魔法少女、見参!
ファンタジー世界の異世界で、太郎お兄さんを探し、そして、ぶち殺して強制送還。
この世界で千代子のやるべき使命は決まった。
そうと決まれば情報収集だ。メルルさんに、太郎お兄さんがどんなジョブに就いていて、どんな力を持っているのかを聞く。
「え~、カナタ君の職業?なんかよくわからない特別職みたいだね。でもすっごく強いみたいだよ。一人で強力な魔人を倒したり、妖魔の大群を灼熱魔法で蒸発させたり、武勇伝には事欠かないね」
「魔人を?!ひとりで??」
「灼熱魔法で大群を蒸発?!」
「兄ちゃんすご~い」
「……ゲームは上手いと思っていたけど、まさかそれほどまでとは……」
……だが、いかに強いとはいえ倫理的にやっていい事と悪い事がある。
未成年の女の子達を……許される事ではない。
「……そんなに強いなら、お兄さんがいる歓楽都市エウロパに行く前に、私たちもレベルアップしないと辛そうね。こっちが強制送還されてしまうわ」
千代子達は街の外にでる。RPGなら、最初の町には弱いモンスターが徘徊しているはずだ。
あらかじめ決めていた役割分担は、千代子は魔法使い職業に、蜜柑は前衛、檸檬は僧侶に就くいうものだ。
「蜜柑、檸檬、ステータス画面の確認を!私も確認するわ」
佐藤千代子
【職業】魔法少女(特別職)
15歳までの学生少女から魔法の素養をもつ少女を選び出した選抜学徒兵
コスチュームに変身することによって、一般の魔法使いより強い魔力を持つ。少女らしくない振る舞いをすると力を失う
【永遠の15歳】
魔法少女は15歳までで、それ以上年を取らない
【変身】
変身し、コスチュームに着替える事で戦闘能力大幅UP。変身中には無敵状態となり、あらゆる攻撃を遮断する
「……何これ?魔法使い……じゃなくて、魔法少女?」
確かに魔法は使えるが……15歳、私、もう17歳になったんだけど……
「それはワタクシが説明しましょう」
悩む千代子の前に出現したのは、全長1メートル程度の無骨なステッキだった。
先がマッチの様に丸く膨らんでいる。そのふくらみの付け根あたりから、ファンタジーっぽい羽が生えている。
驚く事に空中に浮かび、話しかけてくる。
「ちょ、っちょっと、アンタ何者よ!」
「ワタクシはマジカル・パンツアーファウスト、魔法少女のステッキから、対戦車戦闘までこなすステキ♡ステッキです」
何がステキ♡ステッキなんだか……?
よく見ると、ステッキのくせにぐねぐね曲がり、千代子の周りを飛び回っている。キモい。
「いやん♡そんな目で見つめないで……いわゆる魔法少女のステッキ&お供です。元は対戦車用携帯火器ですから対戦車戦闘も得意ですよ。もうTシリーズも怖くない」
パンツアーファウストは聞いた事が有る。カナタから借りた戦争ゲームの中に、そんな武器があったはずだ。
確か、第二次大戦中にドイツ軍が開発した対戦車兵器だったか?Tシリーズは、旧ソ連の戦車の事か。
「そう、さすがはわが主、さすがは隠れ軍事マニアなだけある」
「だれが軍事マニアよ!」
「ほうほう」
「さすが異世界、変な生き物がいますな~」
蜜柑と檸檬が覗き込んできた。
「本来なら先任の魔法少女や上官が新米の魔法少女を先導するのですが、あいにくこの世界には他に魔法少女という特別職に就いている存在がいないので、ワタクシが魔法のステッキと解説キャラを兼任させていただきます」
「ねえねえ、パンツファストさん、チョコ姉ちゃんは魔法少女なの?」
パンツファストじゃなくて、パンツアーファウストだろうに……
「パンツファストじゃなくて、パンツアーファウストです。パンツキャラなのは、魔法少女である千代子さんのほうですよ」
「ちょっ、それってどういうことよ!」
魔法少女……パンツキャラ……まずい、嫌な予感がする。
「これはwwwwwwチョコちゃんがパンツキャラwwwwww」
「盛り上がってまいりましたな!!!!!蜜柑!」
千代子がパンツキャラと聞いてテンションが上がる双子。
「変身してもらえばわかりますよ、みなさん……おや、丁度あそこに敵キャラが……?」
パンツアーファウストの腰(?)がぐいっと曲がり、しっぽで敵を指差す。
コブリンとおぼしきモンスターが4体、こちらを取り囲んでいる。
「さあさあ、千代子さん。変身ですよ、ヘ・ン・シ・ン!」
「へ……変身って言われても……ど、どうすればいいの?」
「簡単です。『ふりふり、あげあげ、もりもり、千代子ちゃんメイキングUP』と叫ぶんです。笑顔とポーズも忘れてはなりません」
マジ……?かなり恥ずかしいんですけど……ふりふり……?
「ほうほう」
「これは恥ずかしいwwwwww中学生の蜜柑たちでも無理wwwwww」
双子は人ごとだと思って言いたい放題だ。
そうこうしているうちに、モンスター達にすっかり包囲されてしまった。
「千代子さ~ん、早く変身しないと~」
「そうそう。早く変身しなきゃ~、ふりふり~」
「チョコちゃんの、カッコいいとこ見てみたい!あげあげ~」
『もりもり~♩』
双子は盛り上がっている。くそう、あとでとっちめてやる!
「さあさあ、早く変身しないと本当に全滅しちゃいますよ。魔法少女は変身してなんぼですからね。変身には10秒ほどかかりますが、その間は絶対無敵なので、安心して変身しちゃってくださ~い」
そんな心配はしていないんだけど……
コブリンはこちらを伺いながらゆっくり近づいてくる。
「……ふ……ふりふり……あげあげ……もり……もり……」
「声が小さい!」
「チョコちゃん、きこえな~い」
「もりもり~♩」
あ~!!なんで私がこんな目に……もうヤケだ。全て太郎お兄さんが悪いんだ!!
「ふりふり!あげあげ!もりもり!千代子ちゃんメイキングUP!!」
ヤケになってポーズをとり、笑顔でさけぶ千代子。叫ぶと同時に、不思議な光が千代子を取り囲む。
今まで着ていた服は粒子となって砕け散り、胸元に大きなリボンが付いたカラフルな制服の様な服に着替える。
下は白のニーソックスに、激ミニのフリルがついたスカートだ。
同時に、何となくだが胸が一回り小さくなった気がする。
変身時間は約10秒……体験してわかったが、意外に長い。恥ずかしい時間は、特に長く感じる。
「魔法少女マジカルチョコ、見参!」
なぜかドヤ顔でポーズをとらされていた。
「ぷっーーーーwwwww」
「チョコちゃん可愛いwww高校生にもなって、魔法少女プレイwwwww」
双子は笑いこけている。神様、この二人を殺して、私も死にたいです、千代子は心からそう思った。
「さあ、千代子さん。あの雑魚モンスター共を、掃討しちゃってください!」
「……攻撃って、どうやって戦うのよ?」
「ワタクシに魔力を込めれば、攻撃魔法が発動します」
「魔力って、どうやってこめるのよ!」
日本から来た千代子が、そんな方法知る訳が無い。
「魔法少女ならみんなその場のノリでできますよ!特に修行とかいらないのが、魔法少女の強みです!」
ステッキのいっている事は無茶苦茶だ。
とりあえず、魔力?なる物を込めてみる。
「おお~と、敵が近いです。千代子さん、飛んで避けて下さい!」
飛ぶ?ジャンプしろってこと?
言われるがままに、千代子はジャンプする。体が軽い。
驚く事に、千代子の体は5メートル近く飛び上がり、そのまま空中にて固定されてしまった。落ちない。
「……飛ん……でる?」
背中に違和感があったのでみてみると、可愛らしい羽が背中から生えている。
「魔法少女ですからね、空くらい飛べますよ。1分くらいが限度ですけどね~。とにかく、これで邪魔は入りません。魔力を集中して敵を攻撃です」
「……わかったわ。で、どうすればいいの?」
「そうですね。呪文でも唱えてみましょうか?これなら、初心者の千代子さんでも使えるはずです。今から唱える呪文を復唱してください」
呪文か……確かに魔法使いっぽい。
「ではいきますよ~キラキラ☆バルバロッサ★アターック♡」
「……きらきら……ばるばろっさ☆アターック」
「バルバロッサ」……、イタリア語で「赤ヒゲ」を意味し、転じて神聖ローマ帝国皇帝の名を意味するが、最も有名なのは独ソ戦のドイツ側の電撃戦の作戦名である。
属性は――当然のごとく、電撃属性の攻撃魔法だ。
スッテキの先から凄まじい電撃魔法が荒れ狂い、コブリン達はレントゲンの骨写真になったかと思うと、マンガ肉の塊になった。
「わ~お」
「チョコちゃんすご~い」
双子は驚きの歓声をあげている。ど、どんなもんだい。
魔法少女……無駄に恥ずかしいだけの存在でなくてよかった。
「でも、パンツ、丸見え!」
「フリフリパンツきゃわい~い」
しまった。このミニスカートで、空なんて飛んでいるものなら、下からは丸見えだった。
千代子は赤面しながら地面に降りる。このスカート、短かすぎだ。
フリフリの衣装に、背中から生えた羽、そして右手にパンツアーファウスト……どうみても異様でイタい少女だった。
「いやいや、魔法少女、素晴らしいですな~きゃわゆいですな~」
「……魔法少女って、パンチラを防げないの?アニメによっては、絶対に見えないのもあるでしょう?」
ついついマニアックな質問をしてしまう。
「いい質問ですね〜あれはスキル【絶対領域】というスキル持ちなんです。千代子さんも覚えればパンチラは防げますよ」
スキル『絶対領域』、絶対に手に入れてやる。
「変身中も、ほとんど裸だったよ~」
「は……裸?ちょっと、何でよ!」
「そりゃあ魔法少女の変身シーンでは、脱ぐのが当然かと……いや~眼福眼福♡」
「眼福!じゃない!!」
ステッキの首(?)を締める。
ステッキは苦しいのか、バタバタともがいている。
「は、裸って、どのくらいの裸?アニメみたいに光バリアーとかあるわよね?シルエットだけよね?」
「光バリアー?えっとね、無かったよ」
「うん、わりと丸見えだったよ。チョコちゃんの○○○ってピンク色なんだね」
「ちょっと!何で丸見えなのよ!せめてシルエットだけにしなさいよ!!」
真っ赤になってステッキに詰め寄る千代子。
「いや~【光バリアー】はありますけど、これもスキル扱いでして、レベル1の千代子さんでは使えません。まあワタクシ達以外には誰もいませんし、問題ないでしょう」
「問題あるわよ!家の外で裸って、一生物のトラウマだわ」
「でもでも、チョコちゃん胸ちっさかったよ」
「そうそう、檸檬達と変わんないくらい」
な、何ですって?
さすがにそれは無いはず。最近成長期で、胸もそこそこの大きさになったはずだ。
しかしここ数年で一回り大きくなったはずの胸は、再び小さくなってしまった。気のせいか、背も小さくなっている気がする。
2~3年前の体に戻った感じだ。
「それは魔法少女のスキル【永遠の15歳】の恩恵で、今の千代子さんの肉体年齢は15歳となっています」
「え?なんでよ??」
「まあ何と言いますか、17歳にもなって、『魔法少女マジカルチョコ、見参!』とか言っていたら、イタいじゃないですか」
「確かに痛いよね~15歳でも痛いと思うけど……」
「イタい♩イタい♩」
双子ははしゃいでいる。
それで、肉体年齢が15歳に戻ったのか。
「正確には千代子さんの年齢は、15歳プラス30ヶ月となります。これでどんな恥ずかしいプレイも、しほうだいですよ」
「いやよ!もうごめんだわ」
「そうですか?せっかく恥ずかしいのはこれからなのに……」
これから……なのか?
もう元の世界に帰ってしまいたい……でも……千代子の脳裏に未成年の女の子を奴隷化しているカナタの姿が思い浮かぶ。
あの変態お兄さんめ、きっと首輪をはめたり酷い事しているに違いない。
「まあ、どうしても魔法少女がお嫌いなら、『魔女』って職業に転職できますよ。こっちは大人の女性の職業なので、フリフリじゃないですよ」
「魔女?いいわ。そっちの方が、少なくとも魔法少女よりましだわ。そっちに転職するわ!」
「え~、せっかくのきゃわゆい魔法少女なのに、チョコちゃんもったいないよ~」
「そだよ。もりもり~」
「うるさいわね!!そんなに魔法少女がいいなら、アンタ達がなりなさい!」
「それは……ちょっと……」
「檸檬達、中学生にもなって、そんな恥ずかしい格好、できないし……」
「私は高校生なの!!とにかく、ステッキ、魔女とやらに転職させなさい!」
「……わかりました。これが『魔女』のステータスとなります」
書き込みの貯金が無くなったので、投稿が不定期となります。
「魔法少女」の変身言葉よくわからなかったので、かなりテキトーな変身言葉となります。
次は『魔女』についてです。