり、しかも泣きはじめてしまったため、言葉が途中で止まってしまう。
「申し訳ございません。アリア様、私から言わせていただきますね」
ノラが前に出てそういった。
ノラは基本的に無表情であり、今もそうだが、真剣な表情は伝わった。
「リアム様はルーナさんが持っている生物の肝を手に入れる際に、その生き物と相打ちになり、お亡くなりになられました」
「え……」
「は……」
2人とも何をいったのかわからないという表情をしていた。
「そ、そんなわけないですよ。不可能を可能にできる人ですよ」
「俺たちに2万人対1で勝った人が簡単に死ぬわけは」
「ごめんなさい……、あの人は私を助けるために……」
アリアは絶望の表情で発言する。
「アリア様……」
そんなアリアを攻めることなどできるはずもなく、2人とも黙るしかなかったのである。
「そういうことでしたか……」
ノラから情報を改めて聞いて、2人も納得する。
だが、現状リアムがいないことはいろいろと問題がある。
ほとんどの人間がリアムの帰還を期待してこの終わりなき戦いを続けている。
リアムがいないことがわかれば士気の減退は避けられないであろう。
そして、現在南部を守っているミアとリアにこの話を伝えて、倒れたりでもされたらもうマリジアを守る術がなくなってしまう。
その真実をみんなにどう説明すればいいのか。答えは誰にもわからなかった。