101話 膠着
「マリン国の様子はどうだ?」
ニアンにディーゼルがたずねる。
「コープルさんを、ずっと少ない兵士でとどめています。ドンタウンは完全に何もなくなっていて、コープルさんの兵は疲弊していますね」
焦土化の作戦そのものは、ニアンにより完全にばれていた。
しかし、リアムの能力そのものはわからない。
ニアンの能力は、あくまでもその場所で起きている状況がわかるだけであり、その目的は推定しかできない。
リアムは仮未来視で、コープルの動きを完全に読んでいたため、コープルがドンタウンを離れて、ナタール側に回るタイミングも完璧にわかっており、そのタイミングでナタール側の兵士を減らして、ドンタウンに兵士を回し、押し込まれていたドンタウンを落とす。
そして、ナタールも城より前を焦土化して、コープルの侵攻を食い止める。
「いったいどうやっておるのか……」
あくまでもわかるのは、コープルが侵攻し切れていないということだけ。
それがわかったからといって、どうすれば、マリンを落とせるのかまではわからないのである。
「マリンはリアムがいる限りは陥落させるのは難しいでしょう。しかし、私たちの目的はそうではないのでこれでいいでしょう」
イヴァンがディーゼルに話しかける。
おそらくリアムの作戦は、マリン国王の帰還まで持久戦をかけること。
マリン国が1つでも都市を残せば、マリン国王がいる限り陥落は絶対に起こり得ないからである。
それは、アゼル王にとっては都合の悪いことだが、イヴァンとディーゼルにとっては都合の悪い話ではない。
マリンが陥落するにせよ、復興するにせよ、あまり早くないほうがよい。
リアムは、ナイリン国に用事があるので、戻るわけではないが、リアムに余裕を持たせると、ジア大陸の様子を確認されたりして、対応されてしまう可能性がある。
この中途半端な状況が、彼らの最も望んでいた展開であった。
なので、アゼルに援軍などは出さないほうが良いと助言し、長期戦をあえて望ませた。
アゼル自身も若いライの助けが必要なこともあって、あまり簡単にはメイリンを離れることはできないため、今回の作戦は2人に任せっぱなしであった。
「ちょっと変だな?」
リアムが気になることを言ったので、アリア含めて全員が驚く。
膠着状態が長く続いて2ヶ月ほどたった。状況はまったく変わっていない。
「なんでかしら? リアムの作戦はうまくいってるじゃない」
「はじめはどうかと思いましたが、御見それしましたよ。あのコープル殿がここまで攻め込めないとは。戦わずしてかつとはよく言ったものですね」
はじめはリアムの作戦を否定的に取っていた人間も、今はリアムの言うことを信じていた。
それほどコープルという存在は、リン大陸において大きな存在であったということである。
「うまくいきすぎなんです。ここまでコープル殿が攻め込みに苦労すれば、普通は作戦の転換や、援軍が来るはずです。それがないのはちょっと気になりますね」
「確かにそうですが、コープル将軍を信頼してのことでは?」
「そろそろ2ヶ月になります。リアム様もナイリン国に行かれたほうが良いのでは?」
「うーん、じゃあお任せします。この後コープル殿は、4日後にまたドンタウンに動きますので、それに対応して置いてください」
同時期、ジア大陸も膠着状態が続いていた。
大きな戦争が起こらず、マリジアとシニジアの間で小競り合いが起こる程度。
シニジアから、クレアとハーパーの情報もまったくない。
まるで何かを待っているかのように動きがない。
この戦争は、クレアとハーパーの所在がわからない以上、マリジア側から仕掛けることは難しいのである。
もちろんこの2人を救助するための動きを2ヶ月やらなかったわけではないが、まるで情報が流れているかのように、妨害され、まったく情報がはっきりしないままであった。