ニンジャと泥棒猫
「ニーアはどんな職業に就けそうなんだ?」
「え~とね、ニーアちゃんが就けるジョブは、上級獣戦士だよ」
【上級獣戦士】
経験を積んだ獣戦士が就ける上位職、高い戦闘能力を誇る
森林戦を得意とし、また多くの部下を指揮する能力に秀でる
スキル 獣戦士(強) 夜目(強) 森林戦 部隊指揮
ペナルティスキル 無し
なるほど、ニーアの現在の職業である獣戦士の上位職業っぽい。
何よりペナルティスキルが無いのがいいな~
まずペナルティスキルに目がいく自分が悲しい。
「もう1つ、ニーアちゃんがカナタ君の眷属になったため、ニンジャという特殊職に就ける様になったよ」
【ニンジャ】
特殊職、特定の条件を満たした物が就く事ができる異世界の職業
情報収集、暗殺任務を得意とするが、スピードを生かした通常戦闘も得意
スキル 夜目(強) 運動能力up 偵察 収納 器用
ペナルティスキル 無し
ユニークスキル
【収納】
アイテムの保持数up
【哨戒】
危険を発見できる可能性が大幅up
【器用】
手先が大幅に器用になる。武器から医薬品等まで幅広く使用効果up
忍者ときたか、この世界にも忍者はいるのだろうか?
「あの、ニンジャって何なんですか?」
ニーアが尋ねてくる、ということは忍者はこの世界にはないのか。
「忍者ってのは、いわゆる密偵&軽戦士かな。いろんな術を使う俺の前の世界の職業だよ。しかし……よりによって忍者とはな」
「あたし使徒であるカナタ君の、その眷属であるニーアちゃんは、特殊な職業に就く事ができるようになったんだよ。あたしは職業の女神を兼任しているからね」
俺の眷属になったせいでニーアの選べる職業が変わってしまっしまい、異世界の職業(といっても忍者は現代にはいないが)を選べる様になったということか。
「……あの、カナタさんと同じ自宅警備士や自室警備士になることはできないのでしょうか?」
ニーアが意外な事を聞いてくる。自宅警備士になりたい、だと?
「はい、先ほどの戦闘で、カナタさんの自室内での戦闘能力は圧倒的でした。私も同じ職業にならないと、足手まといになってしまうと思うんです」
確かに自宅や自室での俺の戦闘能力は、それなりに高いが、それは過大評価だと思う。
それに、一家にニートが2人いるなんて、ちょっとした悪夢だ。一家に自宅警備士は、一人でいい。
「う~ん、それはどうかと思うな。カナタ君が強いのは自宅や自室だけだから、それ以外はペナルティスキルのせいで弱っちいし。どちらにせよ、可能性が無い職業には就かせてあげられないな。自宅警備士になるには、怠け者の素養がいるみたいだからね」
弱っちいと怠け者は余計だ。しかし、スクルドの言うとおりだ。
「じゃあ上級獣戦士とニンジャはどっちが良いと思います?」
うーん、ニーアに尋ねられて考えてしまう。スキルを見ている限りでは、まっとうな戦闘なら上級獣戦士、隠密活動主体なら忍者になるな。
「ニンジャはカナタ君の影響を受けた特別職だから、おそらくだけど上級獣戦士より強いと思うよ。普通は特別職の方が強いんだよ、自室警備士とか微妙な例外もあるけど」
いちいち一言多いな、このロリ女神は。だが言っている事は正しい。
それに魔王を倒す、というなら純粋に強さが重要だが、種族間の闇を消す、って任務なら、情報収集能力に秀でた忍者の方が良さそうだ。
「俺も忍者が良いと思う。ニーア、忍者になれ」
「はい、ではスクルド様、ニンジャにしてください」
「おっけーい」
スクルドが軽く答える。そうそう、こいつはこういう軽い奴なんだよ。
ニーアがジョブチェンジでニンジャになる。見た目は変わらないが、ステータスはupしたみたいだ。
結局、俺の職業は自宅警備士のままだが、一応新しいジョブにチェンジ可能な様にしておいた。自室警備士みたいに、必要になる可能性があるしね。まあ3つとも戦闘能力はかなり弱いから、ジョブチェンジすることはまず無いだろうけど、【賢者タイム】以外は、情報収集に使えるかもしれない。
「そろそろ行くか。新しい職業も決まったし(まともなのはニーアだけだが)、装備を整えに行こう」
「うん、でもその前に……ニーアちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど……」
「なんですか?スクルド様?私にできることでしたら何なりと」
「え~と、ちょっとでいいんだけど、猫耳をさわらせてくれない……かな?」
意外なお願いだ。スクルドが言いにくそうに言う。照れているらしい。
「はい、喜んで」
ニーアはにっこり笑って、小柄なスクルドの前にかがむ。
スクルドはゆっくり遠慮がちにニーアの猫耳をなでる。
「……これが猫人の生猫耳なんだね……わさわさ……」
「にゃん……スクルド様くすぐったいです」
スクルドは嬉しそうだ。「生猫耳」言うな!という俺のツッコミは誰も聞いていない。むなしい。
ニーアもまんざらではないようで、猫耳がピクピク動いている。
むう、あの猫耳をわさわさしていいのは、主人である俺だけのはずなのに……俺だけの猫耳なのに……
……まあニーアとスクルドが仲良くなって良かった。
「ありがとう、ニーアちゃん。猫人という種族を創造して良かったよ」
「どういたしまして、スクルド様。またいつでも言って下さいね」
「うん、今度はカナタ君の話でもしようね。カナタ君がいない時に」
「はい、ぜひ!できれば小1時間ほど……」
う~む、仲良くなり過ぎた気がする。
これ以上仲良くなると危険な気さえする。そろそろおいとましよう。
スクルドと別れ、神殿を後にする。
神殿からの帰り道で、俺はニーアの耳をわさわさと撫でる。
この浮気者!泥棒猫!じゃなくて泥棒され猫!
「むー、ご主人様である俺だけが耳をさわっていいって言ったのに……言ったのに……」
「ふにゃあん……あうあう……スクルド様は神様だから例外です。もう何で2人とも耳ばっかり……くすぐったいのに」
ニーアは困惑しているが、ちょっと嬉しそうだ。
「とにかく、今後猫耳を他の人にさわらせる時は、俺の許可を求める事!この猫耳は、俺のだからな!」
「はい、わかりました、わかりましたから~あう~」
もうセコンの町では、フードをかぶって猫耳を隠す必要も無い。だから遠慮なくわさわさしよう。スクルドがなで回した猫耳を、上書きするかの様に強くなで回す。
武器屋で装備を整える。まず防具を買いたい。ニーアがケガしたりしないように、良い物を買ってあげたい。
「防具を新調したいんだけど、ニーアはどんなのがいい?」
「そうですね、お金に余裕があるのであれば……私は軽い防具がいいですね。このチェーンメイルなんて良いと思います」
チェーンメイル、日本語では鎖帷子か。ニーアは知らないだろうが、忍者の防具でもある。何より太もも部分が網タイツっぽくていい。
「武器も買っておくといい。形見のシャムシールは予備の武器にすればいいよ」
武器も物色する。忍者刀が良いが、さすがに無いか。
短めのカタナがある。ツバの形状こそ異なるが、作りは日本刀とほぼ同じだ。コタチというらしい。小太刀の事だろうか?鎖鎌にたいな武器もある。どちらも忍者の武器として有名だ。
「ニーア、このコタチと鎖鎌はどちらがいい?」
「え~と、もしよければ両方使いたいです」
両方と聞いて驚いた。まさか二刀流?と思ったがそうではなく、両方買って状況によって使い分けたいらしい。
「別に安いから両方買っても良いけど、どこにしまうんだ?」
「スキル収納がありますから、アイテムはたくさん持てますよ」
試しにスキル収納を使ってもらったが、細身のこの体のどこに収納しているのだろう?と思うほど綺麗に収納しまってしまった。おそらくスカートの中に収納している違いない。いつか確かめてやる。肉眼でたっぷりと……
「他にも飛び道具とかも欲しいです。色々装備しないと、カナタさんの足手まといになりそうなので」
どうも前回の悪魔との戦闘のことを気にしているらしい。こんなに積極的に戦力になろうとしてくれるなんて。
「手投げ式のナイフが良いです。上手く使えそうな気がします」
忍者としての本能が武器を求めるのだろう。これは手裏剣のことだな。言われるがままナイフを20個ほど買う。
盾はいらないとのことだ。確かに盾を使う忍者なんて聞いた事が無い。
「そういや回復薬って持ってなかったな、何個か買っておこう、おやじ、このポーションを10個ほどくれ。
【ポーション】(情報強者でスキャン)
最大HPの30%を回復できる。1つ10ルーグ
【コタチ】
短めの日本刀風の片刃剣、室内用の暗殺剣としても使えるため、一般の刀より短く直刀。100ルーグ
【鎖鎌】
鎌に鎖と分銅を付けた武器。射程は長いが、使用には熟練が必要。 75ルーグ
【ナイフ】
戦闘用の小振りなナイフ。ちなみに手裏剣は星形が有名だが、実はナイフ型が主流。 1つ10ルーグ
【鎖帷子(女性用)】
鎖を編み込んだ軽量な防具。女性のボディラインにフィットする様に作られている。対斬撃防御 150ルーグ
俺も何か買っておくか。
剣はノートゥングで十分だし、ニーアが研いでくれたこの剣から乗り換えるつもりは無い。
盾もマクスウェルの盾で十分。というかこれより強い盾は売っていない。
よって鎧と兜を買う。とりあえず一番高くて高性能な鉄仮面と重騎士の鎧を買おうとしたが、重くて装備できない。
「……普段のカナタさんはかなり非力ですからね」
ニーアが何か不敬な事を言った気がするが、気にしない様にする。仕方が無いので軽い防具を探す。
【冒険者の兜】
中堅の冒険者が好んで使う兜 軽量だが高い防御力を誇る 180ルーグ
【鎖帷子(男性用)】
鎖を編み込んだ軽量な防具。女性用のと異なり、上に鎧の重ね着を想定したベスト風のデザイン。対斬撃防御 150ルーグ
安い、52万ルーグ持っている俺にとっては出費ですらない。さっきの服と合わせても2000ルーグ以下だ。
とはいえ、やっとまともな武具をそろえる事ができた。ようやく冒険者として一人前になった気がする。
読んでいただいてありがとうございます。
RPGで「ニンジャ」は変かと思ったのですが、ゲーム好きの友人曰く無問題との事です。
アメコミ風の、おもしろおかしい「NINJA」にならない様に、注意したいと思います。
次回も明日21時更新予定です。
タイトルは「綺麗なシャイアン、出撃す」