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自宅警備士、異世界へ ~ 救世主として異世界に召喚されたが、チートな勇者とかじゃなくて、ニートな自宅警備士だった~  作者: sinwa
第2章 闇の真相

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圧倒!伝説の自宅警備士(ニーア視点)

 私は悪魔の台座に登り、愛剣のシャムシールで悪魔の像を斬りつける。固い、私のシャムシールでは歯が立たない。

 助走をつけて斬ろうかと思ったが、動き回るにはドレスが邪魔だ。それにしても、なんと気味の悪い像だろう。


「ニーア、どいていてくれ」


 カナタさんがノートゥングを持って、台座に上る。

 両手で思いきり斬りつけているみたいだが、手応えはなさそうだ。そもそもあんなへっぴり腰で、本当に斬れるのだろうか?

 以前は重装甲の魔人を叩き切ったらしいが、実際の剣さばきを見ている限りは、とても信じられない。

 剣を振るっているというより、片手両剣バスタードソードの重みに、振り回されている気さえする。


「炎の悪魔って事ですから、氷結魔法で攻撃してみてはどうでしょう」

 

 ミルクの提案に従って、私は氷結魔法を唱えてみる。


ーー氷結魔法アイスストームーーー


 氷結の嵐が吹き荒れ、悪魔の像の台座が凍り付き、周囲に灯っていたロウソクが全て消える。

 何となくだが、ダメージを与えている気がする。


「うお、冷めてえ!」


 カナタさんもダメージを受けているらしい。巻き込まれない様に注意しているつもりだが、魔法防御力も低いみたいだ。

 ……本当に以前、魔人の電撃魔法を耐えきったのだろうか。


「そういえば、像を攻撃している事は、憑かれている本体にもわかるそうですよ」


 ミルクがとんでもない事を今になっていう。この妖精は結構いい加減かもしれない。


グオアアワツアアア!!!!!!!!!!!!!!

 

 突然、稲妻の様な咆哮が屋敷中の響き渡る。

 私ははっとして、方向がした方を振り向く。


 男が立っている。

 伯爵公だろうが、もはや人間としての原型をとどめていない。


 下半身はロバの様で、醜い。

 上半身は、熊の様に大きく、僅かに残る衣服が、それが元人間であった事を証明している。

 大きなヤギの角、それは頭から生えている。

 唯一、人間の形をとどめていたのは、顔だけだった。

 この世全ての苦悩を味わった様な顔、絶望の底の目。

 その目は、真っすぐに私だけを見つめている。


【悪魔ヴァフォエル】


 間違いない、あれは、もう人間という存在ではない。あの貴族は、この悪魔に身も心も乗っ取られたのだ。

 心の底から凍りつく様な恐怖を感じる。脚がすくむ、まるで蛇に睨まれたカエルみたいだ。まるで魅了されたかの様に、私は全く動けない。


「ニーア、こっちだ!」


 よく知っている人の声がして、左手を掴まれて強引に引っ張られる。カナタさんだ……そうだ、逃げなければ!

 でもどこへ?

 転がる様に廊下に飛び出し、そのままさっきの書斎へ向かって駈ける。


 再び稲妻の様な咆哮、解き放たれる暗黒魔法。

 その魔法の威力は、この屋敷の全員を殺戮してあまりある事は、容易にわかった。


ーー暗黒魔法ナイトメアデスパイヤーー


「かがめ!ニーア」


 カナタさんがそう言うや否や、私に覆い被さってくる。背中が暖かい。

 このぬくもりと共に死ねるなら、いいかもしれない、そう思った。

 最後の瞬間を噛み締める。


 だが奇妙な事に、そのぬくもりはいつまでも失われなかった。

 カナタさんは立ち上がると、私を抱える様にして再び走り出した。


ーー灼熱魔法インフェルノーーー


 再び悪魔が魔法を唱える。今度は灼熱魔法だ。周囲がたちまち灼熱地獄となる。

 私は直撃を受けなかったが、カナタさんは背中に火炎弾が直撃したはずだ。私たちは火だるまになりながら、倒れ込む様に書庫の扉を抜けた。


「カナタさん、大丈夫ですか!?」


 急いで背中の火傷を確認する。私をかばった背中の火傷と暗黒魔法は、死に至るもののはずだ。

 だが、カナタさんは、何事も無かったかの様に立ち上がる。


ガタン!!


 カナタさんの背中から何かが音を立てて落ちる。

 落ちたのは、魔人マクスウェルの外殻で作ったという盾だ。この盾を亀の様に背中に背負い、先ほどの灼熱魔法の直撃を防いでいたらしい。だが暗黒魔法は、どうやって防いだのだろう?暗黒魔法は、物理的に防げる魔法ではない。

 

「ニーア、奥で隠れていろ」


 真っすぐに悪魔がいる廊下の方を見つめながら言う。

 その声が鋭く、心に響く。おかしい、私がよく知っているこの人の声と違う。


ーー剣が小さい。不思議だ、あの片手両剣バスタードソードノートゥングは両手でも重そうだったのに、今は片手に収まっている。小さいくらいだーー

ーー背中が大きい。おかしい、この人の背中はこんなに大きかっただろうかーー


 ノートゥングを片手に、執事のスーツ姿で仁王立ちするその背中は、驚くほど頼もしかった。


 悪魔が扉をあけ、部屋に入ってくる。

 不思議と以前ほど怖いと感じない。


「俺の部屋に勝手に入ってくるんじゃねー!!」


 カナタさんが叫ぶ。

 悪魔も負けじと咆哮で答える。

 私は両者の絶叫に、思わず耳を押さえる。


「うるせー、俺の部屋で騒いでんじゃねー!!」


 立ち会いは一瞬だった。

 次の瞬間には、悪魔の丸太の様に太い右腕が、カナタさんがいた地面に突き刺さっていた。

 直撃を食らえばいかなる者でも即死だろう、私もカナタさんの死を覚悟した。

 ……だがカナタさんは既にそこにはいなかった。

 悪魔の背中から、血塗られた片手両剣バスタードソードノートゥングの剣先が見える。

 驚く事に、悪魔の一撃より更に早く、カナタさんは間合いを詰めて悪魔の懐にもぐりこみ、剣で悪魔の腹を串刺しにしていたのだ。


 信じれれないほどの速度……猫人である私の視力をもってしても、その動きを全く把握できなかった。


 カナタさんはそのまま身を翻し、剣ごと悪魔の巨体を投げ飛ばす。

 無数の本棚をなぎ倒し、壁に激突する悪魔。


 悪魔は壁にもたれたまま、呪文を詠唱する。剣はまだ腹に刺さったままだ。


ーー暗黒魔法ナイトメアデスパイヤーー


 絶望の闇が部屋を覆い尽くす。だがカナタさんは無造作に左手を突き出す。

 その左手に、闇は渦を描いて吸い込まれて行く。


「へへ、完全回復の上にMPまでもらって、悪いな。お返しだ!」


ーー雷撃魔法サンダーボルトーーー


 稲妻が悪魔を襲う。凄い、魔法の達人だってこれだけの雷撃魔法は使えない。しかも全くの無詠唱だ。


「倍返しだ、まだまだいくぞ!」


 カナタさんはそう言うと、雷撃魔法を連続で叩き込む。

 雷撃の嵐が荒れ狂う。腹に突き刺さっているノートゥングが避雷針の役割を果たしているのか、稲妻は全て剣を通じ、直接悪魔に注ぎ込まれていく。避雷針のおかげで威力は数倍に膨れ上がっているだろう。まさかそれを見越して、悪魔に剣を突き刺したままにしておいたのだろうか。


 勝てるかもしれない、私がそう思った瞬間、悪魔は再び呪文を唱えた。


ーー灼熱魔法インフェルノーーー


 しまった、この広範囲の灼熱魔法を使われると、たとえカナタさんが耐えられても、私自身が耐えられない。

 たとえ勝てたとしても、私は焼け死んでしまっているだろう。


ーー灼熱魔法インフェルノーーー


 カナタさんが魔法を使う。またしても無詠唱、しかも驚く事に悪魔が唱えてきた魔法と同じだ。

 正面からぶつかる紅蓮の炎と炎、こうなった以上、火勢の強い方、つまり詠唱者の魔力が強い方が勝つ。

 カナタさんの灼熱呪文は悪魔のそれを圧倒し、悪魔の炎ごと押し返す。

 自らが召喚した炎の、倍以上の業火に襲われ、悪魔は断末魔の叫びを上げる。炎の悪魔とはいえ、自分が出した数倍の炎には耐えられないのだろうか。この世のものとは思えない不快な叫び声だ。

 炎の中を、カナタさんが悠然と悪魔にむかって歩いて行く。

 さっきまでと違い、高い魔法防御力のため炎のダメージを受けないのだろう、とんでもないくらい、でたらめな強さだ。



「自室警備士は、自宅警備士の局地戦特化型ですから、こうなった以上、悪魔付きとはいえ人間に過ぎないあの貴族に勝ち目はありません」


 ミルクが言う。戦闘中は姿を消していたらしい。


「いったい、自宅警備士って何なの?カナタさんはいったい何者なんですか?」


「カナタさんは、女神スクルド様の大いなる力によって召喚された、伝説の勇者……ではなく伝説の自宅警備士です」


「伝説の……自宅警備士?」


 自宅警備の伝説など聞いた事が無い。


「そしてカナタさんは、スクルド神様の使徒です」


「使徒?スクルド神様の??」


「はい、大いなる使命をおびた、この世界の救世主と言って良い存在です」


 使徒、救世主……

 スクルド神様はこの世界でもっとも信仰されている神の一人だ。その使徒で、しかも世界の救世主だと?

 とても信じられない。


 突如、吹雪が巻き起こり、部屋中の炎を消していく。カナタさんが、今度は氷結魔法を使った様だ。悪魔は氷漬けになり、動きを止める。

 炎の悪魔だけあって、やはり冷却魔法には弱いらしい。だがあの魔法は……まさか……?


ーー氷結魔法アイスストームーー


 先ほど私が悪魔の像に使った魔法だ。だが威力は私のそれの数十倍。

 まさか……カナタさんを一度巻き込んでしまったが……あれだけの事で覚えてしまったとでも言うのだろうか?


 信じられない。この強さはもはや、伝説を超えて神話の域に達している。

 これだけ桁違いの戦闘力を見せられると、信じるしかない。

 あの人は、スクルド神様の使徒なのだと。


「自室内戦闘では無敵と言っていい自室警備士ですが、弱点があります。ニーアさんには、それを潰して欲しいのです」


「わかったわ。私にできる事ならなんでも協力するわ、でも一つだけ教えて欲しいことがあるの」


「……あの貴族の命を助けたい、命を助ける方法ですか?」


 私ははっとしてミルクの顔をみる。見透かされた?私の考えが。


「可能です。ニーアさんの協力があれば、ですが……」


 私は無言でうなずいた。


チート再びです。


>>自宅警備の伝説など聞いた事が無い


作者も無いです。

明日も21時に更新します。

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