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自宅警備士は、美白です。

 こうしてユリスの初陣は終わった。ボウガンのおかげで、なんとか戦力になるかもしれない。レベルがあがって魔法さえ覚えれば、戦闘に役に立つ様になるだろう。魔法は魅惑系魔法でなければ、何でもいい。要は、MPを無駄遣いできればいいのだから。

 俺の方はせっかくユリスに良い所を見せようとしたのに、全然ダメだった。破魔魔法に弱いって俺のスキル、なんとかならないものだろうか?何か、俺が一番足手まといな気がしてきたぞ。


 昼食のために家に戻る。ニーアとユリスが台所で調理している。楽しそうな声がする。

 でてきたのはバルーンの温麺だった。卵とネギと肉が載っている。ラーメンみたいだ。

 ユリスは朝食の時と同様に、美味しい美味しいと言いながら食べている。ニーアは、猫人で猫舌なのだろうか、ゆっくり冷ましながら食べている。よく見たらネギも載っていない、猫はネギが嫌いだから、ニーアも苦手なのだろうか。


 昼食後も魔物狩りに出かける。俺とニーアのレベルではまず安心だが、バルーンには注意しないと。

 今度はニーアを索敵のために先行させる。ニンジャは索敵能力も高いので、敵を先に発見できるはずだ。とことん重宝するジョブだ。


「あの大きな岩の向こうにコブリンが4体、ボブコブリンが2体、こちらには気付いていないです」


 かなりの大群だが、先制攻撃のチャンスだ。


「ユリス、あの岩の陰から、コブリンを狙って撃て。撃ったらすぐに岩に隠れて次弾を装填して待機。ニーアは側面にまわり、ユリスの射撃を合図に投げナイフで側面攻撃だ。俺はユリスの側にいる。できれば敵がこちらに近づく前に倒したいが、敵がこちらに近づいてきたら、ニーアは俺たちに合流して接近戦を挑むこと」


 簡単な作戦を指示し、それぞれ配置に付く。


「あうあう……ボブコブリン……怖いです」


 俺はバルーンの方が怖いけどな。


「大丈夫だ、ユリス」


 そう言ってユリスを慰める。震えているユリスの手に、俺の手を添える。


「さっきはバルーンから俺を救ってくれただろう?あの時の勇気をだせば、大丈夫だ」


 ユリスに微笑む。何とかして経験を積ませないとな。

 ユリスは小さく頷くと、岩陰からボウガンの銃口をコブリンに向ける。こういうとき、身を乗り出す面積が少なくすむのが弓には無いボウガンのメリットだ。

 

 ニーアも側方の茂みに隠れている。さすがニンジャ、向こうからはまず見えない位置に、上手く潜んでいる。


「よし、ユリス。撃て」


 ユリスはボウガンの銃口をボブコブリンに向けるが、なかなか引き金を引かない……さすがにバルーンと違って怖いのか?

 隠れている岩の一部が削れ、こぶし大の石が転がり落ちる。


 しまった!コブリンの一匹がこちらに気付いた。

 不気味なうめき声で騒ぎ、仲間に知らせようとしている。


「ユリス、早く撃て!」


 俺の命令に、ユリスはやっと引き金を引く。ボウガンの矢が、コブリンの1匹に命中し倒れる。上手く急所に命中したらしい。

 残るコブリン達は、うめき声を上げながら、こちらに向かって駆けてくる。


 そのコブリン達に、茂みに潜むニーアが立ち、ナイフを投げる。予期せぬ側面からの攻撃に、コブリン2匹が倒れる。それでも俺たちの方に向かってくるボブコブリンをノートゥングの一撃で切り伏せる。残る1匹のボブコブリンも、ニーアがとどめを刺していた。


「うう……やっぱり役に立てませんでした」


 ユリスは落ち込んでいる。


「そんなことはないよ、最初の一撃でコブリンを倒すとは、大したもんだ。とてもいい腕をしている」


 ユリスを慰める。


「そうですよ、今夜はボブコブリンのステーキです」


 ああ、こいつ食べるのね。そういや、旨かったな。


 ユリスは戦力としてはまだまだ未熟だが、ニーアの索敵スキルで先制攻撃を取る事さえできれば、なんとかなりそうだ。レベルアップさえさせれば、それなりに戦力になるはずだ。


 夕食にボブコブリンのステーキを食べ、お風呂をいただく。

 一番風呂をいただき、リビングでくつろいでいると、ニーアとユリスが新しいパジャマ姿ではしゃいでいるのが見える。

 2人とも、すっかり打ち解けたみたいだ。


 ……ニーアがユリスを家に置いておくのを嫌がったのは、インムであるユリスが俺を誘惑するのを恐れての事だったわけだから、その心配が無くなれば、一緒にいる事を承諾してくれるかもしれない。もう少し様子をみて、ニーアに切り出してみよう。




「おはようございます、カナタさん。ユリスちゃんがリビングで待ってます」


 ニーアに起こされ、賢者タイムになる。もはや日課だ。

 ユリスはメイド服をきちんと着込み、床にちょこんと座っている。とりあえずチャームで魔力を全て消費させる。必死でチャームをかけ、魔力を無駄遣いするユリスの横顔を見ながら考える。

 この世界では魔力=意思力、なのだから、この娘は本当はとても意思の強い娘なのだろう。逆に自宅警備士の俺はスキル超弱意思力でMP0、つまり意思はとても弱いという事になる。

 ……なんか、悲しい……



 日課のユリスの魔力放出を終え、ギルドに顔を出してみる。俺やニーアはレベルが高いので、雑魚を倒してもなかなかレベルがあがらない。俺の場合、バルーンとの戦闘の方が危険が大きいという理由もある。ユリスは遠距離攻撃を担当させれば安全だろうし、ギルドでもう少し強い敵がいないか探してみる。


「あら、カナタ君にニーアちゃん。しばらく顔をみせなかったね、元気かい?」


 メルルさんは明るく声をかけて来てくれる。気さくな人だ。


「ええ、ご無沙汰です。何か経験値が稼げそうな依頼ってありますか?」


「そうだね~この【妖魔エンヴィの退治】って依頼はどうだろう?場所は北の森ね」


 妖魔エンヴィか……聞いた事のない魔物だ。それに、北の森ならセコンの町に行く前に通っているはずだ。そんな魔物はいなかった。


「それがさ、昨日あたりから突然発生した魔物でね、結構困っているんだよ。そんなに強い魔物じゃないけど、数が多くてね」


 一匹につき50ルーグか……安い気もするが、そんな強くないなら今の俺とニーアのレベルなら大丈夫だろう。

 ユリスには後方で援護射撃をさせれば良い。可能であれば自宅警備のスキルが使える自宅に引き込んで戦いたいが、さすがにそれは難しいか。


「それはそうと、あの女の子は?新しい仲間かい?ずいぶん可愛い娘だね」


 メルルさんはユリスの方を向いて言う。

 インムは獣人と違い、外見では人間との違いが無い。ただの人間の美少女に見えているはずだ。


「ええ、ユリスと言います」


 メルルさんは小声で、俺とニーアにだけ聞こえる声で言う。


「最近、インムに対する弾圧がセコンの町の婦人会を中心に厳しくなっているらしいよ。その影響で、ファーの町の婦人会もインムに対する強硬論が出て来ているとか……気をつけなさいね」


 驚いた事に、メルルさんは初見でユリスがインムである事を気付いたらしい。さすが、女ギルド主人。

 見るとギルドの壁にも『インム、ダメ、絶対』のポスターが張られている。以前には無かった。


「あの娘がインムだったとしても、無闇にチャームを使わないなら、そうそう弾圧されることは無いと思うけどね。でも婦人会には目をつけられない様に、気をつけなさい」


 忠告はありがたく受け取っておこう。とにかく、面倒ごとに巻き込まれる前に北の森に行こう。



 北の森に向かう。ニーアが言うには、本来はほとんど魔物がいない森らしく、そのためファーの町の住人に取っては大切な資源庫であり食料庫だそうだ。そこに新種の魔物が大量発生したのだから、たまったものではない。

 ニーアのニンジャの索敵スキルで敵を先に発見できる様に、先行させる。

 いつもながらニンジャの索敵スキルはとても重宝する。


「いました、カナタさん。前方左です!2体。まだこちらには気付いていないみたいです」


「よし、ユリス。そこの木の影から左の一匹にボウガンを放て!それを合図に、俺たちが切りかかる。次弾を装填したら、待機していろ。可能ならとどめ役も任せる」


「はい!」


「頑張ります!」


【妖魔エンヴィ】(スキル情報強者でスキャン)

嫉妬の闇によって、森の蜘蛛が突然変異した魔物。

肉は猛毒で、極めて不味い。

使用魔法 スパイダー・シルク(蜘蛛の糸)



 ユリスのボウガンが発射される。エンヴィの右目に直撃し、もだえている。相変わらず、ユリスのボウガンの命中精度はけっこう高い。

 妖魔がボウガンが発射された方を向いた瞬間、俺とニーアが飛び出し側面から切りかかる。


 ノートゥングが妖魔の横腹に突き刺さる。外殻が意外に固い、それほど奥まで突き刺さらない。

 ニーアがコタチで首を切り、やっと妖魔の一匹が倒れる。

 矢が刺さった方のもう一匹が、口から白い糸を吐き出す。


ーースパイダー・シルクーー


 ねちゃ、とした蜘蛛の糸。意外に丈夫らしく、なかなか取れない。

 どうも物理的な技ではなく、魔法の一種らしい。


スキル情報強者発動

粘着魔法スパイダー・ミルク(強靭な魔法の糸を発する。糸はよく伸び、よくひっつく)


 くそう、気持ち悪い。そしてうっとおしい。


 そう思っていると、ユリスが放った二発目の矢が妖魔の左目に命中する。

 さすがに両目を潰されるともう終わりだ。ニーアとともに、ゆっくりと糸を解いて、もだえている妖魔にとどめを刺した。


「あ……当たりました」


 ユリスがボウガンを大切そうに抱えてやってくる。

 当たったどころか、両方急所に命中だよ。ボウガンの才能があるのかもしれない。


 しかし気持ちの悪い糸だ。まだネチャネチャする。

 ん?あれが魔法の一種だと言う事は……


 俺は自分の使用可能魔法を調べる。

【スパイダー・シルク】

 消費MP1 指先から半透明の強靭な魔法の糸を発する。糸はよく伸び、よくひっつく


……いまの一発で、覚えてしまったらしい。いらねえ。


「なあ……今の蜘蛛の糸の魔法、覚えてしまったみたいなんだが……」


「もう、何でもかんでも、魔法を覚えないで下さい。そもそも人間が使える魔法じゃないでしょうに……」


 ニーアの言う事ももっともだ。


「ほえ……すごいです。カナタ様はどこから蜘蛛の糸を出すのですか?」


 うむ、どこからだろう?変なところから蜘蛛の糸がでたら困るから、後で一人で確かめてみよう。


 ユリスのレベルが上がる。新たなスキルを獲得した様だ。


スキル【絶対領域】を覚えました。


 絶対領域だと?防御スキルだろうか?名前からして凄そうだ。情報強者でスキャンする。


スキル【絶対領域】

どんな短いスカートをはいていても、風等のアクシデントで下着が見える事がない。

インム専用スキル


 そっちの絶対領域かよ!やっぱりインムは、戦闘向きじゃないかも……


「……うう、やっぱり私、役立たずです」


 このスキルも踊り子とかにとっては使えるスキルかもしれないが、戦闘には使えないね。

 パンチラが期待できなくなるという意味で、俺にとっては嬉しくないスキルだ。


「気にするな、きっと戦闘向きのスキルや魔法を覚えるよ」


 ユリスを励ましながら、妖魔エンヴィ狩りを続ける。敵の攻撃手段が分かった以上、後は消化試合だ。

 4匹倒した所で、再びユリスのレベルが上がった。


ユリスはスキル【美白】を覚えました。


……戦闘向きのスキルでないことが、一目で分かったが、一応スキャンしてみる。


スキル【美白】

どんなことがあっても日焼けしない、白く美しい肌をキープできる。

男性の好感度がアップ。


「……うう……戦闘の役に立ちません」


「気にしないで。でもユリスちゃんのそのスキル、女としてはうらやましいわ。いいな~ずっと美白なんて」


 ニーアが励ますためか大げさにうらやましがっている。ニーアも女の子だから、日焼けとか気にしたりするのか。



 さらに妖魔を何匹か倒した所で、次は俺のレベルが上がった。


カナタはスキル【美白】を覚えた。


「……」


「……」


「……なんで男性のカナタさんがスキル美白を覚えるんですか?」


「……俺に言われても……」


 自宅警備士は確かに色白が多いから、覚えたんだろうけど、ニーアの視線が冷たい。


「カナタさんに対する男性の好感度がアップして、どうするんですか?」


 俺に聞かれても困る。というか、男色があるこの世界では、無意味どころかペナルティスキルに近い。

 つまり「アッー」されてしまう危険性が高まったという事だ。

 奴隷商以来のお尻のピンチである。


「私も美白スキルが欲しいです。私はカナタさんの眷属ですから、私も覚えるかもしれません。いえ、必ず覚えてみせます」


「ニーアさん、ファイトです!」


 何か趣旨が変わってしまったが、魔物狩りを続ける。別に美白でなくても、健康的な肌も魅力的だと思うけどな~


 ニーアのレベルがあがる。


ニーアはスキル【スモーク・ボム】を覚えた。


 スキル美白ではなかったので、ニーアは悲しそうだ。


【スモーク・ボム】

消費MP2 視界を遮る煙玉を作り出せる。ニンジャ専門魔法


 ニンジャ専門の煙幕魔法か、状況によってはかなり効果的かもしれん。やはりニーアをニンジャにして良かった。


「……スキル美白が良かったです」


 ニーアは悲しそうにしている。なんかもう完全にレベルアップの趣旨を忘れているみたいだ。


「このスモーク・ボムという新しい魔法、どんなのか使ってみてくれないかな?」


 実戦前にどんなスキルか確認しておくのは、重要な事だ。


「はい、わかりました。ーー煙幕魔法ストーム・ボムーー」


 ニーアが精神を集中させて、呪文を詠唱する。


 黒い玉が地面に転がったかと思うと、ものすごい勢いで煙が吹き出し、煙幕が張られる。


「これは……凄い。何も見えない……ゲホゲホ……煙が、目に入った……」


「ゴホゴホ……ニーアさん、凄いです……うう、何も見えないです……」


「……こんな魔法より、スキル美白が欲しいかったです……コホン……」



 再び戦闘。

 ユリスのレベルが上がる。


魔法【ラブチャーム】を覚えた。


【ラブチャーム】

消費MP50 男性と性行為をすることによって、その男性を完全に虜にすることができる。インムの経験人数が少ないほど、魔法の威力は強力になる。


 ……実にインムらしい、エロい魔法だ。

 まさにサキュパスの本領発揮というべき魔法だ。


「……まあインムだからな。インムとしては正しい魔法なんだろう、きっと」


 頑張ってフォローしてみる。


「……ごめんなさい、こんな魔法しか覚えなくて……インムである自分が恥ずかしいです……」


 ユリスはバツが悪そうにうつむいてしまった。

 結局、俺のレベルは1、ニーアのレベルも1、ユリスのレベルが3上がった所で日が暮れた。俺はスキル美白といういらないスキルを得てしまい、ニーアは意中のスキル美白を得られなかった。ユリスは絶対領域と美白という2つの戦闘には使えないスキルと、ラブチャームというチャームの上級魔法を得たのみだった。


「やっぱりインムは戦闘向きじゃないみたいです。覚えるのもエッチな魔法ばかりですし、うまくMPを消費できる魔法を覚えるのは難しそうです」


 MPが多すぎるというのは、MP0の俺からすると羨ましい限りではあるが。

 さすがにラブチャームを使わせるわけにはいかないな。


「レベル15になったらジョブチェンジするという手もある。そうすれば普通の攻撃魔法とかも覚えるよ。きっとね」


 そう言って慰める。ユリスは小さく「はい」とうなずいた。


「私もスキル美白が欲しいです。自宅警備士に転職すれば、覚えるんでしょうか?やはり自宅警備士になりたいです」


 ニーアはまだスキル美白にこだわっているらしい。まあずっと色白で美白、って結構凄いスキルかもしれないな。俺には不要だが。


読んでいただき、ありがとうございます。


次回、転機が訪れます。


タイトルは、真夜中の訪問者

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