貞操の危機を辛くも回避、だが早くも詰んでしまった!
「こんなところでボーと何しているんですか?カナタさん」
聞き覚えのある声がした気がした。
猫耳の女の子がこちらをのぞき込んでいる。
……猫娘の……ニーア?
意識がもうろうとして思考がまとまらない。
「これはインムのチャームじゃの。恐らくはそこの奴隷店に入ったのじゃろうて。フォッフォッフォ、若いの~」
「インムって、カナタさんいやらしい!不潔です!!」
パチン!!!
ニーアが俺を思いっきり平手打ちした、それで俺は我に返った
「……ん?俺は何を??というか痛い……」
「チャームにかかった男性には平手打ちが一番なんです。まったく昼間から」
「あの店はインムがいることで有名じゃからの、どうせおさわりの代金として、金をとられたのじゃろう?」
ロジー爺さんにいわれ、所持金を確認する。
確かに20ルーグがなくなっている。
初期の10ルーグと、ニーア達にもらった10ルーグ
そんな……俺の全財産が……
「どうやらワシらがあげた10ルーグも取られたようじゃの」
爺さん、気にしていることを言わないで……
下心から女奴隷を見に行って、ぼったクリにあって金を取られて……
恥ずかしくて顔を上げられない。
「まあ20ルーグ支払えてよかったと思うべきじゃな。支払えなかったら大変じゃからのう」
皿洗いでもすればいいんだろ?
と思っていたがそうではないらしい。ロジー爺さんに話を聞くと、この世界には「ルールの神」という規則を守る神様がいて、契約や約束は絶対なのだ。
もし契約を履行できなければ最後、一生この世界で買い物などができない立場にされてしまうとか…
スキル「情報強者」発動
【ルールの神】
公正と契約の神、約束を破ると頭に666の烙印を押される。これは相手方が約束を履行したと認めるまで消えず、この烙印があるものは、この世界では信用されず、物を買ったり売ったりできなくなる。
「たとえ1ルーグでも支払いが欠けていたら、あの奴隷商の思いのままじゃな。恐らくあの奴隷商に掘られた上、男媚として格安で働かさせられるところじゃったわい。お主の白い肌は、男では珍しいからの。フォッフォッフォ」
フォッフォッフォ、じゃない。
男媚……それは「アッー」なお仕事のことですね、分かります。
確かにニートには色白が多く、俺も母が羨ましがるほどの色白だが……
というかあのおっさん、エロいだけじゃなくて男もいけるのか。
危なかった……もう一秒でもあのまま触れていたら…俺の貞操、危機一髪。
からくも守られた俺のお尻。
この世界、男色もあるのか……気をつけよう。
「それで、無一文になったそうですが、どうされるのですか?カナタさん」
ニーアが尋ねてくる、視線が辛い。美少女だからこそ軽蔑の眼差しが辛い。
そうだ、無一文になったのだった。これではろくに武具も買えない。外で魔物と戦って金を稼ぐのは無理だ。
おまけに町の中で働くことも、スキル【労働敗北】のせいでできない。
詰んだ……前の世界ではニートとして、しぶとく何とか生き延びては来たものの、異世界にきて一瞬で詰んだ。
俺はその場に膝をついて、声も無く嘆いた。
読んでいただいてありがとうございます。
さて、インムという聞き慣れない種族については、作者がインキュパス(男)とサキュパス(女)を勘違いしていた事が原因で生まれた種族です。
「666」のは有名な「ヨハネの黙示録」のお話から拝借しました。