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ニーアとユリスと奉仕の権利と

「奥様……」


 ユリスがつぶやく。こいつがユリスの主人か。


「私の奴隷を、勝手に連れて行かないでくれるかい?高い金で買った奴隷なんでね」


「あんたが、ユリスの主人か?なぜこんな状態になるまで放っておいたんだ?」


「なぜって、使えない奴隷を何故助ける必要があるの?女の客はウチの宿に泊まるのを嫌がる。春を売るのも嫌がる。しかも今度は封魔の腕輪を紛失したって?使えないったらありゃしない」


 優しさは微塵も無い冷たい言葉が投げられる。こんな女主人の下にユリスはいたのか。


「……ユリス君が奴隷として使えないのはわかった。では取引だ、彼女を売ってくれ」


「ふん、あんたみたいな貧乏人が、インムを買えると思って?」


「いくらでも構わん。言い値で買ってやる」


 そうねえ、とユリスの女主人は少し考えこんで、


「50万ルーグでどうかしら?」


 不敵な笑みを浮かべながら答える。どうせ支払えないだろう?という気が伝わってくる。インムだから高いのか?ニーアの金額の2倍半だ。足下を見られて、ふっかけられているのかもしれない。

 俺の今の所持金が51万強……支払えない金額ではないが、支払うと残金が2万を割ってしまう。

 なんでいつもこうピッタリなんだ?これも運命の神のいたずらか?運命の女神はスクルドだから、ありえる話だ。


 ふと気付くと涙目のユリスが不安そうにこちらを見つめている。

 ……くそう、こんな女主人の下に置いておける訳が無い。


「わかった、50万ルーグだ」


 俺は無造作に金が入っている袋を投げる。


 女主人は驚いた顔をしていたが、取り巻きの女達とともに金を数えている。


「ザマース婦人、確かに50万ルーグあるみたいです」


 ユリスの女主人ーーザマース婦人という名なのかーーは驚いた顔をしている。


「ミルク、ここに現れろ!すぐにだ、契約成立だ!」


「はいは~い」


 ミルクがすぐさま実態化する。気配を消して俺のそばにいたらしい。


「これでユリスさんはカナタさんの所有奴隷となります。奴隷は、所有者に忠誠を誓い奉仕する義務があります。この義務を怠った場合は、契約違反とみなし額に666の印が付けられます。以下しょうりゃ~く」


 矢継ぎ早に契約文を述べ上げる。ミルクとしてもザマース婦人が余計な手出しをする前に契約を完了してしまいたいのだろう。


 ニーアの時と同様、ユリスに手の甲を差し出す

 突然の事でユリスは戸惑っている。


「ユリス君、俺のものになるか、今まで通りザマース婦人のもとにいるか、今決めろ!」


 ユリスと目が合う。一瞬躊躇した様に見えたが、無言で体ごと唇を押し付ける様に、手の甲に契約のキスをしてきた。

 ニーアのとは違う、味気ないキスだ。


「これで契約は成立です。ユリスさんはカナタさんの所有奴隷となります」


 ミルクが宣言する。


 ザマース婦人は、しばらく驚いた顔のままだったが、事態が飲み込めると顔をピクピクと震わせながら怒り心頭の様子だ。


「この汚れたインム!恩知らず!」


 酷い言葉をユリスに投げかける。恩などかけてないのだから、知らなくて当然だろ。

 俺はユリスの前に立ち、ザマース婦人を睨みつける。


「ユリス君は俺のモノだ。侮辱は止めてもらおう」


 婦人はまだ何か言いたげだったが、無言で金が入った袋を大事そうに抱えながら去って行った。

 あの宿屋にとっては予想外の臨時収入のはずだから、あの怒りもいずれは収まるはずだ。金の力は偉大だ。


 取り巻いていた女達も、いつの間にかいなくなってしまった。

 ニーアが側に寄ってくる。


「ニーア君、すまないがローブとマフラーを貸してやってくれ。町を出るまで肌を隠しておいた方がいい」


「……はい。どうぞ、ユリスさん」


 ニーアが無言でローブとマフラーをユリスにかけてあげる。


「ありがとう……ございます」


 ローブとスカーフで顔を隠せて安心したのか、ユリスはマフラーで顔を隠したままうつむいてしまった。


「とにかく町を出よう。また絡まれたら厄介だ」


 ファーの町に戻って歩く。賢者タイムはいつの間にか切れていた。確か、持続時間は30分だったな。

 先行する俺とニーア、ユリスは数歩遅れてついてくる。さっきからずっと無言だ。

 ニーアも口を開かない。口には出さないが、インムを買った事が不満なのだろう。せっかくニーアに買ってあげたマフラーをインムに貸したのが嫌なのかもしれない。

 先ほどの婦人連中ほどではないが、ニーアもインムを嫌っているのだから、仕方ないか。


 帰りはずっと下りだったからか、日が暮れる前に家に着く事ができた。


「ユリス、今日は疲れただろう。汚い部屋だが、ここでゆっくり休んでくれ」


「はい、ありがとうございます」


 ユリスはうつむいたまま礼を言い、あてがわれた部屋に向かった。まあ汚い部屋って、俺がロジーさんちとこに来た時に寝ていた部屋なんだけどね。

 ユリスにとって、たった一日で寝る所も主人も、何もかも変わってしまったんだ。混乱するのはやむを得ない。今日はそっとしておこう。

 俺はニーアと部屋に向かう。

 ドアをしっかり閉めたのを確認し、ニーアが話しかけてくる。


「……まさか本当にインムを買ってしまうなんて……どうするつもりですか、これから?」


 うう……その場のノリで何も考えて無かったなんて言えない。


「あんなに大金をはたいて……軽はずみです!」


 うう……ニーア怒ってる、超怒ってる。

 口元を〝へ〟の字にし、腰に手を置いたお怒りのポーズだ。


「……私を買ってくれるんじゃ、なかったんですか?ご主人様……」


 今度は目を潤わせ、上目使いにそんな事を言う。

 うう……可愛い。俺も買いたかった。なんでこんな事に……


「だって仕方がないじゃないか、あのままの状態で放っては置けない!かわいそうじゃないか」


「それは……そうですけど……カナタさんはインムの恐ろしさを知らないんです」


 恐ろしい?あのか弱い少女が??


「例えば……あの娘が女のインムじゃなくて、男のインムだったら、同じ気持ちでいられますか?私がチャームで誘惑されるかもしれないんですよ?」


 男のインム?インムは女しかいない種族と聞いていたから、男のインムなんて考えもしなかったが……

 仮に男のインムだったら、ニーアをチャームで誘惑できる……本人の意思とは無関係に、性の虜にできる……

 イケメンのインム(♂)に寝取られるニーア……


「許さない!ぶち殺す!!」


 俺は思わず、声に出してしまう。

 ニーアは突然の大声に、びっくりしたらしいが、優しく微笑んでくれた。


「……私も同じ気持ちです。あの娘がいい娘であってもなくても、むしろ良い娘であればあるほど、危険なんです。怖いんです」


 なるほど……ニーアの気持ちもよくわかる。


「ですから、できるだけ早く、ユリスさんとお別れして欲しいんです。特に、チャームの制御が効かないなら、なおさらの事です」


 わかった。しかし……惜しいな。

 ユリスを解放した場合、大金を失ったあげく、ニーアもユリスも手に入らない事になってしまう。

 特に、夜の奉仕の権利を買っていないニーアと違い、ユリスは全部の権利を買っている訳で……その気になったら、色々する権利があるわけで……


「……やっぱり男の人はインムがいいんですか?私じゃだめですか?」


 ニーアが泣きそうな顔をして、こちらを見つめてくる。


「……もしユリスさんを解放してくれるなら……私……カナタさんがインムにしたい様な事は、なんでもさせてあげます。して欲しいご奉仕があったら、なんでもしてあげますから……」


 ニーアが視線をそらして恥ずかしそうに言う。

 全部!全部だと?!つまり夜のご奉仕の権利を無料で譲ってくれるという事だな。

 息を飲む、ニーアを見つめると、ニーアもこちらを向いて、無言で視線が交差する。


「やりましょう!」


 孫正義のごとく快諾する。前にもこんな事があった気がするが、気にしない。

 日本男子たるもの、インムの誘惑になど屈してはいけないのである。

 ニーアは紅潮しながらも微笑んでいる。


「だが、ユリスを解放するのは彼女の魔力暴走の問題が解決してからだ。さすがに今のままで別れるなんてできない」


「……はい……やっぱりカナタさんは優しいんですね」


「それまでは、ニーアの後輩のメイドとして置いてやって欲しい。ニーアの命令は先輩命令として絶対に守らせる。もちろんユリスに変な事はしない」


「はい。でもユリスさんとお別れするまでは、私のご奉仕はお預けですよ」


 むう……それは仕方ない。何としてもユリスの魔力暴走の問題を解決してやる。


「しかし……なんでもして良い……か。して欲しい事はなんでもしてもらえる……ごくり」


「いちおう夜伽はメイドの本来のお勤めですし……あ……あんまり変態的な事はダメですよ?」


「え~ニーアは何でもって言ったもん。あんなことやこんなこと、何でもするもん、させるもん」


「ちょっと~!それは言葉のあやであって……」


 ニーアは必死に弁明している。もちろんニーアの嫌がる様な事をするつもりは無いが、反応が可愛い。ついつい意地悪してしまう。


「何でもするって言ったもん。撤回するなんて、ルール違反だから、ルール神に言いつけてやる」


「……スクルド様は私の味方をしてくれると思いますけど……」


 は、そうだった。ルール神はあいつだった。忘れてた。


「……何かやる気無くなっちゃったな~自宅でも警備して過ごそうかな~」


 俺がわざとらしく呟く。


「……ああ!嘘です。私にできることなら何でもしてあげますから、やる気を失わないでください!普段のカナタさんに戻ってはダメです!」


 ニーアがあわてて条件を丸呑みする。

 しかし普段の俺って、どういう扱いなんだろう?


「……でも最初だけは、優しくしてください……そしたら……我慢しますから」


 涙目でそこまで譲歩してくれた。これ以上意地悪するのも可愛そうなので、この辺にしておく。

 ニーアの猫耳を優しく撫でながら言う。


「冗談だよ。俺はいつもニーアに優しいだろ?変な事は……ちょっとしかしないよ」


「うう……優しいですけど、意地悪です……それに、やっぱりちょっとはするんですね」


 ニーアは少し涙目のままつぶやいた。


読んでいただき、ありがとうございます。


ヒロイン二人目も奴隷になってしまいました。

奴隷に頼るのはここまでで、次はツンデレかチョロインの予定です。

明日、更新します。

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