ニーアとドレス(ニーア視点)
屋敷の廊下は長い。
屋敷はいったいおじいさまの家の何倍あるんだろうか。そんなことを考えながら、ニーアは黙ってシュリの後を付いて行く。
カナタさんから離れるのは少し不安だったが、こうなった以上は仕方が無い。それに、何としても同胞を救いたかった。
「こちらです、ニーア様」
なぜか様付けで呼ばれた気がした。メイド長であるこの人は、臨時とはいえ私の上司になるはずなのに、なぜ私に様を付けるのだろう。私の聞き間違いだろうか。
案内された部屋は、まるでお姫様のお部屋だった。部屋の内装の色合いは白とオレンジ色を基調とし暖かくてやさしい、天幕付きの大きなベッドは柔らかそうだ、小さいが華麗な個室用のシャンデリア、たくさんの動物のぬいぐるみが飾ってある。ぬいぐるみのおかげだろうか、なんとなく落ち着く。
ベッドや机に、見た事のある紋章が彫られている。あの紋章は……確か……
「ニーア様、こちらにお着替えください」
考え事をしているところに、声をかけられびっくりした。
……やっぱり様と呼ばれている。見ると、シュリさん以外に3人のメイドさんが、衣服やら串やら化粧道具やらを持って立っている。
私は彼女達に取り囲まれ、服を脱がされる。あれよあれよと言う間に丸裸にされてしまう。
「ちょっと……自分で着替えれます」
裸での抗議も空しく、今度はメイド達によってドレスに着替えさせられてしまった。下着まで代えられてしまった。
「たけ直しは必要ないみたいですね。お美しいですよ」
シュリさんが、私の髪をときながら、うっとりとして言う。
メイドが無言で大きな鏡を差し出す。気になってその鏡を覗き込むと、鏡の向こうにはまるで貴族のお姫様みたいな女の子がいた。
「綺麗……」
自分で言ってしまう。こんな華やかで高価なドレス、着た事が無い。ドレスのスカートの丈も長い。町一番の花嫁様だって、こんなに綺麗なドレスは着れないだろう。
何故だかわからないが、彼女達は私をお姫様姿にしてしまったみたいだ。
(ドレス姿、カナタさんは気に入ってくれるかな?でもカナタさんはいつもミニスカートばかり盗み見ていたから、ロングスカートとか嫌いかもしれない)
本人はこっそり盗み見しているつもりらしいが、視線は太ももばかりにそそがれていた。バレバレだったが、いまだに私に気付かれていないと思っているみたいだ。
そんな事を考えていると、シュリさんが話しかけて来た。
「旦那様は今は会議にでておられますが、夕食はご一緒されるそうです」
「あの、私、どうすれば?……お仕事はメイド、って聞いていたんですけど?」
「お気になさらずに。今日は、ただお食事をご一緒されるのがお仕事です。それまではゆっくりなさっていて下さい」
そんな仕事があるものか、どうも貴族というのはよくわからない。
だが、夕食まで時間があるのなら、自由にさせてもらいたい。
「あの、持ち物に短刀があったと思うので、返してもらえますか?あと、カナタさんのところに行きたいんですが」
「夕食時に預けていただけるのであれば、お返しいたします。……こちらです。しかし、ニーア様が使用人の所に行くのは関心いたしませんが」
やんわりと止められる。私はシャムシールを受け取って、
「カナタさんは私のご主人様です。それは今でも変わりませんから。用が無い限りはメイドは主人の側にいるべきだと思います」
私の抗議に対し、シュリさんは、あっさり承諾してくれた。
時間があるのならカナタさんに会いたかった。あと、ドレス姿も見てもらい。私は歩きやすい様にドレスを両手でつまみながら、主人のもとへ向かった。
初のニーア視点です。