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不思議な山の会

作者: 甲斐興梠

タア坊の福岡での生活山登りの体験

不思議な山の会

                甲斐興梠

山の会の会合は通常月に1回市民センターで行われます。

タア坊は新聞の掲示板を見るのが好きで、マージャン愛好会、ハイキング、

山登り等が良く載っています。

その中で毎週土曜日に載せている山の会に勇気を出して電話をし福田と言う

女の人に水曜日の夜例会に出席する事を伝え市民センターに行きました。

中央市民センターに行くのは始めてですが入口に”福岡山クラブ2階談話室”

と書いてある看板があったのですぐ解り、階段を登り扉を開けると既に10人

くらいの人がいます。


1番前の空いている椅子に座っていると男の人が来て「すみません新しく入会

されるのですか」「はい電話で連絡していたでしょう」とタア坊「今日入会

する人は誰もいませんし、ここ1年くらい新しい会員が入って来ていません」

「え!福岡山岳会でしょういつも夕刊で募集していますよ」「ああ!それは

別の山岳会です。ここは福岡山クラブです下の看板に書いてあったでしょう

どうします」「福岡山クラブ?福岡山岳会とどう違います」「さあ福岡山岳会

の事は良く解りませんが、ここ福岡山クラブは主に九州の山に行きますが、

時には北アルプスにも行きます」「アルプスってヨーロッパまで行くのですか」

「いえ北アルプスは日本ですよ長野県にあります。それよりどうされますか」

「じゃあいいや山岳会に入ればどこでもいいのでここにします」

「では入会費500円と1月の会費500円

合計1000円会計の広田さんに払って下さい、申し込み書も記入して下さい」


「それでは今から例会を始めます。先月の例会の報告を中田さんお願いします」

「えー先月15日日曜日に金山に・・・・」タア坊は金山がどこにあるのか全く

見当つきませんが興味深々、後から入室した人も含めて15人くらいに

なりました。2時間くらいの例会が終わり入会の手続きをしていると、最初に

話しかけた会長の池田さんが「今から飲み会に行きますが来られますか」

「飲み会ですか、もちろん行きます」タア坊は一応新入会員として紹介され

ましたが、誰が誰か解りません。飲み会に行けば親しくなれて、どこか知らない

山に同行出来ると期待しました。池田さんが「今から飲みにいかれる方は

いつもの”円座”です」ほとんどの人が歩いて来ます。”円座”は歩いて

10分くらいの所にありました。


さしみ盛り合わせ、焼き鳥盛り合わせ、ゲソの唐揚げ、次々と注文しタア坊も

仕事仲間と飲みに行きますが、このように全く知らない人と飲むのも良いもの

だと思いました。池田会長が「いつも4~5人しか2次会には来ないのにほとんど

全員来るのはめずらしい」と言いタア坊も興味ありましたが、会員もタア坊に

興味がある様子です。

ちょうど席の前と横に座っている尾田龍男さんが「御所さん今週三郡夜間縦走に

行きませんか」ここにいる広田さんも行きますよ」広田好子さんは入会費と

会費を払った会計係りの痩せていますが、

筋肉の付いたいかにも山にのぼりそうな女の人です。

「夜間縦走、夜に登るのですか、真っ暗でしょう」

「ヘッドランプを付けて登ります。持っていますか」「いえ持っていません」

「夜間縦走に必要なものはヘッドランプ、食料、水、カッパ最低このくらい

でしょう」「ヘッドランプはどこで売っていますか」「登山用品店、この近くに

リリーグラスがあります」


21時少し前にJR篠栗駅に着くと尾田さんと広田さんは既に来ていました。

「お待たせ、タクシーに乗りますよ」と尾田さん尾田さんが前に乗り広田さんと

タア坊が後ろの座席に乗り込みます。「若杉山」「え!山までタクシーでいくの

ですか」「いえ途中までですよ」山頂まですぐ近くの中宮でタクシーを降ります。

「さあここから出発」タア坊は買ったばかりのヘッドランプを付けます。


広田さんは40歳くらい、尾田さんはタア坊よりも4歳~5歳若そうでタア坊は

38歳なので3人共元気な盛りです。尾田さんを先頭に歩き始めタア坊は

最後尾で進みます。若杉山はすぐに到着し県道60号線のショウケ超えに掛かって

いる橋を渡ります。3人ともやる気満々でぐんぐん歩いて行き尾田さんがここらで

休憩しようと景色の良いところで止まり、下界を眺めるとそれは綺麗な夜景が

見えます。「わ!きれい」と広田さん季節は8月なので夜は蒸し暑いのですが

ここは涼しく初めての夜間縦走にタア坊は感激します。「夏は夜間縦走に限るね」

と尾田さん、「はいバナナ」と広田さんがザックからバナナを取り出し

2人に分け与えます。

タア坊は飲み会で言われた水と弁当しか持って来ていません。

間食が必要なのか1つ勉強になったと思いバナナを「ありがとう」と受け取り食べ

バナナなんて普段ほとんど食べないのにこんなに美味かったのかと感心しました。


小休憩をして宝満山を目指し黙々3人が歩いていると、タア坊のヘッドランプが

少しずつ明かりが暗くなってきて消えてしまいあたりは真っ暗です。「ヘッド

ランプ電池を交換しないと」と尾田さん「交換の電池持っていない」二人共交換の

電池は自分用しかないので暗い中二人の後をついていくしかありません。

三郡山縦走は通常5時間くらいで行けるところですが、タア坊は初挑戦の為かなり

時間がかかり日が昇り始める5時前くらいに宝満山に着きました。宝満山を

降りようとした時突然、最後尾のタア坊がよろけて足を滑らせ滑落してしまい

ました。「大丈夫か」尾田さん「御所さあん!」と広田さんが呼びかけます。

返事はありません。後で解った事ですが、タア坊はこの時の事は覚えていません。

後で救助隊が来た時に気がついたらしいです。


「下山して警察に連絡する」と尾田さん未だこの時は携帯がありません。

尾田さんは登山口の公衆電話から110番しました。「もしもし宝満山で遭難が

ありました」「宝満山のどの辺ですか」「山頂からすぐに降りたあたりです」

「あなたは今何処からこの電話を架けていますか」「登山口のすぐ近くです」

「では山岳救助隊にすぐ連絡しましょう。登山口と言うと竈門神社ですね」

「そうです」「ではそこから動かないで下さい」2~3時間ほどして漸く警察と

山岳救助隊の人が10人くらい車に分乗して来ます。

「場所は山頂の近くですね」同僚が一人遭難現場にいます」

「ではすぐ行きましょう」通常登山口から山頂まで2時間くらいですが、

足が早くほとんど休憩も取らないので1時間半くらいで広田さんがいる場所に

到着「ここから滑落しました」と広田さん。夜はとっくに明けています。


滑落した時は薄暗かったのですが、長いロープを木に固定してさらに2人で

垂らして山岳救助隊の1人が降りて行きます。「おーい生きているぞ」

タア坊が気を失っていたのは一瞬で山岳救助隊が来た時は1人で立てる

くらいになっていました。「大丈夫ですか」「大丈夫です」落下したのは

10mくらいで大きな岩が無かったのが幸いしました。それでも落下地点まで

山岳救助隊の人と登って来た時は皆んな「良かった。良かった」と声をかけ

合います。担架に乗せる必要も無く自力で下山します。途中次々と山岳救助隊の

人が登って来て登山口に到着した時は30人くらいになっていました。

マスコミも来ています。明日の新聞には「宝満山で30歳代の男性遭難、

山岳救助隊が無事救助」と載ることでしょう。


タア坊の遭難事件があって2週間くらいして福岡山岳クラブに緊急例会の招集が

ありました。その前に会長の池田さんから御所さん話があると喫茶店に呼び

出されました。「今回の遭難の件です。尾田さんから三郡縦走に行くと聞いては

いましたが正式な計画書は出されていません。それは何とかなります。

山岳救助隊から約100万くらい請求が来ています。福岡山クラブは

『全国山の会』に所属しているので通常ではこの費用が出ますが、御所さんは

入会したばかりで未だ正式に受理されていないので『全国山の会』から

支払えないと言ってきている。でも尾田さんと広田さんは何年も前から

入会しているので支払ってもらえると思いますが、100万は無理だと思うので

緊急会合を開いて皆さんに協力してもらいたい」と前もって話がありました。


緊急の例会が催され会長の池田さんから「皆さん既にご存知だろうとは思い

ますが、このたび新会員の御所さんが宝満山で遭難されました。その時の

山岳救助隊の費用100万円請求されて来ています。山岳救助隊は消防が行って

いますが、今回は宝満山の為民間の全国労働者山クラブ福岡支部に警察から

救助要請があった為、この部隊が出動しました。

内訳は28人X30,000=840、000+14,000弁当代=

854,000です。全労山との交渉では尾田さん、広田さん特別基金から

救助費用が交付されますが、御所さんはまだ入会したばかりで積立がほとんど

ありません。今日お集まりの皆さんに御所さんの負担を少しでも軽くしたいので

ご協力をお願いする為集まっていただきました。何か意見はありますか」すると

一番前に座っていた栗田さんが「なぜ入ったばかりの人の遭難に寄付せない

かんと、おかしちゃないと、三郡夜間縦走なんて訳のわからん無茶をして3人の

責任じゃろ、私は寄付ばせんから」「他に意見はありませんか」

「状況が良く解らないから本人から説明してもらったら」

「では御所さんから報告していただきましょう」


「この度は皆さんに子迷惑をおかけして申し訳ありません。三郡縦走は始めてで、

まして夜間も始めてでした日頃は近くの九千部山に登っているので、体力的には

十分だと思っていました。でも考えが甘く宝満山に着いた時はふらふらで

滑落した事はほとんど覚えていません。救助隊が来て漸く遭難したんだと気づき

ました。私の経験不足が全てなので皆さんに迷惑はかけられません。不足分は

私が負担します。

でも28人もすぐに駆けつけるとはそのような大人数でなくても

良かったのですが、すごい組織だと思いました」すると池田会長が

「全労山は全国組織で福岡支部は3千人くらいな規模になっています。

山岳救助隊になる人はそれなりの訓練と経験をした人が登録されています。

救助の要請を受けるその場所に近い人達が駆けつけます。

福岡山クラブでは中田さんがリーダーになっているので中田さんから説明して

いただきましょう」「中田です。今回は警察から直接私に連絡がありました。

尾田さんから連絡があったら状況を聞いてもっと安く出来る方法を採っていたと

思いますが、警察からの話では宝満山から1人滑落した3人で登った様子で

1人は下山して1人は現場にいる様子ですとあり、まさか福岡山岳クラブの

人とは思わなかったので通常どうり福岡、北九州、久留米、大牟田各連絡網に

連絡しました。他県は今回止めました。ほとんどが福岡市内から来ましたが

北九州、久留米、からも来ています。大牟田から2人来ました」

「交通費はどうなりますか」「交通婦は自腹です。

だから余り遠くからは来れません。でも好きなと言うか

救助精神に溢れる人は熊本からでも来ます。熊本、大分は高い山が多いので

遭難事故が多いのです」中田さんの説明の後会長の池田さんから

「皆さんにこのくらい出してくれと言うのは難しいと思いますので今日は

今回の遭難に関しての費用の一部を皆さんの会費の中から出したいと

思いますので賛成か反対を決めたいと思います。

賛成の方の挙手をお願いします」

ほとんどの人が賛成でした。

「広田さん会費の積立はどのくらいありますか」「約20万くらいです」

「ではその中から半分くらい寄付していただいて残りは自主寄付にしましょう」

すると栗田さんが「会費はみんなで使う装備に当てると言う話だったのに

遭難費用に使うのは納得がいかん」と反対します。池田会長は無視して

「寄付金と会費から一部出して残りは御所さんが負担していただく事になります」


タア坊は福岡山岳クラブに入り最初の山行で遭難してクラブの仲間とも

何度も話合い、特に池田会長にはお世話になりその人柄に感心しました。

これをきっかけに九州の1000メートル以上の山にほとんど登り、

北アルプスにも挑戦する事になりました。







山での遭難は多額の費用が掛かります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 山で遭難した時のお金の話がリアルで勉強になりました。 珍しい題材で新鮮でした。 [気になる点] たあ坊=御所さんというのがわかりにくかったです。
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