拒絶
放課後、部活も無い。
家にも帰らず、何故私はこんなとこにいるのだろう。
昔から好奇心旺盛な子だと言われたものだ。
幼いころ、おじいちゃんの日本刀コレクションにさわって怒られることもしばしばだった。 小さい目には、ギラリと光る鋭利な刄が、キラキラ光る宝物に見えたのだろう。
今、目の前にあるこの扉は、難破船の宝箱のように私を誘った。
南京錠をぐいっと引っ張って揺らしてみた。
扉の金属とふれあってガチャガチャと音をたてるだけだった。
手に金属のにおいが残っていた。
そのまま手を扉の下に這わせる。
わずかな隙間だった。
指がちょうど入らない大きさ。
それでも指先が感じる風は、指を誘っていた。
突然それが変化した。
足元を踊っていた風も、扉の方へぐんぐんと向かっているのが、靴を隔てた足先にもわかる。
扉の下の隙間に這わせた手は、今や痛みを訴えていた。
慌て外そうとすると、外せない。
激しくなる風に逆らい、腰をくの字に曲げて思いきり引っ張ると、しりもちをつきながらもなんとか指を抜くことができた。
人指し指のはらは、真っ赤になってふたすじの線がついていた。
そんなことは関係ない、とでも言うかなように、風はおさまっていた。
制服のスカートについた砂をはらい、立ち上がると、沈みかけた太陽と目があった。
私は家に戻ることにした。
対戦準備だ。
素手で戦える相手じゃない。
針金、はすぐにはみつからなかったから、クリップ。
カッター、ペンチ、それに小刀。
これは昔おじいちゃんが私に買ってくれた。
「心配するから、お母さんたちには内緒だよ」その約束を密かに守って、机の下の宝箱に隠してあった。
まぁ使わないから適当に放りこんでおいただけかもしれないけど。
とにかくそんな品々を持って、私は明日に備えた。
次の日、頭まで被ったふとんの中にしかけた爆弾。
その名も目覚まし時計を素早くとめ、私はいつもよりはやく身支度をはじめた。
家を出るとき、「もう出るの?」というお母さんの言葉を「日直だから」とかわし、学校へ向かった。
学校の時計台、針は正確で、六時辺りをうろついていた。
普段ならありえない。
わざわざこんな早起きまでして、朝から掃除場所に直行、なんて。
それでも私はまた、あの扉の前に立っていた。
この扉には、文字通り「引き寄せられる」何かがあるんだ。
「開けゴマ」
――て、自分。馬鹿か。
そこでさっそくクリップを取り出して、鍵穴に入れて動かしてみる。
だけど、それでカチャって開いちゃうのは映画な中の話しで、開きはしないのが現実だった。
ペンチでひねってみるも、力及ばず、またしりもちをついてしまうだけだった。
仕方がないので、ペンチをポケットにしまい、カッターを取り出した。
かんざき なみ。お母さんのまるっこいひらがなで書いてある。
相当な年代モノだ。
私はため息をつくと、それを地面においた。
ポケットをさぐると、最後の頼みの綱が出てきた。
おじいちゃんの小刀。
信じているわけでもないが、それを細いところにあてがい、力を加えてみた。
何とも言えない音がなった。
これが金属が切れる音らしい。
私はまじまじと小刀を見つめた。
驚きながらも感謝して、それに元通りにキャップをかぶせた。
鍵を奪われた無防備な扉。
私はついに手をのばし、扉を開いた。
扉の向こう。
そこに拒絶はなかった。