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自宅警備士、異世界へ ~ 救世主として異世界に召喚されたが、チートな勇者とかじゃなくて、ニートな自宅警備士だった~  作者: sinwa
第4章 誕生、共存の勇者

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インムの女王、リリーヌとの対談

 奥の玉座に腰掛ける絶世の美女。紫ピンクの美しい髪は腰まであり、優雅にウェーブがかっている。

 天女が着る様な清楚なローブを着崩し、惜しげも無く美しい肌を露出させている。


(ユリスに似ているな……)


 俺は直感的にそう思った。


「ようこそ、女神スクルドの使徒、カナタ・ロータスワンド殿。私がインムという種の長、リリーヌ・アジェンダ」


「……カナタだ。こんな砂漠の都市まで、何の用があって呼び出したんだ?」


「いきなり本題なんて、殿方はせっかちね。まあいいわ。女神スクルドの使徒であり、運命の御子であるあなたに、私たちインムの力になって欲しいの。同盟依頼、と言えばいいのかしら……」


 何が同盟依頼だ。チャームで籠絡ができないと分かるや、軍隊を派遣して脅迫、財力を見せつけてから、『力になって欲しい』だと?


「ふふ、軍隊を派遣したのは事実だけど、財力を見せつけた気は無いわ。元々、この世界の富の半分は、このエウロパに集まっているのよ……それに、私たちの関係はあくまで対等よ。『運命の御子』である貴方の力は、高く評価しているわ」


「どうして、そうまでして力を求めるんだ?」


「全てはインムと言う種の保全のためよ。インムの長である私には、同胞のために全てを行う義務と責任があるわ。セナ、評議会の方々をこちらに……」


「はい。リリーヌ様」


 セナは、6人の人間の男達を連れてきた。

 みな立派な身なりをしているが、目が虚ろで生気がない。頬を紅潮させながら、ぼんやりとリリーヌを見つめている。


「左からローラント王国蔵相フィリップス侯爵閣下、国防相リー閣下、参謀長グラント閣下、内相ピエール閣下、外相メッテルニヒ伯爵閣下様、そして執政マザラン公爵閣下となります。こちら6名が、ローラント王国最高評議会の全メンバーとなります」


「ローラント王国最高評議会?メンバー全員!?」


 ニーアが驚いて声をあげる。


「知っているのか?」


「はい。ローラント王国女王は若いため、事実上この6名で構成する評議会が政治を行っていると言われています」


「そうよ、物知りな猫人ね。これで、私たちがローラント王国を支配していると、信じてもらえたかしら?ローラントだけでなく、世界中に私たちの同胞が散らばり、要人を抑えているわ。この人間界を影で支配しているのは、私たちインムなのよ」


 くそう、また脅迫か。確かにこれだけのメンバーを抑えているのなら、軍くらい動かすのは簡単だろう。

 先ほどの軍隊といい、人間界はインムによって支配されている、どうも事実の様だ。


「女王リリーヌ、俺は、種族間の争いをやめさせたい。だから、インムを使って有力者を誘惑する様な事は、止めるべきだ。女達の嫉妬をかって、いたずらに闇を増やす行為は魔物を生み、人を狂わし、世界を壊す」


「そう、異なる種族の憎悪は『闇』を生み出す。だから私たちインムは、他の種族の男達を虜にし、身を守る必要があるのよ」


「そういう行為が、闇を生み出すんだろう?」


「違うわ。私たちは、あくまで自衛のために、なすべき事をなしているだけよ。貴方達は、なぜ男のインムがこの世界にいないか、考えた事があるかしら?」


 男のインムだと?

 確かに、この世界では見た事が無いが……インムは、女だけの種族なんじゃなかったのか?


「くすくす……あなた達男の嫉妬と業が、いかに深いか……そんな事も知らずに使徒になっていたの?」


 早くも勝ち誇った笑みを浮かべるリリーヌ。


「いいわ、教えてあげる。かつては、男のインムもこの世界にいたのよ。でも、異種族の男達の嫉妬を買い、『種絶の禁呪』によって種族ごと絶滅させられてしまった。同じく女のインムも異種族の女達の嫉妬を買い、絶滅の危機に瀕していた。そこで女のインム達は、力のある男に協力を求める事によって、自らの種族を守ったのよ。これがこの世界の歴史、全ては、あなた達男の嫉妬が始まりなのよ」


 なんだって?!

 衝撃の事実に、俺は言葉を失ってしまう。

 インムの女が悪いどころか、悪いのはインムの男を絶滅させた、男達……


「……この世界の男性達が過去に何をしようと、それでカナタさんが罪悪感を感じる必要はありません」


 ニーアが、言葉を失った俺に代わって答える。その言葉に、わずかながら救われた気がする。


「うふふ……主人をかばい、主人に尽くす、いい眷属ね」


 リリーヌは今度はニーアに顔を近づけ、話しかける。


「……貴女の眷属の指輪はどんな色なのかしら?私のは、こういう色よ」


 リリーヌは、左手の薬指の指輪を見せる。中央の宝石は、深い闇をたたえた紫色だ。


「!!なぜその指輪を持っているのですか?」


 リリーヌは、ニーアの問いかけを微笑んだだけで無視し、今度はユリスに話しかける。


「ユリス、こうして会うのはひさしぶりね、あなたも使徒の眷属となったのね」


「お母様……」


 ?お母様?だと、リリーヌはユリスの母親なのか?


「怪訝な顔をしているわね、運命の御子。正確には私はユリスの母親ではないわ。直系なのは確かだけど、おばあさんの、おばあさんに当たるのかしら……」


 なんだって?いくらインムが長生きだからといって、そこまで長生きできるはずが……


「眷属は、使徒が死なない限り生きることができる。私も猫人やユリスと同じ、ある使徒の眷属だったのよ。名前くらいは知っているでしょう、隔離の勇者、英雄公クロス」


 英雄公クロスだと?女神ベルダンティの使徒じゃないか!300年前に人間やインム、獣人やエルフを解放したこの世界最大の英雄……リリーヌはそいつの眷属だったというのか?確かに眷属は使徒が生存している間は生きることができる聞いていたが、リリーヌは300歳を越えているという事になる。


「……英雄公クロスは、多くの種族を解放したこの世界最大の英雄だろう?なぜ眷属のお前は他の種族を支配しようとするんだ?」


 俺はユリス、そしてリリーヌがはめている封魔の腕輪を指差し、リリーヌに問い続ける。


「……その封魔の腕輪だって、英雄公クロスがインムのチャームを抑えるために、作ったものだろう?」


 俺の言葉に、リリーヌは弾ける様に笑いだした……狂っている?!あまりの怒りと憎悪によって、このインムの女王は正気を失っているのだろうか?


「……違うわ。この腕輪さえ、彼は別の目的のためにインムに与えたのよ……ふふふ……あの男は、私たちインムを救ってはくれなかった。隔離の勇者は、インムを救わない。私たちは、始めから彼に切り捨てられた犠牲に過ぎなかったのよ……隔離の女神ベルダンティは、私たちインムを救ってはくれないのよ」


 英雄公クロスと女神ベルダンティを語るリリーヌの表情は醜く歪み、憎悪に満ちている。いったい、何があったというんだ?


「……女神ベルダンティや英雄公クロスがお前達インムにどういう事をしたのかはしらん。だがスクルドは、インムを含めて全ての種族の生きる道を模索している」


「女神スクルドにも、私は会った事があるのよ。あの泣き虫の力なき女神に、何ができるのかしら?」


 うっ……スクルドさえ知っているというのか?


「……スクルドは、お前達インムの神様だろう?」


「そうよ。インムという力なき種を作った神よ。ただ容姿とチャームの魔力に長けただけの、か弱いインムという種を作った、忌むべき神よ。作っただけで、助けてはくれない、弱き神よ」


 確かに、この弱肉強食の世界は、力が無く容姿のみ優れたインムにとっては、生きにくい世界だろう。


「女神ベルダンティにはインムを救う意志はなく、女神スクルドには力が無い。私たちを救えるのは、たった一つの存在……」


 リリーヌの玉座の背後に、光りが灯る。

 映し出される女神の像、それは女神ベルダンティでも女神スクルドでもなかった。

 甲冑を着込んだその女神像には見覚えがある。勝利の女神ウルド、最も優れた種族のみ生き残ればいいと主張した女神である。


「勝利の女神であるウルドこそ、我らが守護神。他の種族を全て滅ぼし、世界を私たちインムの物にする」


「……インムは女しかいないだろう?それ以外の種族を滅ぼして、どうするつもりだ?」


「そうね、私たちインムに従う男達は、奴隷として生かしてあげましょうか。インムを頂点に、それに従う男だけの世界。かつて異種族の男達がインムの男達を絶滅させたように、今度は私たちが異種族の女達を絶滅させる。そうすれば、この世界に『闇』は発生せず、絶対の平和が訪れる。私たちインムには、その正当なる権利があるのよ」


 くそう、くそう……何を言ってもリリーヌの決意が揺らぐとは思えない。

 こいつの背景にあるのは、インムと言う種族全体の闇、今までの闇は、所詮は個人の闇に過ぎなかったものだ。残念だが背負っている業の桁が違いすぎる。


(恨むぞスクルド、こんな闇をどうやって消せというんだ?)


「……それでも……俺は女神スクルドの使徒、共存の勇者だ。何を言われようと、お前に協力はできない。スクルドが諦めない限り、俺も諦めない」


 必死にそれだけを口にする。

 だがその言葉さえ、リリーヌに軽くあしらわれてしまった。


「ふふふ……あなたを女神スクルドの使徒であるとは認めるけど、共存の勇者とは認めないわ。共存の道、それは隔離の勇者であるあの男が進んだ道より、遥かに険しい道なのよ。はたして、あなたにその覚悟と決意があるのかしら?……そもそも本当に、この世界なんてものを救いたいと、あなたは思っているの?」


「……どういう意味だ?」


「言葉通りの意味よ。あなたは眷属の女の子達を助けるためには努力したけど、世界なんて物を救いたいと思った事が、本当にあるのかしら?あなたは、世界を救いたいという決意も覚悟も、持ち合わせていないのでしょう?それが無いあなたは、女神スクルドの使徒であっても共存の勇者では無いわ」


 心の底まで見透かされた気がして、俺は答えに窮する。確かに、共存の勇者なんて自覚は、全くなかった。この世界の未来より、ニーアとユリスの安全が第一だ。


「私と同盟を結ぶというなら、その猫人の眷属とユリスの安全は保証するわ。何一つ不自由の無い、贅沢な暮らしを約束してあげる。望むならハーレムを一つあげてもいいわ。……敵対するのなら、永遠に人間界全体を敵にまわす事を覚悟しなさい」


 味方になるというのならニーアとユリスの安全と、俺の贅沢なニート生活を保障してくれるという事か。

 敵になるというのなら、一生犯罪者で、2人の命も危険……


「……考えるのにも時間は必要でしょう?宮殿に自室をあげるわ。そこでゆっくり考えなさい。大人の判断を期待しているわ、坊や」

読んでいただきありがとうございます。


そろそろ書き溜め分が尽きつつあるので、更新が不定期になるかと思います。

宜しくお願いします。



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