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自宅vs軍隊 ロジー家陥落

 スクルドが帰った翌日、俺はリビングで久々にニート生活を満喫しようとしていた。

 だが、その望みもニーアによって絶たれる。


「あの焼け野原のお庭、それから妖魔エンヴィの血と蜘蛛の糸を何とかしましょう」


 スクルドが来る前に、玄関部分だけ少し片付けたので、後は放っておこうと思ったんだが、ニーアはそれを許さないようだ。

 ユリスと3人で、庭の片付けをする。

 灼熱魔法で妖魔達の死体はほとんど焼き払ってしまったが、よく見ると、いたる所に血が飛び散っており、蜘蛛の巣が張られている。これらを綺麗にするのに、時間がかかりそうだ。


「カナタさん、何でしょう?あの音?」


 そう言えば、何か変な音がする。

 これは……楽器??

 一緒に音がした家の玄関方向にいく。


「遠くに、大勢の人間達がいます。楽曲を奏でながら、こちらに向かってきます」


 なんだって?お祭りでもあるのだろうか。


「……いえ、どうも軍楽隊の様です。あれは……ローラント王国の軍隊です」


 軍隊だと!?

 俺は驚いて、目を凝らしてみる。


 確かに、人数は3千人くらいか、中世風の兵士達とおぼしき一団が、隊列を組みながらこちらに軍楽を奏でながらゆっくりと近づいてくる。

 ファーの町に向かっているのでは、と思ったが、方向は明らかにこの家だ。


「カナタ様、大変です。東側に……騎士隊が!」


 ユリスが悲壮な声を上げて駆け寄ってきた、ユリスが指差す方向には砂埃が立っている。

 あれは、甲冑を着込んだ重装備の騎士隊だ。総数は、およそ1千騎。


「カナタさん、西側にも同数の騎士隊、どうもこの家を包囲するつもりのようです」


 まさか……これがリリーヌの力?リリカはこの世界を支配しているのはインムのリリーヌだと言っていたが……

 この家を包囲するために、軍隊を動員してきただと??


「逃げよう、家の北側から逃げるぞ!」


 そう思い、北側に向かったが、既に軽騎兵隊が陣形を整え整列していた。こちらもおよそ1千人騎。

 どうやら正面の軍楽隊は囮で、こちらの注意が軍楽隊に向いているうちに、三方から騎兵隊が取り囲んでいたらしい。

 やられた!もうニーアのストーム・ボムを使っても逃げられるとは思えない。


 そうこうしているうちに、正面の歩兵部隊も家の前に布陣を終えたらしい。

 まさに水も漏らさぬ包囲陣。

 信じれれん……家一軒包囲するために、五千以上の兵力を動員してくるなんて……それも訓練されたローラントの正規兵だ。


 妖魔戦と同じく篭城して戦うか?

 しかし……俺は歩兵部隊の装備をみて驚愕する。


 大砲だ。それも、ざっとみて20門。


 野戦砲まで持ち出すとは……


 篭城策は無理だ。自宅警備士は、家が破壊されるとホーム・ロスとなり自宅警備の加護を失ってしまう。

 あの大砲を撃ち込まれたら、ロジーさんの家がもつとは思えない。


 突然、轟音が轟く。大砲を発射しただと?!


 砲声は20、全て俺たちの方に向かって発射された。信じれれん、自宅vs軍隊だと??


 ……だが、大砲から発射されたのは、煙のみで、実弾は発射されなかった。


 まさか、空砲?


 元の世界にも、軍隊の敬礼方式として空砲を発射する事はある。これは大砲に次弾が装填されていないことの証であり、友好の証明行為として用いられる。

 だが……今のは……


「……明らかに威嚇だったよな」


 俺は完全に戦意を喪失してしまった。ニーアとユリスも、俺の腕にすがって怯えている。ニーアはまだ気丈に敵を見据えているが、ユリスは震えてうずくまっている。


 兵士達が左右に分かれ、真ん中から人が歩いてくる。

 チャームを発している事からインムだろう。


「はじめまして、運命の御子にして女神スクルドの使徒、カナタ・ロータスワンド様。私はリリーヌ様の使者、セナと申します」


 セナと名乗った女性は、青く短めの髪に眼鏡の理知的な雰囲気の美人、インムにしては落ち着いた服装を着ている。


「……な、何の様だ?」


「使徒カナタ様とその眷属を、客人として迎える様にとの、わが主の命令です」


 きっ……客人だと?客人迎えにくるのに軍隊連れてくるなよ!これは連行だろ!?


 そう思ったが、既に戦意を喪失してしまっている。

 軍隊相手に戦うとかありえない。


「……分かった。リリーヌの下へ連れて行け。ただし、ユリスとニーアには危害は加えるな」


 俺たちはおとなしくセナに連れられた、奥の馬車に向かう。


「……カナタ、さん……」


「……カナタ様、怖いです……」


 ニーアとユリスの2人は怯えている。


「大丈夫だ、リリーヌの目的が、俺を手に入れる事なら、俺たちに危害は加えてこないはず……」


 スクルドもそう言っていた。

 くそう、スクルドはこうなる事を知っていたんだな。あとで、とっちめてやる。


「カナタ様はこちらの馬車へ。道中、退屈なさらない様にとの、主の配慮です」


 ピンクの馬車に案内される。窓からエロティックな踊り子風の服を着たインムらしき美女が3人、こちらに微笑み手招きしている。


「いらん!ニーア達と同じ馬車でいい!」


 ちくしょう、あの馬車に乗りたいが、インムに籠絡されしまうわけにはいかない……


「あら、生真面目なこと。では、こちらの馬車に……その前に、こちらを」


 セナさんは、腕輪をユリスに差し出した。


「これは……封魔の腕輪?」


 差し出されたのはミスミル銀で作られた封魔の腕輪だ。もっとも、以前ユリスが装備していたものより、ずっと高価で高性能なものであることは一目でわかった。


 確かに……ユリスのチャームの問題はまだ完全には解決していない。この腕輪があると助かるが……


「主からの誠意の証です。最上の物を用意いたしました」


 ユリスはとまどっている。不安げに、俺の意見を伺う様に、こちらに視線を送る。

 俺も腕輪を情報強者でスキャンしてみるが、特におかしな点は無い。


「ユリス、受け取っておけ。いいだろう、こっちも話があったんだ。インムの女王のところに、行ってやろうじゃないか」


 女神ベルダンティとの約束の期限まであと20日、なら直接行って、インムの女王を説得してやる。


 俺達はもう一つの馬車に乗せられた。

 この馬車も豪華絢爛といっていい。

 ユトラント伯爵公の馬車も凄かったが、それを圧倒している。

 中には、フルーツ類やワインやチーズやキャビア、ビスケット等が山積みされていた。


「3時間ほど、こちらでご辛抱ください」


 ドアをセナさんが閉じようとする。


「待って下さい、ギルドにお家の管理を頼まないと……」


「管理はギルドのメルル嬢に依頼済みです。ご心配なく」


 セナさんに手抜かりは無かった。



 馬車が駈ける。歩兵部隊約3千に、騎兵約3千、人馬合わせて1万弱の軍隊の移動は、まるで一つの町の移動であり、圧巻だった。

 逃げようなどという気は、とうに無くなってしまった。


「私たち、どうなるんでしょう?」


 ニーアは不安げだ。ユリスはずっと怯えたまま俺の腕にすがっている。

 俺の方は、覚悟が決まってしまったのか、逆に落ち着いている。


「大丈夫だ、危害は加えてこないはずだ。ところでニーア、エウロパって都市は、ここから大分と遠いのか?」


「歓楽都市エウロパの事ですか?大エウロパ砂漠にあるそうですから、歩きだと砂漠まで2週間、さらに1週間以上かけて砂漠を越える必要があります」


 そんなに?マズい、リリーヌに会う前に女神ベルダンティとの約束の期限を過ぎてしまうかもしれない。

 だがセナさんは3時間の辛抱、と言っていたが……どういう事だ?他の乗り物にでも乗り換えるのだろうか?


 3時間後、馬車が着いたのは、森の中にある祠だった。

 巨大なベルダンティ神の彫刻が彫られているから、女神ベルダンティの祠なのだろう。


「これは……まさか『転移の祠』では?」


 転移の祠?


「はい。転移の門同士をつなぐ祠があるというお話を聞いた事があります。女神ベルダンティ様の彫刻が彫られているのは、ベルダンティ様が転移魔法を得意とされるからだとか……」


 転移魔法、そういやニーアがベルダンティ神に転移魔法をかけられていたな。


「お待たせいたしました。カナタ様、眷属のお二人、こちらへ」


 馬車から降りる様にうながされ、俺たちは祠の中に入る。

 奥に、彫刻が彫られた立派な門がある。


【転移の門】(情報強者でスキャン)

転移魔法がかけられた門で、門と門をつなぐ魔法がかけられている

発動には魔力が必要で、消費量は転送量に比例


 門をくぐり、中の一室に通される。俺とニーアとユリス、それにセナさんと警護の兵士5名。

 5名なら、ニーアのストーム・ボムで逃げれるかもしれないな、だが外には6千人の軍隊がいる、などと考えていると、魔力が発動されるのを感じた。


「どうぞ、外へ」


 再びセナさんに外に出る様にうながされる。そして驚いた。

 砂を含んだ圧倒的に乾燥した空気、灼熱の太陽、輝くオアシス、そして立ち並ぶ絢爛豪華な建物は、日本では絶対に建築許可がおりないであろう重力を無視したド派手なデザイン、あちこちに立ち並ぶ半裸の女の像、装飾には金銀財宝を惜しげも無く使っている。行った事は無いがラスベガスやマカオも、この都市の前では霞むだろう。


「ようこそ歓楽都市エウロパへ、運命の御子にして女神スクルドの使徒、カナタ・ロータスワンド様とその眷属、我々は、あなた方を歓迎いたします」


 豪奢なアラビア風の服を着たインムとおぼしき300人ほどの美しい女性達が俺たちを取り囲み、歓迎の挨拶を述べる。


 俺たちは今度は御輿に乗せられ、連れて行かれる。

 建物の窓からは、別のインムの女達が歓声をあげながら花びらやら紙やらを投げてくる。

 よく見たら紙じゃなくて金箔だった。


 その周りには、千人ほどの、屈強な兵士達が右手に槍を持ち警護している。


 輿に乗せられたまま、地下宮殿へと連れて行かれる。

 科学による物か魔法による物かわからないが、地下宮殿は昼間の様に明るく、そして地上より豪華でかつ壮麗だった。


「奥におられるのが我らが女王、リリーヌ・キングビッチ・アジェンダ様です」



読んでいただき、ありがとうございます。


次回、インムの女王との対面です。

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