白魔導師とチーズハンバーグ
白い布を被り、三つ編みを二つ垂らした少女は意気込んでいた。
「今日こそ、最強の回復魔法を身に付けてやるわ!見てなさい」
その大声のせいか、最後の言葉がこだまする。
みてなさい、みてなさぃ、みてなさ――――
んんっ。
と咳払いし「ちょっと張り切りすぎたかしら」と誰も見ていないのに頬を赤らめる。
「それにしても、このダンジョンは不気味ね。暗いし湿っぽいし。最下層にはドラゴンなんか居たりして」
止まらない一人言が洞窟の中に響く。
突然、コウモリが少女の図上めがけ飛んできた。
「うわっ、わっ」
少女は懸命に持っていた杖を振る。
そのうち、コウモリはどこかに消えていった。
「はぁ~、何とか追いはらえたわね。こういう時、白魔導師は力が弱い……」
彼女は、すぐにその考えを追い払うように首を振った。
「こんな所で弱音を吐いちゃいけないわね。先へ進まなきゃ」
進んだ先には分かれ道があった。
「そうねぇ、こういう時は自分の感を信じるのみ」
そして、白魔導師の少女は左の道を進んだ。
しばらく進むと、仄かに明るい光が見えた。茶色がかった柔らかい光だ。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「ん?何ここ。こんな所にお店?」
不思議そうに首を傾げる。
「うわぁ。薬草や満月草、それにクミンまで」
少女は目を輝かせ、カウンター後ろの棚に身を乗り出した。
「全て料理に使いますので。ところでご注文は?」
「食べ物が出てくるってわけ?ちょうどお腹も空いてたし……でも食べ物の名前なんて分かんないからあなたのお奨めを!」
少女は元気よく答えた。
「かしこまりました」
店主は肉の塊を細かくしたようなものに、棚の中から取り出した粉をかけ、丁寧に捏ねる。
「ふぅん、そうやって作るのね」
興味深そうに少女がカウンターの向こう側から覗きこむ。
「その風貌から察するに白魔導師さんですか?」
店主が尋ねた。
いかにも。という風に自信満々で少女は頷いた。
かと、思うとシュンとしたように体を小さくした。
「こんな所でしか言えないんだけど……。私、今パーティーに所属してんのね。でメンバーが女戦士に僧侶、極めつけはお笑い芸人。戦いになると、まず女戦士が強力な攻撃するでしょ、お笑い芸人は笑わせて隙を作るし。そして、僧侶!僧侶はね、回復魔法も使えるし、何て言ったって『生き返らせる魔法』だって使えちゃうの。あれ見ちゃうとさぁ……私って要らないなぁって。今だに初期魔法しか使えないし」
物憂げに話す白魔導師の前で店主は淡々と料理を作り続ける。
そして。
「チーズハンバーグです。お代わりはご自由に」
出された白い皿には、茶色の肉のかたまり。
その上には褐色のソースがかかり、顔を近づけると何とも食欲をそそる香りが周囲を包む。
皿の端には橙色の艶やかなものが乗っている。
置かれたフォークとナイフで半分に切る。
柔らかく成形された肉はナイフをいとも簡単に受け入れ、それとともに肉汁が溢れ出す。
そして、切り目からは白みがかった黄色い物体が、もったりと顔を出す。
白魔導師は肉を黄色い物体にからめ、口に頬張る。
それから数秒。
「お、お、お、お、美味しー」
ダンジョンのモンスターたちが驚くような声で叫んだ。
一口食べ、二口食べ、食べる食べる食べる。
最後の付け合わせの橙色の野菜を食べ終わった時、白魔導師の少女は戦いを終えたかのように、もたれ掛かり座っていた。
「よーし、これでパーティーの役に立てそうだわ。僧侶さーん、負けないから!」
そう叫ぶと、素早く立ち上がり洞窟の外へと走っていった。
白魔導師の少女が身に付けていた初期魔法『アルラ』が最強魔法『アルラガ』に進化したことは、店主以外、誰も知らない。