美魔女と声優と柑橘系
「……わかりました。これが『魔女』のステータスとなります」
【美魔女】
年齢を感じさせない若さを感じさせる女性(闇属性)
暗黒魔法を使える。
【永遠の35歳】
永遠に35歳の肉体を保てる。
「魔女……じゃない!これ【美魔女】じゃない!!」
テレビで特集されている、年齢を感じさせない女性の事だ。
「まあ~なんといいますか、これも魔女の一種なので~肉体年齢は35歳で固定となります。千代子さんの場合は、実年齢が17歳ですから、35歳マイナス222ヶ月となります。もちろん、肉体年齢は35歳のままですが……」
「さっ……35歳、の肉体年齢??」
まだ17歳の千代子にとっては未知の年齢域である。
35歳の自分……あんまり想像したくない。
「まあ『奥様、お若いですわ~どうみても20代に見えますわ~』と言われる35歳ですけどね?」
「……20代に見えるなら……35歳でも……」
「お世辞ですけどね~♩」
「お世辞かい!!」
「まあ、お綺麗な35歳なのは確かですよ。あと、巨乳さんです」
「きっ、巨乳とか、どってでもいいわよ!」
興味無さげにプイと横を向く千代子。
(そっか、私、35歳になると巨乳になっているんだ……という事は、まだまだ胸は大きくなるはず……)
「う~ん、35歳のチョコちゃんか……見てみたいような……?」
「……檸檬は、あんまり見たくないな~」
双子は勝手に意見を言ってる。あんたたちの意見は聞いてない。
「……普通の魔法使いとかにはなれないの?」
「なれなくはないんですけど、大分と弱体化しますし、何より……」
「何より……・?」
「ステキステッキであるワタクシがお役御免となってしまいますので……」
「それはむしろ望むところよ!!」
千代子はステッキを力一杯踏んづける。
どうしよう、15歳のフリフリ魔法少女と、35歳の美魔女……微妙だ、微妙すぎる。
「……蜜柑と檸檬、アンタ達の職業は?前衛職と回復職って約束だったわよね?」
「え?」
「そ……そりは……」
双子は明らかに狼狽している。何か隠している。
「二人の職業を言いなさい!アンタ達が戦力になるなら、私も魔法少女じゃなくて普通の魔法使いになれるから!」
「檸檬はどんな職業?檸檬から先にどうぞ」
「蜜柑こそどんな職業?お姉さんの蜜柑こそ先にどうぞ」
『どうぞどうぞ』
二人は譲り合っている。あからさまにおかしい。
「檸檬、あなたから言いなさい。たしか回復職だったわよね?ちゃんとチュートリアルで回復職を選んだの?」
「え……えっとね。檸檬の職業は……せ……」
「せ?……何よ。はっきりしなさい!」
「せっ、『声優』さん」
「……?」
「だってだって、異世界で何でも好きな職業になれるって聞いて、声優さんになりたかったんだもん」
「お〜檸檬、ずるい。蜜柑もそうすりゃよかった〜」
【声優】
無機物に命を吹き込む異世界の死霊使の一種、別名「中の人」と呼ばれる。
【七色の声色】
どんな人間の声も、完全に再現できる。
せ、声優さん?
わざわざファンタジーの異世界で、声優さんを選ぶとは……予想外だった。
「『チョコちゃんは魔法少女で〜す。もりもり〜』、どう?にてるっしょ??」
檸檬は千代子そっくりの声を出している。
これがスキル『七色の声色』
戦闘能力は……今のところ皆無。
そうだ、こういう不真面目な双子だったのだ。
ということは、もう片方も……
「蜜柑、あなたの職業を教えなさい」
「え……しょ……職業って、名前の横にあるヤツだよね?」
「そうよ」
「うう……」
「早く言いなさい!」
「か、『柑橘系』って、何ぞ?」
柑橘系??
「なによその職業!あんた渡されたタブレットに何て書いたの?」
「うう……どうも名前だと思って職業欄に『蜜柑』って書いちゃったみたいで……」
職業欄に間違えて『蜜柑』と書いた?それで……職業が『柑橘系』??
千代子はめまいがして、倒れそうになった。どうすんの?ウチのパーティの前衛は?
さすがに後衛職の魔法少女だけでは厳しい。
『声優』が戦力外である事は言うまでもない。
「あ?あれ!チョコちゃん、あれも敵じゃない?」
蜜柑が指差した方向に、ゴム風船みたいなモンスターが4体、こちらに向かって近づいてくる。
「もう、さっさと倒すから……『きらきら……ばるばろっさ☆アターック!』」
再び荒れ狂う電撃(戦)魔法、ゴム風船のモンスターはゴムの塊に……ならなかった。
「ちょっと?どういうこと??」
「バルーンはゴム風船のモンスターですからね。電撃(戦)魔法は効果無いですよ、千代子さん」
「ちょっと、他に魔法はないの?」
「今の千代子さんのレベルでは、特別魔法は一日に2回まででMPは0になります」
「どうすんのよ?檸檬、声優だかなんだか知らないけど戦いなさい!」
「むちゃ言いますな〜檸檬は戦闘とか絶対に無理!『声優さん』は戦えませんがな」
「じゃあ蜜柑、あなたが戦いなさい!」
「うう、職業『柑橘系』にどうやって戦えと?」
ダメだ、まるで役に立たない。このままではバルーンにやられてしまう。
『グルアアアアアアアァァー』
突然、大きな影が、魔物達の群れの中心に飛び込んだ。
別の魔物?巨大な狛犬の様な魔物だ。
狛犬は瞬く間にその爪と牙で、バルーン達を一掃してしまった。
こちらを向き、ゆっくりと近づいてくる。
——ヤバい、やられる——
こいつの強さはバルーンの比ではない。千代子は死を覚悟する。
「ぐるるるるるるるうう」
だが狛犬は、蜜柑と檸檬の側で、嬉しそうに喉を鳴らしている。
「……?おまいランか?」
「え?まさか、ラン??」
「ラン?アンタ達のペットの?」
「おおおお!ランじゃないか。立派になって!」
「アレだよね、アレ。蜜柑達を追って異世界に来て、苦労して強くなったというアレな展開っしょ?」
「おお!そういう展開だったのか!アレな力が働いたんだな?」
蜜柑と檸檬が「アレアレ」言いながら狛犬に抱きついている。どうも外見は大きく変わっているが、双子達の愛犬のランらしい。
そもそも「アレな力」って何よ?どうせテキトーなんでしょ?
「まあアレな力というのもあながち間違いではありませんな〜」
ステッキが飛び回りながら、話しかけてくる。
「ちょっとあんた、どういう事よ?説明しなしさい!」
「一言でいうと『お供アニマル』です。魔法少女には付きものでしょう?アレな力=魔力、によって、ずいぶんと強化されてるみたいですね。これなら魔法少女の護衛にもってこいです」
「……つまり私が魔法少女になったから、ランが『お供アニマル』として召喚されたと?」
「そうです。ですから千代子さんが『魔法少女』をやめたら、『お供アニマル』のランは魔力切れで強制送還となってしまいます」
「ええ〜!!チョコちゃん魔法少女やめないよね?」
「そうだよそうだよ、せっかく異世界でもランとと一緒になれたのに……魔法少女、とってもチョコちゃんにお似合いだと思うな」
「そうそう、いじってごめんね〜。蜜柑達、いいこにしているからさ〜魔法少女やめないでね」
双子達は手のひらを返し、瞳を潤わせながら千代子が魔法少女でい続ける様にお願いしてくる。
まるでペットを飼う許しを母親に求める子供の様に。
「わ、わかったわよ。今回だけは特別に許してあげるわ」
千代子は結構この双子の懇願に弱かったりする。
まあランが強いのは確かだし、前衛として活躍してくれるはずだ。
「うっしっし、これでランと一緒ですな〜チョコちゃんちょろいですな〜」
「しかもチョコちゃんのイタい姿見放題。やりましたな〜」
「そこの役立たずの双子!聞こえてるわよ!だから、密談はもう少し小さい声でしなさい!!」
魔法少女とお供アニマルとステキ♡ステッキ、そして声優と柑橘系……
主戦力がお供アニマルという奇妙なパーティではあるが、一応パーティが成立した。
苦労人、佐藤千代子の旅が始まる。カナタを葬るその日まで。
色々残念なパーティができてしまいました。
本来ならカナタの姉の林檎(27)を「魔法少女」にする予定でしたが、「誰得?」と思ったので、千代子というヒロインを登場させました。
次回は300年前の東遷戦争のお話です。
若かりし頃のリリーヌとクロスのお話です。
明日昼12時に掲載予定です。




