103話 アメミット
「シルフィードにしてはかなり小さいと思ったが、子供だったのか?」
「リアムはシルフィードを知っているの?」
「知識としては知っている。風と空気の精霊で通常は若い乙女の姿をしているはずだが、この子はどうみても、小さい子供だろう」
「へ~、さすがだね。ジア大陸には絶対いないでしょ、こういう生き物って」
「ジア大陸には、ほぼ全部人の手が入って未開の地っていうのが、ほとんどないからな。こういった伝説の生き物がいることはないに等しいだろう」
ジア大陸は全世界中でも、かなり文化が進んだ国であり、ラムザですら、かなり都会的とまで言われるくらいである。
「じゃあ、例の生き物の正体もリアムは想像ついてるの?」
「ああ、一応は。多分だが、『アメミット』じゃないかと思っている」
「あの生物は『アメミット』というのですか? 私達も存じ上げないのですが」
マリン国側の兵士から質問が来る。
「確証はないがな。ただ集まった情報からそうではないかと思っただけだ。ただそうだとするとちょっと厄介なんだ」
「どうして? リアムに敵なんかいないでしょ」
アリアのリアムへの信頼感は高かった。
今回のコープルをきちんと押さえ込んで、マリン国の人間の協力を取り付ける流れも完璧で、全て彼が話した初めのシナリオどおりに進んでいたからだ。
「アメミットはもともと冥界の王に仕える正義の生き物なんだ。死者の魂が転生できるか、二度と出来ないかを決める権利をその王が持っていて、転生しない方が良いと判断された魂はアメミットに貪り食べられて、二度と転生は出来なくなるらしい」
「アメミットって正義の生き物だったんだ」
「ああ、だから、俺の能力に多分かからない。俺の能力が神のごとき能力というのなら、アメミットは存在そのものを神に保障されている。だから、簡単には倒しにかかれない」
「でも、悪い心を持った人の魂しか食べないなら、大丈夫なんじゃない?」
「このアメミットは放し飼いだと思うんだ。兵士さん、アメミットを探しに行った人で、行方が分かる人っています?」
「いや……、1人残らず帰ってこなかった」
「そのアメミットを探しに行った事情は?」
「バラバラだ。個人的な金目的から、自分の身の回りの人間を救うためまで」
「なぁアリア。本当ならアメミットが襲うのは、悪い心を持った人間だけだ。ところが、ここのアメミットはそうじゃない。そうじゃないのに、神の保障を受けている。俺がそいつのことを読めないのが何よりの証明だ」
リアムの能力は、意思に左右されるが、アメミットは本能的に動く生き物なので、効果がない。
そして、彼の能力と同格、要は、彼と同じような能力を持っている人間や、神や悪魔に仕える特殊な生物には効果がない。
今回アメミットの件だけはリアムが確証を持って行動できないことであった。
この件はちなみに、トラジアの兵にも話していたが、誰1人逃げ帰るものはいなかった。
リックがいかに信頼されていたかが分かる話であった。
「そっか」
「だから命を懸ける戦いになる。常に警戒していないとな」
アリアは神妙な顔をして、シルフを撫でる。
「困ったねパラ」
「パラ?」
「この子の名前だよ」
「ペットみたいだな。気に入りすぎだろう」
「だって可愛いしさ」
「もうちょっと緊張感を持てよ。本当に俺が100%守ってやれる保証は無いんだから」
ロップ村の入り口付近の墓場だらけの薄暗い空間で、なぜかのんびりした空気の流れる場所がアリアとリアムのいる場所であった。
真ん中にパラを挟むとまるで家族のように見えたと後に残った兵士は語っている。
アメミットの説明は本来とは異なります。
ファンタジーですので。