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第10話 サリウスにて

サリウスはコロンの麓に位置する。

フィージアとの国境を挟んでいることもあって、防衛に特化した町作りになっている。

元々地形が団塊の形をしていて防衛に戦力があまり必要なく、山地国で高低差や森林、大きな川もあって防衛策が豊富にある。


それを利用して、コロンと同じく山頂に城を建てている。城は住みやすさより守りやすさを重視して城の内部は迷路のようになっており、大きさもコロンより高い設計になっている。


そんな地形にも関わらず侵略されたということは、いかに戦力差があったということである。


「さてと……」

そしてリアムはコロンとサリウスの境に来ていた。

境にはちょうど川があり、そこには見張りの兵士が5人ほど見えている。

近くには木がたくさんあり、実際にはもっといる可能性はある。


「どうも失礼します」

リアムは普通に姿を現す。

「誰だ貴様は!?」

当たり前のように見つかり、木の陰からも何人か兵士が現れて銃を構えられる。

「その髪色はマリジアの純正だろう。様子見の先行隊か?」

「俺1人なので隊ではありませんがね」

「1人でここに? ただ迷っただけか?」

「いえいえ。サリウスをいただきに来たんですよ。【さぁ俺を捕らえてください】」


見えなかった兵士も含めて十数人は兵士がいたが、誰も動けず、銃すら構えない。

「すいませんが、【銃を持ったまま立ってください】」


「なんだなんだ!」

兵士は全員が銃を捨ててその場に倒れる。

「よいしょっと。俺に銃を構えた以上は撃たれても仕方ないですよね」

そう言って近くの兵士の銃を拾って構える。

「や、やめろ」

「まぁ撃たないんですが。今から攻めこみに行くのに血がつくと邪魔なので。俺は撃たないです。【間違ってもお互いに撃ち合いなんてしないでくださいね】」




「最前線からの連絡が途絶えただと?」

サリウスの城の1番高いところに位置する玉座。そこに座っているのは若い男性で、名前をメイソン=フィージアと言う。

フィージア姓を持っていることから分かるように、現国王イサック=フィージアの息子である。

メイソンは第一王子であり、次期国王の筆頭候補である。


20代とは思えないほど落ち着いており、トラジアとマリジアの2国を相手にして安定した戦いを見せており、まわりの期待に答えている。


「トラジアに攻められたのか……。あっちにもう少し兵士を割くか」

兵士からの報告は、最前線からの連絡が途絶えたと言うものだったので、メイソンはトラジアと戦闘があったと思った。

「いえ、メイソン様。連絡が途絶えたのはコロン側のほうです」

「なんだと!」

メイソンはその報告に驚きを隠せなかった。

コロンには兵が手薄で防衛が手一杯なはずであり、攻め込めるような余力はないはずである。

「ついにマリジアが特攻をかけたのか」

3国に囲まれ物資や人員の調達が不可能に近いマリジアが、いずれコロンからでなければならないことは分かっていた。


「チャンスだな。コロンの守りは今手薄になっているはずだ。攻め込んできた兵士は何人くらいいるのだ?」 

メイソンはこれを期にしてコロンを落として、父親である国王の評価を得ようと思った。


「……それが、部隊が見当たらないとのことです」

「何?」

ここでメイソンが考えたのは、小数精鋭による潜入だった。

その予測はさすが合っていたが、1人で乗り込んで来ているとは予想できなかった。


「ならばその精鋭を叩けばマリジアは一気に厳しくなるな」

これもその通りである。確かにリアムを叩ければマリジアは終わる。叩ければだが。


「よし、山を探してそいつらを倒しにかかるぞ」

メイソンの判断は何一つ間違っていなかった。ただリアムが規格外だった。


山を探すのに5千人の兵力が割かれた。

これだけ動かしてもトラジアと境には1万人以上の兵士は残せていたし、城にもきちんと兵力が残せていた。

しかし、まさか1人で乗り込んでいるとは思わなかったので捜索は困難を極めた。

1日探しても見つからなかったため、全員を呼び戻した。

だが、千人以上の兵士が戻ってこなかった。


「何があったんだ!」


フィージアが支配する土地に違う国の兵士が居れば、普通はわかる。

土地が決して広いとは言えないサリウスで、山を探しても見つからないとすれば、百人前後が限界だが、それならば千人の兵士がその数に負けたことになる。

状況が読みきれないことにメイソンは混乱していた。

「そういえば、ウィリアムが帰ってきていないな」

ウィリアムとは、代々フィージアに仕える騎士であるウィリアム=トレースのことである。メイソンを含めて3代に渡って仕えてきた老騎士で、今回のサリウスを治めるメイソンのために国王が連れ添わせたフィージアの英雄である。すでに70を迎えようとしているがまだまだ現役バリバリである。

メイソンの剣の訓練や政治の知識の勉強もすべてウィリアムで、彼にとってはもう1人の父親といえる存在であった。

「ウィリアムに何かあったのか!?」

ウィリアムも山の捜索に参加していたのだが、姿が見えなかったことに不安は隠せなかった。




~数時間前~

「怪しいやつがいたぞ! 応援を頼む!」

山の中で1人の兵士にリアムが見つかると、その兵士は下手に近づかないで回りにいた兵士を呼ぶ。

「仲間はどこだ? どうやってここまで来た!」

リアムは下手に絡まずに逃げ回っていたが、100人近い兵士に囲まれて銃や剣を構えられた。

「このまま生け捕りにして捕まえてしまえばいい……、ぐ……、ぐわぁぁぁ!」


次の瞬間、前のほうにいた30人が何の前触れもなく首を押さえて苦しみ始めた。

後ろにいた兵士は動揺した。1人しかいない上にその人物は何かをした様子はなかった。

何をしたのか、何が起こったのかそれは見た兵士は何も分からず、それを見た兵士もまた同じように苦しんで倒れていく。

あっという間に100人は全員が立っていられなくなり、リアムはその場を去った。

このような出来事が何度も続き、いつの間にか犠牲者は1000人近くに上ったのである。


何とか1人だけ倒れなかった兵士が聞いたのはこの一言であった。


「【呼吸は大事ですよ。息を吸ったら必ずはいてください】」


この一言で彼の周りの兵士は息が吐けなくなりパニックに陥ってしまった。

「ふうん、吐く方に意識を持っていって『吐いてから吸う』を行うとは。さすが冷静ですね」

唯一残った兵士は、リアムの言葉の裏を取ってなんとか呼吸を続ける。

「貴様のことは覚えている。その不思議な言葉で戦は一気に形勢が傾いてしまった」

その兵士こそ、ウィリアムである。彼は8年前の戦争に参加しており、リアムの伝説を実戦において知っている人物でもあった。

23歳のメイソンを含めて、10代後半から20代前半の次世代を担う兵士がサリウスには多くいたため、リアムを実際には知らない兵士が多くいた。ウィリアムはもちろん注意を促していたが、実際に呼吸が大変な状況になって冷静でいられるはずもなかった。


「俺のことを知っているんですか。ワイアットさんはうまく隠していたと思うんですが」

「分からんやつにはワイアットに神が舞い降りたとでも思っただろう。しかし、知っているものもおる。しかしワシには通用せん。所詮子供の言葉遊びにすぎん。口を封じてさえしまえばお前など何でもない!」

そういって、ウィリアムは剣を構えて突撃した。




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