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自宅警備士、異世界へ ~ 救世主として異世界に召喚されたが、チートな勇者とかじゃなくて、ニートな自宅警備士だった~  作者: sinwa
第3章 賢者とインム

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ユリスのお願い

 翌朝目覚めると、部屋は甘ったるい空気で満たされていた。

 どうも家全体がそうらしい。ユリスの魔力が回復し、余剰分がチャームとして流出しているのか。

 昨日、400近いMPを全部使い果たしたのに、もう全回復か。


「カナタさん、おはようございます」


 ニーアは昨日買った新しいメイド服を着ている。スカートの丈が短くなっている。ちゃんとミニにしてくれたらしい。

 俺がミニを希望したので、昨日の夜中にたけ直ししてくれたんだな……やはりニーアにはミニスカートがよく似合う。

 早速、たけ直しをしてくれるとは、愛い奴じゃ


「……脚ばかり見ないでください……もう……ユリスさんがリビングで待ってますよ」


 俺もタイムをチェンジし、リビングに向かう。


ーータイムチェンジ、賢者タイムーー


 まさかこうも頻繁に賢者タイムを使う事になろうとは、思いもしなかったな。

 気分は再び賢者。心は綺麗なシャイアンである。


 リビングにはユリスがいた。あの汚れたローブをまとっている。顔は隠していない。

 ピンクの髪に、幼いが整った顔立ちの素顔を出している。


「おはようございます。カナタ様」


 ユリスが深々と礼をする。


「ユリス君、昨日と同じ要領で、俺にチャームをかけてくれたまえ。話はMPを使い切ってからだ」


「はい。それでは失礼します」


 昨日と同じ様に、チャームでMPを使い切る。

 ペナルティスキル超弱意思力のせいMP0の俺からしたら羨ましい限りのMPだ。このMPをチャーム以外の魔法に使えたら、問題が解決するのではないか?

 特に回復魔法を使える様になれば、この世界では重宝されるはずだ。そうすれば僧侶や医者として生きていける。

 チャームをかけられながら尋ねてみる。


「なあ、ユリスはチャーム以外の魔法を使える様にはならないのか?」


「え、はい……インムは性魔術や魅惑魔法以外は滅多に覚えないと言われています」


 ふう、昨日の婦人方が「男に媚びるしか芸が無い汚れた種族」と言ってた意味が分かった。

 いかんいかん、俺が妥協してどうする。何とかして、魔力を抑える方法を探さなければ。


「終わりました、カナタ様……ありがとうございました」


 ユリスがペコリとお辞儀をする。しばらくして俺の賢者タイムも切れた。一日30分しか使えないのか、しばらくの間は朝はじめにチャームでMPを使い切る生活をするしかない。


 賢者タイムが切れたからユリスの顔を見ると、確かにニーアとは違うタイプの美少女だ。汚れたローブを着ていても、その魅力は損なわれない。年齢の割にしっかり者のニーアと違い、ユリスは年齢より幼く見える。


「……あの、カナタ様。昨日はお礼を言うことができませんでしたが、買っていただいてありがとうございます。そして助けていただいて、ありがとうございます。ふつつか者ですが、どうかよろしくお願いいたします」


 ユリスが丁寧にお辞儀をしながら挨拶をする。


「……あの、奥様……私はご存知の通りインムですが、どうかどうか、よろしくお願いいたします」


 ニーアに対しても丁寧に挨拶する。


「にゃ?……奥様?」


 ニーアが戸惑って変な声をあげている。

 そういやユリスは、俺たちが夫婦だと勘違いしていたままだったな。


「ユリスさん、私たちは夫婦じゃないですよ。あなたと同じ、カナタさんに買われたメイドです。メイド服着ているでしょう?」


「え?でも……ご主人様を「さん」付けで呼んでおられますし、服もご主人様より良い物を着ておられたので……」


 まあそうだな。この世界で主人を「さん」付けで呼ぶ事はまれだし、服もニーアの方が良い物を着ているから、勘違いしたのだろう。


「ニーアは俺のメイドだけど、それ以前からの知り合いだからな。ちょっと特別なんだ」


「特別、なメイドですか……それで同じお部屋に……」


 ユリスは一人で納得してしまった。無言になり、頬を赤める。

 どうやら恋人関係にあるメイドだと思ったらしい。……まあいいや、誤解を解くのもヤボだ。


「あの……カナタ様、ニーア様、買っていただいた上で図々しいお願いなんですが、聞いていただけないでしょうか?」


 ユリスは思い詰めた表情をしている。


「インムの癖に、と思われるかもしれませんが、夜伽のお役目だけは、私……できないんです」


 ユリスが涙で瞳を潤わせながら、懇願してくる。


「夜伽くらいしか役に立たないインムの癖に、それができないって、本当に役立たずだと思われるかもしれませんが……どうか、それ以外の事なら何でも頑張りますから……うぐ……」


 予想外のお願いに俺とニーアは困惑する。


「いいのよ、そういうお仕事はしなくても。でも、どうしてそんなに嫌なのか、教えてもらえないかしら?」


「……はい。私たちインムは、力も弱く、戦闘魔法も使えないので、男性をよろこばせることくらいしか能がない種族です。だからみんな男の人に頼って、従って、あるいは利用して生きています。私はそれが嫌で……そういう事するのも、男の人も嫌になってしまったんです。前のご主人様は……とてもきつい人でしたけど、女の方で、そういう仕事は求められなかったので、我慢していました。けど……それ以外については本当にキツい方で……もう限界だったんです……ぐず……」


「そう、分かったわ。話してくれてありがとう。心配しないで、カナタさんもそういう仕事はあなたには求めないから、大丈夫よ」


 ニーアがにっこり微笑み、ユリスを安心させる。


 エッチな事が苦手で男性が嫌いなインム……か。インムにもいろんな人がいるんだな。

 剣も戦闘魔法も使えないんじゃ、確かに実力主義のこの世界での立場は弱いよな。唯一の武器である色気で、したたかに生きていくしかないのだろう。

 だが前に奴隷店であったインムーー名前は確かリリカーーは、「インムは決して支配されるだけの弱い種族ではない」って言っていた。いったいどういう意味だったんだろ?


「ユリスさん、とにかく着替えに行きましょう。しばらくチャームは発動しはいはずだから、そんな汚いローブ脱いでも大丈夫よ。私の服を貸してあげるわ」


「ありがとうございます。奥……ニーア様」


「〝様〟はいらないわ」


「はい、ニーアさん。私は呼び捨てで良いです。ニーアさんは先輩メイドですので……」


「わかったわ。よろしくね、ユリスちゃん」


 微笑むニーアとユリス。連れだってニーアの部屋に着替えにいった姿はまるで仲の良い姉妹みたいだ。まあ、ニーアが一番心配していたインムのチャームの問題が無くなったんだから、安心したのだろう。もともとニーアは面倒見がいい娘だし。



 しばらくしてユリスがメイド服を着て現れた。ニーアと同じメイド服を着ている。

 昨日ニーアに買ってあげたもう一着のメイド服か。


 きちんとした格好をしたユリスはハッとするほど可愛いかった。

 小柄な体つきに、年齢より幼い顔立ちと対照的な、メイド服に包まれた大きめの胸。スカートはロングだが、華奢な足首が魅力的だ。

 恥ずかしそうにこちらを見つめる頬はほんのり赤い。いつもスカーフやフードで隠していたピンクの髪にカチューシャが乗っかっている。

 いつも汚いローブを身に着けていたので、こんなに可愛い女の子だとは、思ってもみなかった。服装って重要なんだな。いつもつけていた嫌な匂いがする香水も付けていない。むしろ何とも言えない良い香がする。


「……あの、似合うでしょうか、カナタ様?」


「ああ、とっても可愛いよ。サイズもピッタリだ」


「はい、ニーアさんにたけ直ししてもらったんです……グズ……」


 ユリスはまた泣いている。何か辛いことを思い出してしまったのだろうか?


「……いえ……悲しいんじゃなくて、嬉しいんです。こんな、可愛い服を、着させてもらった事がなくて……チャームを抑えるために、いつも汚いローブに、嫌な匂いの香水を付けてましたから……ニーアさんにたけ直しまでしてもらって、こんな優しくしてもらったことなかったので……」


 ユリスは泣いている。どうも、涙もろい娘なんだな。嬉しくて泣いているから、いっか。

 年頃の女の子が、綺麗な服を着れない辛さは、男の俺にはよくわからないが、ニーアは理解できるみたいで、いっしょに悲しそうな顔をしている。


 ユリスを慰めながら、一緒に朝食をとる。

 ユリスは美味しい美味しいと、何度も感謝の言葉を述べながら、ニーアが作った朝食を食べた。聞けば今まで粗末な朝食を、たった一人で食べていたらしい。いったいどんな扱いを受けていたんだ?


「とにかく、チャームの問題を解決しないとな、現時点で方法は2つ、封魔の腕輪を作るか、買うかして、手に入れること。確かあの腕輪の原料は、ミスミル銀だったな」


「はい。英雄公クロスが、インムのチャームを抑えるために発明したものだと言われています」


 また英雄公クロスか。その名前を聞くのは何度目だろう?


「もう一つの方法は、なんですか?カナタさん」


「ユリスにチャーム以外の魔法を覚えさせる事。チャーム以外に魔力を発散できれば、少なくとも魔力暴走は抑えられるはずだ」


 特に回復魔法が使える様になれば、この世界では重宝されるだろう。


「ミスミル銀は、とても希少な金属ですし、加工もとても難しいと聞いています」


 だとすると、ユリスのレベルをあげて、チャーム以外の魔法を覚えさせる。魔法を覚えないなら、レベル15まであげて何かいい職に就かせてあげるべきだ。


「よし、封魔の腕輪については調べておくとして、まずユリスのレベルをあげよう。レベルアップのために、その辺のモンスターを倒しに行こう」


 まずファーの町でユリスの装備を整えにいく。

 ユリスは汚れたローブ以外の服装で外出するのは初めてらしく、はしゃいでいる。微笑みながらスカートをはためかせている。


「ユリスちゃん、そんなにはしゃぐと転ぶわよ」


 ニーアが注意する。何かお姉さんを通り越してお母さんみたいだ。


「なんかニーアはお母さんみたいだな」


 ついつい言ってしまう。


「……そうですね。じゃあ私たちが夫婦ってことになりますね」


 私はそんな年齢じゃないです!とか言われるかと思ったが、まんざらでもないみたいだ。


「カナタさんがお父さんなら、ユリスちゃんに、手を出したらダメですからね」


 やんわりと釘を刺されてしまった。


読んでいただき、ありがとうございます。

悲劇のヒロインを助ける、基本ですが最も充実感が得られるもの一つだと思っています。


次回も、翌日21時に更新します。

タイトルは「ユリスの初陣とバルーン危機一髪」です。

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