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扉の向こうに  作者: 雨砂
1/2

発見


「キャァッ!」


手がジンジンする。

膝小僧に痛みがある。


!?どうしたの?」


「痛っ…転んだだけ」


体を動かして立とうとすると、石が制服から出た素肌をこすって痛い。


「大丈夫っ?そこ石いっぱいあるから……怪我ない?」


「うん、すりむいただけだから」


しかし自分の足を見下ろすと、薄く血が滲んでいた。


「保健室、行った方がいいんじゃない?そこで転ぶと石入って危ないから」


遠くでが箒と地面から目をはなして私に呼び掛けた。


「いい、大丈夫。石は入ってないし」


たいしたことない。

それに今保健室に行ったら、帰りが遅くなるかもしれない。

今日はせっかく部活がない日なんだから、はやく帰って遊びたかった。

私は立ち上がりながら、まだ私を心配そうにみているに、大丈夫 と言うように笑ってみせた。

茉莉歌はまだチラチラと私の膝の傷をみていたけど、箒を振り回すようにして掃除をしている梨恵湖の方に歩いていった。


校舎裏、校舎に半分隠された太陽から、いつもの半分の光を受ける。

私は視線を下ろすと、転ぶ前にみていたものを再び見つめた。

四角い箱のように、校舎のへこんだコーナーにひっついている。

校舎と同じクリーム色の壁、素材も同じだ。

中が空洞なことを示すように銅の錆びた扉がついている。

少し腰を屈めて、扉を手でなぞるようにさわる。

腰をのばして指をみてみると、黒く汚れていた。

この扉に興味を持つ人は長い間いなかったみたいだ。

そう思うと、何故か背筋がゾクゾクとした。

ピラミッドの入り口を見つけたインディ・ジョーンズかのように興奮した。

扉をじっくりみると南京錠がかけてある。

そうこなくっちゃ、無防備な壁なんて壊す価値がない。

これこそ冒険、私は昔読んだ小説のトレージャーハンターにでもなった気分で、しゃがみこんで鍵を凝視した。

箱のような校舎への付着物――と言っていいのかわからないけど――それの壁に緑色の金属の細い板が留められている。

板には穴があいていて、その中に扉についているこれまた緑色の金属の突起がおさまっていて、ひとひねりしてある。

突起は輪状になっていて、そこに南京錠が通してあった。

――鍵番号は何だろう――それこそ、探偵にでもなったつもりで南京錠をひっくりかえし、鍵番号がついているであろう場所をみた。

ない……本来そこに記されているはずの鍵番号はなく、表面はツンツルテンだった。

今まで見た南京錠には必ず鍵番号があった。

一年生のときみんなが避ける一番に来てしまって、部室の扉をあけるのは大体私だった。

ただ、一回だけ扉を閉める鍵がわりに使われていた南京錠が開かなくなって、焦ったことがある。

そのときは次に来た先輩に、鍵と南京錠の鍵番号が違うから鍵が違うんだよ、と教えてもらって一件落着だった。

しかしこの南京錠には鍵番号がない。

逆に胸が高鳴った。

そのときの私には謎は多いほど嬉しかった。

もちろん鍵がないと南京錠は開かない。

でもそれを開ける、それこそが冒険なのだ。

扉を開けた向こうには未知の世界が詰まっている。

大袈裟じゃなく、私は想像した。

――タータータタタータタータタター……――


ふざけたような機械音が私のふくらんだ空想世界を壊した。 掃除の終わりを告げる音楽だ。


「菜未ー帰るよっと。あー全然掃除してなかったなー」


梨恵湖は踊るようにして歩いていき、せっかく集めたちりとりの中身を半分以上落としていた。

とおりかかった茉莉歌の視線を感じたので、私は立ち上がり、梨恵湖の後を追い掛けていった。

茉莉歌が自分の隣を走り去るのを確認し、もう一度ふりかえった。

――やっぱり……――。

まだ麻痺した痛みがのこる膝小僧を見下ろす。

石が多いところで転んだはずなのに傷口についてるのはさらさらとした砂だけで、小石はほとんどついていなかった。

今、扉の方をふりかえると、扉の前だけ石が妙に少なかった。

それに転んだときのあのくすぐられるような……ひっぱられるような感覚。

あの扉には何か秘密がある。

空想ではなく思っていた。


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