109話 海上戦
「くっ、倒しても倒してもきりがない」
ラムザ陥落後、マリジアには多くの兵士が集まり、防衛戦をしていた。
トラジアからもフィージアからも戦力を集めていたし、もともとどれだけ不利な状況でもその断崖絶壁を使って粘り強く戦ってきたマリジアは、いくらゾンビが相手でも簡単には落ちない。
だが、こちらは人間であり疲弊もするし、1人も被害が出ないわけではない。
加えて相手は、いくら倒してもこちらに向かってくる。
いくら倒しても倒しても敵が出てくることは、優秀な兵士たちもさすがに士気を維持するのが難しかった。
「ひるむな! リアム様が戻ってさえこれば大丈夫だ!」
イーサン達幹部クラスが鼓舞する。
明らかに起こっているのは異常な現象であり、それを防衛するにはリアムの力は必須であった。
時期的に作戦が成功であれ失敗であれリアムの一行がそろそろ戻ってくる時期であり、それが彼らの戦闘の士気につながっていた。
「メイソン様! 北より敵襲です!」
「アリー様、北から敵兵が!」
マリジアで防衛戦を行っているころ、トラジア最北端のアイランと、フィージア最北端のテレンスに大きな船が横付けされて、襲撃されていた。
その兵士もまたゾンビ兵であった。
戦争が起こっているとは言え、戦争を起こしたのはシニジア。そうなればまずはマリジアを襲うと考えられたため、まったく油断していたわけではなかったが、マリジアがまだ全く陥落していない状況で、トラジアとフィージアが攻め込まれるとは考えられなかったのであろう。
その襲撃で、アイランとテレンスは、ゾンビ兵に侵略されてしまった。
即座に奪還を目指したのだが、ゾンビ兵は防衛戦となるとさらに強かった。
都市の境目に兵士が陣取り、倒しても倒しても直ぐに陣が復活してしまうため、ただこちらの被害がでるだけであり、それならば、今ある土地の維持が大事となった。
アリーとメイソンもリアムの帰りを待てば大丈夫であろうと考え、ひたすら防衛に回る作戦に出ていた。
「リアちゃん、大丈夫」
「ええ……、皆様のおかげで大丈夫ですわ」
リアム不在の状況では、ミアとリアが指揮をとっていた。
本来なら経験豊富なリアが主導するのが普通だが、リアはクレアとハーパーのことがあるためあまり表ざたに動けず、そうでなくても2人のことが心配でいつもの冷静な指揮をとることができていなかった。
「南部の防衛は安定しました。しばらくは耐えられます」
ソフィアも今回の防衛戦の主導を行っていた。さすがにリアムとともに政務を行っていただけのことがあって、2人に負けない実力があり、全体の指揮をしている2人に代わってラムザとの境とコロン間を往復して情報を常に報告していた。
「リア様、大丈夫ですよ。もうすぐリアム様が戻られるはずです。それまでがんばりましょう」
「ソフィア様、ありがとうございます」
「クレア様とハーパー様も直ぐに助けられますよ。それまで我慢の戦いです」
ソフィアがリアを励ます。
ジア大陸の要人は全員リアムの帰還を期待して、終わりなき戦いを続けていた。
「ハハハ。なんとも滑稽な話だ」
ディーゼルはニアンからの情報でこのジア大陸の状況を確認していた。
「ディーゼル殿、リン大陸を離れて大丈夫ですか」
ディーゼルたちは、アリアたちが乗る船の少しあとをついてジア大陸に戻っていた。
「私を追放したジア大陸の人間の絶望に染まった顔。それだけはこの目で見なくてはならない」
「しかし、リアムが確実にいなくなったか保証がないのに」
「少なくともあの船にリアムが乗っていないことは間違いない。ならば、リアムが万が一の可能性で生きていたとしても、戻ってくるのは大きく遅れるはずだ。それにお前も見たいだろう。リアムが作った国を自分たちの国にできる瞬間というものを」
「それはそうですね。そういえばススはどうされました?」
ディーゼルはイヴァンの島にいた兵士とニアンはつれてきていたが、ススはつれてきていなかった。
「あいつはもう必要ない。今後私がジア大陸の覇者となり、ジア大陸に永住するのだから情報は常に受ける必要はあるが、流す必要はない」
ディーゼルはススをおいてきた。
やはりシルフィードを長く手元に置くのはディーゼルも恐ろしかったようで、彼はススはリン大陸においてきていた。