ローダンセ
ローダンセを知っているかい、と男は言った。赤い口紅をつけ、いかにも安っぽいペラペラのドレスを着たオンナは、知らないわ、とそっけなく答えた。オンナの白い指に挟まれた煙草の煙が薄暗い部屋の中をゆらゆらと漂っていく。白い指と薄い皮膚でつながったオンナの胸元には、つい先ほど男がつけた赤い痕が散ったアザレアの花弁のように落ちていた。古いベッドが軋み、オンナがだらしなくはだけた脚を組み替える。その太ももにも、アザレアの花弁は残っていた。じゃあ、同情って言葉を知ってる?、と男は胸元のアザレアに指を這わせながら聞く。ワタシに同情してるっていうの?やめてよね。オンナは男の指を邪険に払い避けると煙草を灰皿に押し付けた。曲線を描いたオンナの眉毛が歪む。オンナは乾燥したオンナだった。腹から切りさかれ、内臓をすべてとりのぞかれ、何個も並ぶ青い網の上で天日干しにされていた。オンナの瑞々しい部分はもう幾分か昔、どこかの誰かが奪い取っていたのである。まさか、と嗤った男は小さい、それでいて鋭利なナイフをおもむろにバッグから取り出すと、声を紡ごうとしたオンナの声を奪い取った。乾燥した、干からびたオンナの首元から、もはやあるまいと思われた水分が溢れだす。清らかな水はオンナの首元、胸元を順に濡らしていった。突然男の手のひらから小さな芽が生えたかと思うと、みるみる間にローダンセの花が咲く。花弁に触れると、脆くポロポロと落ちてしまった。ねえ、ワタシ、知ってるのよ。あなた、私のこと好きなんでしょ、いつの間にかオンナは元通りになってそう言った。乾燥していたのは男のほうだった。男は心の臓まで乾燥していた。
同情からはじまる愛




