105話 住むためには
1晩経って夜が明けると、リアムの一行はロップ村に入った。
多くの墓や生い茂った木々のせいで、どこからが道でどこからが村なのかは把握する術はなかったが、少し進むと、民家であったであろう建物がちらほら見え始める。
「リアムさん、ここは大丈夫なの?」
アリアが心配する。長年毒があるということで、立ち入り禁止になっていた村であるため、不気味な雰囲気をかもし出している。
「そんなに心配ならついてこなければ良かったのに」
「よく知らない土地でリアムのそばを離れるのが1番危険だよ」
「まぁ心配しなくても大丈夫だ。毒の正体である青カリは確かにこのロップ村で発生したが、今は浄化されている。あくまでも青カリは人間の手がかかった人工の毒だから、人の存在がなくなれば、自然に無くなるものなんだ」
リアムの言ったとおり、青カリのような毒は人工の毒であり、人の手を離れればある程度よくなるものである。
いわゆる自然の浄化能力というもので、人の手を離れたロップ村では自然の量がそもそもからして他の国とは比較にならないくらい多い。
村が全滅するほど毒が蔓延したとしても、時間さえかければ元に戻せるものである。
「まぁそれがわかったからといって、ここに住みたいとは思わないだろう」
かつて大量の死者を出した村で、いくらこのようなことを言ってもここで暮らそうとはしないであろう。
99%大丈夫でも、どこかに毒が僅かに残っているかもしれないし、そこで出来た作物や水を口にしたいとは思わない。
そうでなくても、周りにはお墓だらけで、心霊現象もロップ村より北で見られることがあった。
加えて、これだけ自然に侵食されてしまったナイリン国の南部を、開拓して住めるようにするとすれば、それこそ予算も時間も大きくかかる。
北部はかろうじて住むことができるが、それも荒くれ者や貧困者に占領されている。
ナイリン国が人が普通に住むためには、ロップ村の毒以外にもいくつも多くの問題があるのだ。
「だからこそ、他の国では見られない貴重な生き物が存在できるんです」
ナイリン国を案内してくれているマリン人が言った。
「でも、この子もそうだけど、連れて行かれたりしないの?」
「……ないわけではないですね」
アリアの心配どおり、ナイリン国南にしか存在しない生物は、いずれも非常に珍しい。
「ですが、ナイリン国の南部でしか存在しないということは、逆を返せばナイリン国以外では生命活動を行うことができないということでもあります。仮に手にしても、すぐに死んでしまったりすることに気づいてからは、そういったこともなくなりました」
「この子もそうなのかな?」
「シルフィードは精霊ですから、力が弱まったりすることはあっても急に死んだりすることはないと思います」
『いたか!?』
『見つからないぞ!』
『あの子供のシルフィードはどこに行った!?』
ロップ村の奥から声がする。
「ロップ村に今人は住んでいるのですか?」
「いいえ、そんなはずはありません」
即座にマリン人は否定する。
「ですが、この声は明らかに村の奥からですが」
『見つけた!』
『あいつを逃がすな! ディーゼル様の命令だぞ!』
アリアに手を引かれて歩いていたパラを見ると、武装した男が3人ほどこちらに向かってくる。
『そいつをこっちに渡せ!』
アリアにめがけて突撃する。
【アリアさん、パラにどんどん近づいてください】
当然リアムは能力を発動する。その声を聞いて武装した兵士は本人の意思とは逆に遠ざかっていく。
「アリア様に手を上げようとするとは!」
トラジアの兵が憤慨して3人を捕まえる。非常に人柄の良いアリアにトラジア兵も信頼をこの冒険で置くようになっており、彼らの怒りは本物であった。
「お前らの目的はなんだ? なぜこの精霊を狙う?」
『しゃべるわけがないだろう』
【理由は言わなくていいですよ】
『ディーゼル様が、この小さいシルフィードの親を捕まえている。その親に言うことを聞かせるためにこいつを人質にしているんだが、こいつが隙を見て逃げた。だから捕まえた』
「ディーゼルとは、あの元フィージア王の側近のディーゼルか?」
『そうだ』
「ディーゼル……」
ジア大陸での問題がリン大陸にまで侵食している事実に、皆驚きを隠せなかった。