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異世界からの刺客

「チョコちゃ~ん、こんにちは!」


「チョコ姉、こんちは!」


「ちょっと~!蜜柑ミカン檸檬レモン、チョコチョコいうな!私の名前は千代子チヨコ


 カナタの妹である蜜柑ミカン檸檬レモンが、駅で出会った一人の女の子に声をかけている。

 女の子の名前は佐藤千代子、年は17歳、名門で知られる私立清爽女学院の制服を着ているが、スカートは短めだ。

 古風な名前に反して、ドイツ人の父親を持つためか、青い目に金髪。その髪を可愛らしくツインテールにまとめている。


「だって、佐藤さとう千代子ちよこって、まんまお菓子でしょう?」


「甘そうだよね~まさに名前スイーツ(笑)」


「うるさいわね~!名前が蜜柑ミカンのあんたに、言われたくないわ!」


 千代子は蜜柑ミカン檸檬レモン、そしてカナタの幼なじみである。


「……それはそうと、太郎お兄さんは、どうしているの?最近、姿をみないけど……?」


「ほうほう、兄ちゃんが気になりますか~?」


「チョコちゃん、あの兄ちゃんが好きなんて、かなりのゲテモノ好きだね~」


「そんなんじゃないわよ!ただちょっと、借りてたゲームを返したかっただけよ」

 

 金髪ツインテールをプンと振り回し、腕を組みながら視線をそらす。


「ねえねえ檸檬レモン、相談があるんだけど……」


「なんだい、蜜柑ミカン……ヒソヒソ」


「チョコ姉ちゃんはね、カナタ兄ちゃん(19)が結婚できる唯一の女の人なのかもしれないんだから、邪魔しちゃダメだよ。カナタ兄ちゃんを好きになってくれる女の人って、もう絶対に現れないからさ、応援してあげなきゃ」


 19歳にして生涯童貞を妹に心配される男、それが元の世界のカナタという男である。


「そうだね、応援しないとね。チョコちゃんがお義姉さんになれば、うちらも嬉しいしね」


「あの……本人ここにいるんですけど……丸聞こえなんですけど……で、お兄さんはどこなの?」


「それがね、兄ちゃん働いてるんだよ。住み込みでゲームをしているとかなんとか……」


「ゲームのデバッグのお仕事ね。へ~、面白そうなお仕事みつけたのね」


「ねえねえ檸檬レモン、ここは蜜柑ミカン檸檬レモンが愛のキューピーになるべきだと思うんだよね」


「おうおう、なんて兄思いの妹なんだ。なんて可愛い奴なんだ。おまいは」


「同じ顔だけどね~」


「双子だもんね~」


 愛のキューピーじゃなくて、キューピッドだろう、と千代子が思ったがもう突っ込む気にもならない。


「じゃあチョコちゃん。一緒に兄ちゃんの職場に行こう。兄ちゃん、喜ぶかもしんないしね」


「……そ、そう?まあゲームのデバッグのお仕事って、興味あるから、どうしてもって言うなら行ってあげてもいいわよ」


「チョコちゃんはツンデレですな~」


「そこがたまらんですな~、いよ!ビターチョコ」


「ツンデレいうな!ビーターチョコって何よ!」


 蜜柑ミカン檸檬レモン、そして千代子はカナタが書き残した連絡先を頼りに、仕事場へと向かった。



「えっと、カナタ君の友達……かな?」


 背が高く、程よく日焼けした、白衣を着た女の人が出迎えてくれた。


蜜柑ミカンだよ~」


檸檬レモンだね~」


「ちょっと、真面目に挨拶しなさい!私は佐藤千代子、こっちの二人は金沢かなざわ蜜柑ミカン檸檬レモン、金沢太郎さんの妹です」


「そっかそっか、私の名前は字瑠怒ウルド。カナタ君なら知っているわ。え~とね、カナタ君は、いまウチが開発したゲームのテストプレイ中だね」


 そういって字瑠怒ウルドさんは、機器に繋がれてベッドに横たわるカナタを指差す。


「……凄いゲームですね。途中で、意識が戻ったりはしないんですか?」


「完全に異世界に行ってしまうゲームだからね。こちらの世界に意識が戻ってくるのはずいぶん先になると思うよ。むこうで使命を達成するか、死んじゃったらこちらの世界に戻ってくるだろうけどね」


「随分先って、何時間後くらいですか?」


「さあ、どれくらい先になるだろうね。あっちの世界はこちらの世界より時間が経つのがとても早いから、向こうで何十年と過ごしても、こちらでは数ヶ月くらいになるんだけどね。特に今、彼は向こうの世界の使命に目覚め、重大な決心をしたみたいだから、戻ってくるのは随分先になると思うよ」


「数ヶ月!いくらなんでもそんなに寝たきりじゃ、戻ってきても体が弱り切ってます。社会復帰できるとは思えません!」


「心配しなくても兄ちゃんはニートだから、元から社会参加してないけどね」


「家でも寝ながらゲームだから、今と大して変わんないよね」


「向こうの世界の使命って何ですか?それは、何ヶ月もかけてしなければいけないほど大切な物だとは思えませんが……」


「……それは言えないけど、彼にとってはとても重要な物なのだと思うわ」

 

 不満げな表情のまま、千代子はカナタを見る。


「このゲーム、途中参加はできないんですか?」


「できるよ。あたしの使徒としての枠がまだ空いてるから、参加してみる?」


「貴女の使徒というのがよくわからないですが?それに、私たちは何ヶ月もゲームしっぱなしで戻れないというのは困りますし」


「使徒というのは使命を帯びた存在なんだけど……あたしには大した目的は無いから、自由にしていいわ。特別に、途中退場できる様にしておいてあげる。カナタ君を捕まえて、使命が大した使命じゃなけりゃ、説得して一緒に退場してくればいいしね」


 字瑠怒ウルドさんの言う事はもっともだ。向こうの世界では、時間のたちかたが非常に早いため、さっさっと元の世界に戻る様に説得して戻ってくれば良い。


「分かりました。私も、このゲームの世界に行きます。こっちの双子も一緒です」


「え!」


「ちょwwwww!」

 

 蜜柑ミカン檸檬レモンが慌ててる。何でうちらまで……といった表情だ。


「私一人じゃ寂しいでしょ!一緒にいくわよ!」


「え~!」


「でもでも檸檬レモン、結構おもしろそうじゃね~?」


「え~」


「それに檸檬レモン、兄ちゃんとチョコちゃんをくっつけるチャンスかもしれないし~」


「ほうほう……確かに……ゲームの世界なら、兄ちゃんかっこいいかもしれない」


「そうそう、他に取り柄が無いけど、ゲームの世界ならチョコちゃんもメロメロになっちゃうかもね」


「これは『チョコちゃんリアルねーちゃん化計画(仮)』の、記念すべき第一歩かもね」


「……あんた達、密談するならせめてもうちょっと小さい声でしなさいよ。まる聞こえよ!」


「わかったよ、字瑠怒ウルドねーちゃん。蜜柑ミカン檸檬レモンも、このゲームの世界に行ってみたいよ!」


「そう、分かった。では、佐藤千代子を私の使徒、蜜柑ミカン檸檬レモンをその眷属とするわ。職業は、チュートリアルで選ぶと良いわ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 機器をセットし、3人をフィフスガルドに転送する。

 ゲームの形式を装っているが、あくまで女神ベルダンティが開発した転送魔法の一種である。


「使徒として送り込むの、あの娘たちで、良かったんですか?」


 妖精がチュートリアルを終えて、姿をあらわす。妖精の名前はミルク。


「いいわ、あの娘たちで……少なくとも、スクルドの使徒に対しては、最強の存在たりえるわ。色々とズルをしているから、お灸が必要だしね」


「……スクルド様の使徒、カナタさんと、争わさせるおつもりですか?」


「さあ……それはあの娘たち次第よ。争うもよし、協力するもよし……面白くなってきたわ」


 最強の女神は、妖しく微笑んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こうして3人はフィフィスガルドに、女神ウルドの使徒とその眷属として召還された。

 召還先は、ファーの町。


「ここが異世界?」


「すごーい、ここが異世界なんだね。ファンタジーの世界っぽいね」


「とにかく太郎お兄さんをさがさなきゃ」


「チョコちゃん、あのギルドで聞いてみたらどうかな?」


「ゲームでの情報収集っていったら、ギルドだしね」


「そうね。あの女の人に聞いてみましょう。すみません、ちょっと教えてもらいたい事があるんですが……」


「おやおや、可愛らしい娘さん達だね。どうしたんだい?」


 メルルさんは3人に対して気さくに答える。


「おねーさん、カナタ兄ちゃん知らない?」


「知らない~?」


「ちょっと、カナタさんじゃなくて、本名は金沢太郎さんでしょ?」


「カナタ兄ちゃん……じゃああなた達はカナタ君の妹さんたちね。そっか~可愛らしい妹さんたちだね」


「カナタ」で通じたらしい。どうやらニックネームで登録したみたいだ。

私も、「太郎お兄さん」じゃなくて「カナタお兄さん」とよんだ方がいいのかな?


「自己紹介が遅れてごめんなさい。私の名前は、佐藤千代子。こちらはカナタお兄さんの妹で、蜜柑ミカン檸檬レモン


蜜柑ミカンだよ~」


檸檬レモンで~す」


「まあまあ礼儀正しい娘さんね。私はメルル、このギルドの女主人よ」


「それでカナタお兄さんは、どこで何をしているのかご存知ですか?噂では、何か使命があるとか……」


「カナタ君は、ロジーさん家でニーアちゃんと、ユリスちゃんの3人で一緒に暮らしていたんだけど……」


 ニーア、ユリス……?女性とおぼしき名前がでてきた。ちゃん付けで呼んでいる事からして、メルルさんより年下の女の人らしい。


「えっと、ニーアさんていうのは、カナタお兄さんとどういった関係なんですか?」


「カナタ君の奴隷だよ」


「!!」


 ど……奴隷ですって?!まさか、中世でファンタジーの世界だからといって、そんなアブノーマルな……そんな趣味があったなんて……


「……奴隷……」


「……わーお……兄ちゃん、いけないんだ……」


「ちょっと!どうしてそういう事になっているんですか?」


「どうしてって、ニーアちゃんを奴隷として買ったからだよ。あのときは色々と大変そうだったわね~」


……買った……女の子を……買った……奴隷として……買って……そして……一緒に暮らしている……


「なんで、そんな酷い事をしているんですか!?」


「酷いって言われても……確かにニーアちゃんにとっては酷い事件だったわね。ロジー爺さんも、病気で亡くなってしまったし……」


「どういう事?詳しく話して下さい」


 千代子は一抹の望みをかけ、メルルに話を聞いてみる。きっと何か、事情があってそうなったはずだ……


「え~とね、要約するとニーアちゃんのお爺さんが病気でね、入院代を稼ぐためにニーアちゃんは自分を奴隷商人に売ったんだよ。それをカナタ君が買い取ったんだよ」


 メルルの説明は確かに間違ってはいないが、要約しすぎであった。

 これが千代子に誤った解釈を、させてしまった。


「おじいさんが……病気の……女の子の……弱みにつけ込んで……ど……奴隷として……買った……」


 千代子の顔は怒りと恥ずかしさで、真っ赤である。


「……なんで……そのお金で……入院費を立て替えてあげればいいだけじゃない?!……弱みにつけ込んで奴隷に……ひ……酷すぎる……」


「ほうほう……兄ちゃんすみにおけないですな~」


「……うう、檸檬レモンには、ちょっと刺激が強すぎるかも……」


「……ど……奴隷って……その……エッチな行為も、含まれてるのですか……?」


 千代子は涙を浮かべながら、最後の望みをかけて、メルルに聞いてみる。

 そうだ、奴隷といっても、この世界では召使いのアルバイト的な感覚なのかもしれない。


「そりゃあ……まあ、ね。カナタ君もニーアちゃんも若いしね。いいわね、若人は~」


 何も良くない!千代子の最後の望みはあえなく打ち砕かれる。


「……ああ、でもニーアちゃんもちょっと気になる事があってね」


「……まだあるんですか?」


「最近、カナタ君が新しくインムの奴隷を買ったらしくてね。可愛らしい娘だったんだけど、インムが側にいるなんて、ニーアちゃんは気が気でないだろうね~」


「可愛らしいって、何歳くらいですか?」


「ん~幼く見えたから、あんたより年下かな~」


……私より年下……間違いなく未成年……二人目の奴隷……ふふふ……うふふふ……


「ねえねえメルルおねーちゃん、インムって、なんぞ?」


「え~とね、インムってのは、性的な事を得意とする種族でね、女性にとっては色々と大変な種族なんだよ……」


「あ~蜜柑ミカン、それ知ってる。インキュパスっていうんだよ、エッチな悪魔のことでしょう?」


「お~、エッチな悪魔も奴隷にしちゃったんだ~兄ちゃん、ゲ・ド・ウ(笑)」


「そして、ゼ・ツ・リ・ン(笑)」


……インキュパスって、男性の悪魔で、女性はサキュパスだったと思うけど、もはやそんな違いは千代子にとってどうでも良い……


「うふふ、ふふふふふ……異世界で、未成年の女の子の弱みに付け込んで……ど……奴隷化する……それも2人……だから……元の世界に戻りたくないと……??」


ーーこれが使命??異世界やりたいこと?


「で、兄ちゃんはいまどこにいるの?」


「……え~とね。アジェンダ商会の賓客として、歓楽都市エウロパで、酒池肉林の生活をしているって噂だよ。この前、大規模な使者と軍隊が訪れていたって、もっぱらの噂だからね」



<<<プチン>>>


 千代子の何かが音を立てて切れる。


蜜柑ミカン檸檬レモン……この世界で……死ねば、強制送還……ってあの字瑠怒ウルドさんは、言ってたわよね?」


「言ってたよ」


「言ってたね~」


 深呼吸をして、千代子は決意を述べる。


「カナタお兄さんを探し出して、ぶち殺すわよ!こんな世界で好き放題して、帰りたくないなんて、もう議論の余地はないわ。ぶち殺して元の世界に強制送還!異議は認めません!!」


「お……おう」


「い……イエス・サー」


(なんか、『チョコちゃんリアルねーちゃん化計画(仮)』既に失敗してなくね?)


(こんなにお怒り中のチョコちゃん、初めてみたかも……)


 異世界からの刺客が参上した。


読んでいただき、ありがとうございます。


三人目ヒロイン登場です。

もっと早く登場させれば良かったですね。


次回は「魔法少女、見参……?」です。



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