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ダンジョンおかず。  作者: 道尾ゆう
9/11

魔王と12時のランチ (1)

紫色の空は不気味に広がり、雲が千切れ空にいくつも散らばっている。

轟くような雷鳴は、巨大な岩を真っ二つに裂く。

雲を動かす風も生温く、そこにあるのは毒の沼それと見上げれば果しなく、背筋が寒くなるほど高く陰鬱とした城だけだ。


城を守るのは、モンスターたちの中でも知恵と体力を備えた者たちのみ。

その者たちの雄叫びが空気を震わせ、もし存在するのなら神さえも近づくことは容易ではないだろう。


入口の荘厳な門の端には、魂のかけらも感じぬ騎士が二体。

ちらりと隙間から覗く黒い瞳に生気はない。

コウモリの声が響く冷たいフロアに魔王は玉座に肘をつき、薄い目をしていた。

赤い古びたマントをつけ、誰をも虜にするほどの美男子だ。

しかしその耳は尖り、見たものを凍りつかせるほどの冷たい瞳を持っている。

その瞳は深い碧だ。


「また、モンスターたちが殺られたか。」

深いため息が壁が見えないほど広いフロアに低く響く。


「えぇ、勇者とやら実にやっかいで」

手を擦りながら大きな頭が二つに割れた、魔物が魔王に近づき言う。

魔王はもう一度ため息をつき、足を一度上げ床を思いきり鳴らした。


「思い起こせば数千年前、我と勇者の血を引くものは剣を交わらせた。それにより我は長い間封印を解くことが出来なかった。しかし、今ようやく時が来たのだ。なぁ、ダクファ」


「えぇ、その通りで」

甲高い声でダクファと呼ばれる魔物は同意した。


「しかし、また。またヤツの子孫が邪魔するというのか」


珍しく声を荒げた魔王にダクファはおののき、一歩二歩と後ろへ下がる。

そしてまた、気を取り直したかのように玉座にそそくさと近づき囁いた。


「魔王さまが喜ぶ愉快な話を。実はモンスターたちを生み出した貴方を楽しませる存在が居ると」


目を細めたまま微動だにせず、魔王はダクファの話を聞いている。

その不穏な様子に気づくやいないやダクファは慌てて両手をふる。


「いや、気が向かないならいいです、いいです。魔王さまの気分転換にと思っただけですから」


魔王はダクファの話を聞き終わると、マントを翻し立ち上がった。


「よかろう、少し苛ついていたところだ。お前の話にのってやろう。」


ダクファは深々と頭を下げ言った。

「場所はラピア平原近くのダンジョンです……ってあれ?」

ダクファの話を最後まで聞くことなく、魔王は姿を消した。


「魔王さまってば気が早いんだから……」

ダクファがぽつりと呟いた。


魔王は茶色く丸いドアの前に立っていた。

「ここだな」

店のドアをおもむろに開くと店主が輝かんばかりの顔で入口に立ち出迎えた。


「魔王さま!」

店主を上から見下ろすかたちで魔王は目を細めた。


「そうか、お前は……」

店主はにこりとし、その言葉に頷いた。


「確かにダクファの言った通り、実に愉快な存在だな」

カウンター前の丸イスに腰掛け、頬杖をつく。


「何だこの匂いは。実に香しい」

カウンターの向こうにある、背の高い鍋に視線をやる。


「今は煮込みハンバーグを作っているんです。魔王さま、貴方へ特別なランチを」

褐色のルーの中にはふんだんにキノコも入れられている。鍋のずらした蓋からは湯気がうっすらと出ている。


「特別なランチか、面白い。ではそれを頂こう」


店主は魔王の言葉を聞くと、パスタを茹でナポリタンを作り始めた。

傍らには、エビフライを揚げる油も用意されている。

手際よく店主は、一つ一つの料理を完成させていく。その過程はまるで何かの芸術品を作るようでもあった。


白くよく磨かれた丸い皿には、よく煮込まれ上には生クリームを垂らした煮込みハンバーグ、こってりした色のナポリタンそして、揚げたての衣が立っている大ぶりなエビフライが盛り付けられた。


「どうぞ、お召し上がりください」


魔王は前に置かれた料理をぐるりと眺めた。


「実に旨そうだ。そして香しい薫りだ」


エビフライにナイフを入れたとき、サクッと小気味の良い音が響いた。

中からは、エビが溢れんばかりに顔を出している。

魔王はそれを、ゆっくりと頬張る。

口の中からはサクサクとリズミカルな音が聞こえてくる。


次に魔王が手を伸ばしたのはナポリタンだった。

こってりとした色合いのパスタをフォークに巻き付ける。所々に緑の野菜が彩りを添える。

噛むごとにパスタはもっちりと。

ケチャップの仄かな甘さを、緑の野菜が引き立てる。


パスタを一本残らず平らげた魔王は休むことなく煮込みハンバーグを切り始めた。

ナイフを入れた切り口から肉汁が一気に溢れだす。褐色のルー、そしてこっくりとした生クリームにからめ食べる。

思わず魔王は唸った。


「実に素晴らしい」


散りばめられたキノコとハンバーグを一緒に食べるとまた新しい食感を感じさせた。

ルーを綺麗にすくい全てを食べ終えた時、魔王はゆっくりとフォークを置いた。


「見事だな、これだけの料理を作り上げるなんて。しかしお前は……」


その時。

フッと二人の目の前にダクファが現れた。



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