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自宅警備士、異世界へ ~ 救世主として異世界に召喚されたが、チートな勇者とかじゃなくて、ニートな自宅警備士だった~  作者: sinwa
断章、隔離の勇者クロスと眷属リリーヌ

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少女リリーヌ

カナタ達の時代の300年前のお話です。


主役は後にインムの女王となる若かりし頃のリリーヌです。

なぜ眷属であったリリーヌは使徒クロスを裏切ったか?


鬱シナリオですので、注意して読んで下さい。

 広大な大エウロパ砂漠、別名『死の砂漠』と呼ばれる見捨てられた地。

 その灼熱の大地を、人間はもちろん、獣人その他の亜人達も決して足を踏み入れようとはしなかった。


 見捨てられた死の大地を、大勢の人間達が長い列を作り東へ東へと歩いている。

 よく見ると、歩いているのは人間達だけではない、猫人族や犬人族、決して他種族と交わらない人狼族、その人狼族よりさらに誇り高い孤高のエルフ族までいる。みすぼらしいローブを深々と被り、目元のみを露出させている女はインムの様だ。


 灼熱の大砂漠、その過酷な環境に誰もが耐えれるわけでない。

 小柄な女が倒れる。頭部を覆う布からはみ出た犬耳から察するに、少女は犬人族の様だ。大きく口を開け、だらしなく舌をだす。

 犬人族は熱さに弱い。灼熱の大地によって衰弱し、もう列に戻る事ができない。後は死を待つのみだ。


 列から中年の男がはずれ、犬人族の少女の下へむかう。

 男は懐から水袋を取り出し、少女の口元にあてる。


 少女は無遠慮に水袋の水を、喉を鳴らして飲む。

 ひと呼吸後、犬人族の少女は自分が男の大切な水を飲み干してしまったことに気づき、申し訳なさそうに男を見つめる。

 男は無言で少女の頭をなで、2、3励ましの言葉をかけると、少女と一緒に列に戻り、再び歩き出す。

 少女は無言で男の衣服の裾を握りしめていた。


 獣人の男が、人間の男に肩を貸しながら歩いている。

 ひときわ大きなその姿は、人狼族の様だ。決して他種族と交わらないという誇り高き人狼族。

 肩を貸してもらっているのは、人間の男。戦傷らしく、片足の膝から下が義足の様である。どうやら砂漠で上手く歩けないらしい。

 人狼族が人間の男に肩を貸すなどあり得ない、とこの世界の誰もが笑うだろう。

 だがこの一行の誰もが、そのような事に疑問を持ったりはしない。


 日が沈む頃にオアシスにたどり着いた。みな死んだ様に休息をとった。

 まるで墓地の様に静まり返ったその中で、赤ん坊の泣き声がする。腹を空かせている様だ。

 母親とおぼしき女がおろおろと狼狽している、どうやら、母乳が出ないらしい。

 みすぼらしいローブを羽織ったインムの女が近づき、赤ん坊を預かると、服の間から乳房を取り出して乳を与えた。

 インムの肌には男を強く惹き付ける効果がある。別の女がインムの前に立ち、授乳の姿を隠す。

 

 彼らは、一人の男に導かれ、新天地を目指しているのだった。そこに種族の垣根は無かった。


 彼らが死の砂漠の横断を試みる数年前。

 カナタ達の時代から数えて約300年前の昔。


 暗黒時代。

 人間とインム、エルフ、そして獣人達が口を揃えてそう呼ぶ時代。

 彼らの祖先らが、まだ西方と呼ばれる世界にいた時代。

 その時代、彼ら、そして彼女らは地獄にいた。

 弱肉強食、それが勝利の女神ウルドが示した世界の唯一の摂理だった時代。

 その摂理は力ある種には自由と繁栄とをもたらした。

 だが力なき種にとっては、女神に見放されたも同じだった。


 力ある者は力なき者を支配し、略奪し、陵辱し、殺戮した。

 力ある種族は、ダース族。闇を取り込み、その力とする事に成功した種族である。

 始まりの5種族の中で、最強で最凶とされる、祝福と呪いを受けた残忍な種族。


 女しかいない非力な種族、インムはダース族の玩具も同然だった。


 インムであるリリーヌとエルは荷馬車で旅をする。戦乱の続く北部から、まだ秩序なるものが幾分か残っている南部へと。

 リリーヌはまだ若いが美しいインムだった。あどけなさが残る口元に反して、大人びた瞳と美しい紫ピンクの髪、色気を漂わし始めた幼さの残る体つき。エルは淡い水色の髪を持つインム、まだ幼く、リリーヌに寄りすがって寝ている。幼いエルにとってこの無慈悲な世界は過酷すぎ、リリーヌ以外にはほとんど口を開かなくなってしまった。

 エルには、セリナという姉がいた。エルと同じ、淡い水色の髪を持つ美しく賢いインムだった。


 力の弱いインム達が、弱肉強食のこの世界で生き残るには、強い男の庇護にすがるしかない。

 セリナは、この地獄の世界の中で、その体を実力者の男に差し出すことで、まだ幼い妹エルと、その友人であるリリーヌを守ってきたのだった。


 セリナの前の主人はダース族にしては温厚な男だったが、より強いダース族の男に敗れるのは早かった。

 新しい主人は、強いがとても残忍で有名な男だった。特に、幼い娘に暴行をふるうのを好むと言われている。


 セリナは従順に仕えるふりをして、妹とその親友を逃した。


「南に行きなさい。そこで、落ち合いましょう。私も遅れて行くわ。妹を……エルをよろしくね」


 微笑んで、そう言ってくれたセリナ。彼女の妹であり、リリーヌの親友でもあったエルはまだ幼い。新しい主人はエルにも手を出してくるだろう。エルの幼い体ではまだ耐えられまい。


 インムと気付かれない様に、二人は荷馬車の端に寄り添い、全身を布をおおっている。

 彼女達インムの敵はダース族の男だけではない、人間の男も危険だし、異種族の女達も、インムと知れば何をしてくるかわからない。他の乗客は、人間の男達と女達だ。


 リリーヌとエルの前には、人間の剣士風の男が座っている。黙して語らず、深いフードとマントに身を包み、目を閉じて黙り込んでいる。どうやら自分たちインムにも、興味が無い様だ。


 みな、戦乱を避けるため、南に向かっているのだろう。

 無事、南に抜けられると良いが……


 突然、馬がいななき声を発し、馬車が止まる。

 人間達が、何事かと問おうと御者の方を見る。だが、御者の首から上は既になかった。


 馬車の左手側に転がっていると思われる、御者であった人間の首を探す余裕は誰にも無かった。

 人間達の視線は、その反対側の、右側の丘に注がれる。


「あ、あれは……だ、ダース族の盗賊……ど……髑髏の団だ……」


 髑髏の団?リリーヌははっとする。

 残忍さでは最悪とされる、ダース族の盗賊ではないか。

 最近、北方の戦乱に乗じて、あらゆる残虐行為を働いているとされる。

 ……まさか、最悪の相手に出会ってしまった。


「ヒャッハー!!!人間のオスが3匹、メスが2匹……奥にいるのはインムのメスが2匹、こいつは最高だぜ!!!」


 普通の人間の2倍はある巨躯のダース族の男が、首から上がない御者を蹴り飛ばし、馬車に乗り込んで来た。残忍そうな笑みを浮かべている。まずい、インムだとバレている。


「人間の男は奴隷として売り飛ばし、女は味見した上で売り飛ばし、インムは全員で死ぬほど犯した上で、さらに犯す。インムは売るにはもったいないほどの上玉だな~たまんねえぜ!」


「待ってくれ、俺たちは罪を犯した奴隷じゃない、自由民だ!勝手に売り飛ばすなど、ルール神の加護に反する!」


 人間の男が反論する。勇気ある人だ、と思った。

 ダース族の男が手刀を繰り出す。反論した人間の男の首が飛ぶ。


「ルール神?へっへっへ。そんな奴いたっけ?確か約束破りに666の印を付けてくるありがてぇ神だったな~俺たち全員に印は既に付いているけどな。見えね~のかな??あっ、そうか。首が無きゃ見れないわな~」


 そう言って、転がっている人間の首を拾い上げ、その目を自分の額に向けながら……


「ほ~ら、666のシ・ル・シ!よく見るだろ~ヒャッハー!」


 ルールの神は、約束を厳守させようと、違反者に666の刻印をすると言われている。だがそれに一定の力があったのは、秩序がある程度保たれていた世界においてのみであり、秩序が完全に崩壊した世界においては何の価値もなく、ただの盗賊の証明書になっていた。


「さあ~て、他の連中は、わかったかな。こいつみたいに首だけになりたくなきゃ、自分たちが奴隷以下の家畜に過ぎないと理解するんだな」


 人間達は完全に戦意を喪失したみたいで、絶望の表情だ。目の前の剣士風の男は、まだうつむいて無言で座っている。


「と・く・に!そこのインムのメス2匹、お前らは毎晩死ぬほど犯し尽くしてやるぜ、前のインムはすぐ死んじまったからな~ヒャッハー!久々のインムだ!楽しみ~!!」


 リリーヌはダース族の盗賊と目が合い、心の底から恐怖心を感じる。

 まさか……粗暴なダース族の男から逃げる途中で、さらに残酷なダース族の盗賊にさらわれるとは……

 何のためにセリナはその体をはって、自分たちを逃がしてくれたんだろう。

 特にエナは、この男達にされることに、とても耐えられないだろう。


「ま、待って下さい……私は……私はどうなってもかまいませんから……この子だけは……エナちゃんだけは、見逃してあげてください。まだ子供ですから」


 リリーヌは涙を浮かべながら、それだけを懇願する。

 前はセリナが自分たちを逃がそうと身を差し出した。その前は自分の母親が、リリーヌやセリナを助けるために同様の事を言った。今度は、自分の番だ。結局、自分たちインムは、そうしなければ種を存続できない卑屈で弱い種族に過ぎない。


「だははっは!いいね!いいね!インム狩りはこれだから止められない!おし、お前の目の前で、そのエルとか言う娘を、一日中犯し続けてやるぜ!」


「そ、そんな!私が代わりにどんな目にだってあいますから、この娘だけは……」


 逆効果だったらしい。この髑髏の団の男達には、慈悲の心は微塵も無い。隙を見せたら最後、死ぬまで搾り取られる。最悪の相手だ。


「お願いします。なんでも……どんなことでもしますから……この娘だけは……」


「……リリーヌおねえちゃん……ぐず……怖いよう……」


 エルはリリーヌの背中にうずくまり、涙を流している。これからどんな事をされるのか、子供ながらにおぼろけながらに理解しているみたいだ。


 リリーヌはダーズ族の男の説得が不可能だと悟った。

 もう、助けになりそうな者なら、何でもいい。先ほどから沈黙を守っている剣士風の男にすがりつく。


「お願いです。剣士様。助けて……私のことなら、どうなってもいいですから、助けてください!」


 この剣士がダース族の一団相手に、どれだけの事ができるとは思わなかったが、何でもいい。ワラにもすがる気持ちだった。


ーーお前は、戦わないのか?ーー


 男が発した言葉は意外なものだった。ダース族どころか人間よりも戦闘力において遥かに劣るインムに、どうやって戦えと言うのだろう?


「私たちインムが、戦ったりはできません。お願いです、私のことは後で好きにしてもいいですから……」


ーー何故、戦わない?ーー


 リリーヌの懇願を無視し、男からの質問が続く。

 なぜ?戦う力が無いからに、決まっているだろうに。


「なぜ……って、インムは……強い男性に守ってもらうしかない……非力で……卑屈で弱い種族ですから……」


 惨めな自分たちインムがおかれた境遇を、改めて言葉にすると悲しくて、涙がでてくる。


ーー違うな、非力で、卑屈なのは、お前の心だ。インムと言う種ではないーー


 男から発せられた言葉が、稲妻の様にリリーヌの心に響く。


「……だって、戦い方も、戦う力も、私たちには無いんですから……」


ーーならば戦い方を教えてやろう。戦う力を、貸してやろう。それならば、戦うか?ーー


 自分にすがりつくエルをちらりと見ながら、リリーヌは答える。

 そうだ、こんなダース族に死ぬまで乱暴されるくらいなら、いっそ戦って死にたい。ならば、あの世で母やセリヌにも顔見せできるはずだ。


「は、はい。戦います。戦いますから!」


 その言葉を待っていたかの様に、男が立ち上がる。

 全身を覆うマントのせいで、顔姿は見えないが、人間としてはかなりの長身だ。

 右手に不思議な剣を握っている。

 今更ながらに気付いたが、その剣は、あまりに大きく、両手剣の域さえ超えている。人間が扱える代物ではない。そしてその刃は、白銀色に輝いていた。その色があまりに綺麗だったので、置かれていた状況を一瞬忘れ、エルと共に見とれてしまった。


「ん?なんだ貴様!反抗的な目だな。そのばかでかい剣で、俺様とやり合おうってのか?そんな重そうな剣で??こいつは傑作だ。ヒャッハ……」


 ダース族の男がいつもの下品な笑いをしようとしたと同時に、その首が飛ぶ。

 剣士が、信じられない剣速で剣を振るったのだ。先ほどのダース族の男の手刀より、数段早く、そして重い。

 首を飛ばしただけでなく、衝撃で体までバラバラになる。

 先ほどまで、恐怖の対象であった存在は、あっという間にただの肉の塊になった。


「ひい……あんた何て事を!俺たちは、奴隷としてなら助かったってのに、何て事を!」


 人間の男が卑屈そうに叫ぶ。もはや声が裏返っている。

 そうだ、敵はこの馬車に乗り込んで来たダース族の男だけではない。外には、数百人のダース族の盗賊達が控えているのだ。人間の男は、その復讐を恐れているのだ。


 異変に気付いた盗賊達が、馬車に向かって駆け寄ってくる。重武装の5人……投降を呼びかけた最初の男が殺されたのだ。今度は、こちらを皆殺しにする気だろう。


「……邪魔だ」


 剣士が剣を振るうと、衝撃と共に5人の盗賊の男が肉片になる。5人とも鎧を着込んでいたが、紙の様に切り裂いてしまった。

 驚く事に、この剣士の一撃に、鎧の防御は全く効かない様だ。


 信じれれない強さ……助かるかもしれない。この男と共に行動すれば、ここから抜け出せるかもしれない。リリーヌが僅かな希望を抱いた矢先……


ーー暗黒魔法デカダンスーー


 丘の上にいるダース族の盗賊達が、暗黒魔法を唱えて来た。ダース族のみが扱える暗黒魔法。

 暗黒魔法、それは他の魔法とは異なる、純粋な負の破壊エネルギーをそのまま打ち出しす魔法である。炎魔法なら水に潜れば助かるかもしれない、吹雪魔法なら着込めばダメージは減らせるだろう。だが純粋な負の破壊エネルギーは防ぐ手だてが無く、そしてその威力は、他の魔法とは比較にならない。ダース族は従わぬなら馬車ごと破壊するつもりだ。


 死ぬ……ここで死ぬのか……結局自分は、何もできなかった……


 リリーヌはエルを抱きしめ、覚悟を決める。


 剣士が、大剣で大きく空を斬る。

 空気を斬って、どうするつもりだろう?と思ったが、切れたのは空気ではなかった。空間が切れたのである。


 切り口から、一瞬だけ異空間が出現する。

 黒と紫色の絵具が混ざり合った様な、禍々しい異世界が顔をだす。ダース族の唱えた暗黒魔法は、すべてその異空間に吸い込まれて行ってしまった。


 信じられない……あの光輝く剣、いったい何なのだろう?


 リリーヌは知る由もなかったが、その剣こそは、隔離剣レーヴァテインである。

 女神ベルダンティが、自らの使徒に与えた最強の神剣、人も魔も、神々でさえ、いかなる物も空間ごと切り裂く隔離剣。

 その神剣を使いこなす剣士の男こそ、女神ベルダンティの使徒、最強の神剣を扱い最強の職業を持つ、後に英雄公クロスと呼ばれるようになる男だった。


 見るとダース族の盗賊たちが悲鳴をあげている。盗賊とは別の一団に襲われているらしい。盗賊達が放った必勝の暗黒魔法を剣士に打ち消されて、驚いている最中に奇襲された様だ。

 戦っている一団、あれは……獣人族だ。

 先頭で戦うひときわ大きく半獣顔の男は狼人族。猫人の女達も戦っている。人間も何人か、混ざっている様だ。

 信じられない事に、後方から弓を射かけているのはエルフ族の様だ。それも多数……


 別の一団が側面からその戦闘を援護する。一団は地形を巧みに利用しながら、見たことがない機械の弓で矢を射かけている。あの一団を構成しているのは……その正体に気付き、リリーヌは驚愕した。あれは間違いなく同胞——つまりインムの女達である。

 戦っている……非力で卑屈なはずのインムの同胞達が、自分たちの未来のために、自分たちの命をかけて……最強のはずのダース族を相手に。

 その姿に、その勇壮さに、自分と違う気高さに……涙があふれてきた。


「……私も戦いたい、です」


 リリーヌは今度は心から、そう言った。

悪役といえば「ヒャッハー」ですね。

次は本日午後3時に投稿します。


タイトルは『隔離の勇者クロス』


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