107話 信じられない出来事
「これはさすがに厳しいかな?」
リアムは基本的には年齢どおりの少年である。
だが、彼は自分の能力によって常に余裕を持って行動ができるということで、年齢以上の行動力や思考を持っている。
そんなリアムの頬を一筋の汗がたどる。それを見て周りにも動揺が移った。
「リアム様! どうされます!?」
「そうだな……」
リアムは常に正しい行動を取る。それに周りが従うのは彼が迅速に納得できることを言うからである。
リアムは、一旦全員を引かせ、自分が戦うのが最も良いと考え、その指示を出そうと思った。
だが、確信がなかったため、ほんの一瞬だけ指示が遅れた。
その違和感が一部の兵士に伝わった。ただでさえアメミットという生物が目の前にいて冷静ではなく、動揺して逃げる兵士、とどまろうとする兵士、アメミットに向かおうとする兵士でごった返し、アリアとパラが離れてしまう。
「あっ、パラ!」
パラは運悪くアメミットの目の前に出てしまう。
本来ならアメミットはシルフィードを襲うことはない。
アメミットはあくまでも人間を裁く生き物で、本能的に凶暴に動いてはいても襲うことはない。
だが、パラの後ろには、人間がたくさんおり、それをアメミットが襲おうとした。
「パラ! 危ない!」
アリアがパラを助けようとして、パラの前に出て、抱きしめる。
「アリアさん!」
このままではアリアがどうなるのか。それは仮未来視など使わなくても一目瞭然であった。そしてそれを助ければどうなるのかも分かったが、助けないわけには行かなかった。
キシャー!
アリアは目を閉じて覚悟の瞬間を待ったが、いつまでもそうはならなかった。
おそるおそる目を開くと、トラジアの兵士達が自分の後ろを見て驚愕していた。
振り返ると、アメミットが苦しそうな表情で横たわっていたが、リアムは体が少し薄くなっていた。
「リアムさん!」
アリアがリアムの手を握る。薄くはなっていたがまだ感触があった。
「やっちゃったな……、ちょっと間に合わなかった……」
リアムは奇跡の能力を使用していた。アメミットは伝説の生き物で不死ではある。
だが、存在そのものを否定することが出来る。アメミットはあくまでも人が信じることで存在する伝説の生き物で、それを否定されれば、存在できずに消滅してしまう。
リアムにとって不運だったのは、それを思いついたのがさっきの今であったこと、そして、アリアをかばったために、それが遅れたことの二点であった。
アメミットを否定することには成功したが、リアムも魂を喰らわれたようである。
直撃をさけたため、即座に意識を失うことはなかったが、どんどん薄くなっていき、消えてしまいそうになりつつあった。
「え……、そんなわけないよね。だってリアムさんだもんね……」
アリアは手を強く握ってリアムを見る。
さまざまな奇跡を起こし、不可能を可能にし続けてきたのがリアムである。
そんな彼の話をずっと親友のミアから聞いていて、自身で目の当たりにしてそれは確信になった。
アリアがどこにいても安心し続けていたのは、リアムへの絶大な信頼感によるものであり、リアムが何度か弱気な発言をしていたことも、ほとんど気にしていなかった。
そんなリアムが目の前で存在がなくなろうとしているなど信じられるはずもない。
「リアムさん! 何か手はあるんでしょ? だって、いつもリアムさんは完璧な作戦を立てて……」
「本当に申し訳ない、アリアさん。俺は確定してしまった運命だけは覆せない。アメミットに喰らわれた魂は必ず消滅する。それだけは、俺の能力でも覆しようがない」
「ミアちゃんやリアちゃん、それにハーパーちゃん……、それよりも、ジア大陸の人に何て言えばいいの……」
「ミアとリアには本当に申し訳ないと思っているけど、アリアさんを攻めるような2人じゃないから、大丈夫だ、ハーパーはちょっとだけうるさいかもしれないけど……」
話をしている途中に、リアムの声が徐々に聞こえなくなる。
「リアムさん!」
アリアが握る手もどんどん感触がなくなっていく。
「じ……、マリ……」
最後は何を言っているか聞き取れぬまま、リアムはアリア達の目の前から完全に消滅した。
その下にはアメミットの死体があり、間違いなくマリジアの病院でカーターが話していたモノが見つかったが、ジア大陸にとって、大損害となる結果を残してしまった。